恋は盲目なのね 6

 こいつの名前はアルフォート。とある町の雑貨屋の息子だ。冒険者として世界を駆け巡っていたある時、エルフに命を救われたことがあり、その恩返しということで例の派遣団に志願したようだ。


 ――それが、すべての間違いだった。彼の激しい後悔の念が流れ込んでくる。


 アルフォートがリーフに一目惚れされ、さらわれた……というところまでは合っていたが、その後の彼の認識は、リーフが語ったこととはまるで違うものであった。


 怯えるアルフォートを縛り上げ、自由を奪い、ひたすら自分の身の内を語り続けるリーフ。空腹になれば、栄養価の高い何かの実を口移しで食べさせられる毎日。それが1年続き、ようやくアルフォートは名前を聞かれ、答えることになる。

 そこからはひたすら、アルフォートが自分のことを語り続ける番となった。ある時、ようやく拘束が解かれるが、逃げ出す隙はなかった。少しでも離れれば、リーフの凄まじい力で抱き寄せられることになるからだ。腕や肋骨にひびが入ること数回。アルフォートの心身はじわじわと削られていく。


 そしてある時、ようやく助けが来た。

 世界樹の森の守護者たちは、例の派遣団から依頼を受けてアルフォートをずっと探していたのだ。同じ時期に消えたリーフの仕業だということはすぐにわかっていたが、高度な結界のせいでなかなか発見に至らなかったようだ。

 リーフは他の守護者の言うことにまったく耳を傾けず、彼らを問答無用で打ち倒し、アルフォートを抱きかかえて逃げた。

 小舟で海に出た二人。そこで愛の言葉をひたすら囁くリーフ。襲いかかる荒波、魔物よりも、リーフの狂気が恐ろしい。アルフォートはそう感じていた。

 リーフは自分の髪の毛で作ったリングを、無理やりアルフォートの左手の薬指につけた。


「ふふふ。これで契約成立。あなたとわたしは夫婦。これからもずっとずっと一緒。うふふふふ」


 これからもずっと一緒に?

 耐えられない。死ぬよりつらい。

 この大陸にたどりついたアルフォートは決意した。

 かつての冒険者時代に知った、禁じられた邪法を用いることを。


 それは、忘却の呪い。

 リーフの頭の中から、自分の記憶をきれいさっぱりに消してしまうのだ。


 呪いにかかっていたのは、リーフの方だった。アルフォートの名前が口に出せないのではない。忘れているから、口に出せないのだ。

 リーフの記憶が消えるにはかなりの時間が必要だと考えられた。想いが深すぎるからだ。

 そして何より、呪いをかけたことを知られてはならない。

 そこでアルフォートは“偽装”することにした。自分に睡眠の魔法をかけ、自分の内側(殻)に閉じこもるのだ。

 呪いと思った瘴気のようなものは、魔法の残滓だったようだ。


 リーフはアルフォートの思惑通り、必死に彼を目覚めさせるために行動した。まさか自分が呪いにかかっているなどと疑うことなく、ただひたすらに……。

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