第40話 瀕死の抵抗
【重複補助・極】の効果は、12回まで補助魔法を重複させられるようになること。だが、それだけではない。
12回目以降、同じ対象に補助魔法をかける場合、一度の詠唱毎にその時消費するはずだった魔力の元の5倍を消費することで、さらに上乗せすることができる。その次は元の25倍、次の次は125倍。次の次の次は625倍。
このように消費が増える条件が『一度の詠唱』だから、今の僕の場合は5倍ずつされる代わりに毎回6回重ね追加できる。
僕はこれに賭ける。
「シィ・スピダウン。……シィ、スピダウン」
救うことでいっぱいいっぱいの脳味噌の代わりに、はっきりと口で魔法を唱える。これで12回の重ねがけ。
ゴブリンは余裕そうに、再び跳ぶ姿勢をとった。
「シィ・スピダウン……!」
ゴブリンが跳ぶ姿勢を止める。こちらを振り向いた。信じられない、そんな表情を浮かべているような気がする。
「シィ・スピダウン……シィ・スピダウンッッッ!!」
今の僕の限界。計30回重ねのシィ・スピダウン。
ゴブリンの動きは遅くなった、とはっきり言えるくらいゆっくりになっていた。
頭の中が、吐きそうなくらいモヤモヤする。
<【特技強化・極】の効果が発動。
能力進化:【真・連続魔法】>
<【特技強化・極】の効果が発動。
能力進化:【真・高速魔法】>
<【特技強化・極】の効果が発動。
能力進化:【真・魔力節約】>
<【特技強化・極】の効果が発動。
能力進化:【抵抗貫通・改】>
<【特技強化・極】の効果が発動。
魔法進化:【ザ・スピダウン・デイ】>
ははは……すごいや。やっと究極まで一つの魔法を育て上げた。
能力もこんなにたくさん進化して……。
「ギガ……ギア……フ。……フゥッ!!」
あんなに頑張って魔法をかけたのに、ゴ・ゴッドゴブリンは少々ぎこちない程度の動きでこちらに向かってくる。もう克服しつつあるようだ。その表情は怒りに満ちていた。
やつの右手が鋼色に変化し、即座に燃やした鉄のように真っ赤になり、さらに周りの空間が歪み始める。おそらくは鉄魔法と重力魔法と爆発魔法、その他もろもろを自分の拳にエンチャントしたんだ。
死ぬな、もう。死んじゃうと思う。
なんならSランクの魔物の怒りを込めた本気の攻撃を受けるんだから、余波で猫族のみんなもかなり巻き込まれることになるだろう。
ゴ・ゴッドゴブリンが倒れている僕の目の前に立った。
……僕はやつにかけた補助魔法を全て解除する。
「ギ……?」
この局面でそれは奇行。ゴブリンもおかしいと思ったのか、一瞬動きを止め訝しげな表情を浮かべる。
そして僕は自分自身に『シィ・スピアップ』を計算せずかけられるだけかけ、とりあえず魔力を切れさせる。
狙いは【ネバーギブアップ】。魔力の一割が回復するこの能力が発動し……あれ、しない。
いや、違う発動しないんじゃない。
<【特技強化・極】の効果が発動。
能力進化:【ネバーギブアップ・改】>
<【特技強化・極】の効果が発動。
能力進化:【真・ネバーギブアップ】>
まさかの飛び級進化。僕の心を汲み取ってくれたんだろうか。
どうやら『改』だと二割五分、『真』だと半分の魔力が回復するようだ。つまり僕の魔力はたった今、1割ではなく半分回復した。
そう、僕は諦めてない。まだやれると自分を信じている。
まだ戦える。まだ、こいつをどうにかすることができると信じている。
「ギ……ギフ。フゥ。……ゴブ……ガ、ガー、フアアア!」
ゴ・ゴッドゴブリンは首を横に振ると、僕の目を真っ直ぐみて、拳を振り上げた。
強大にして凶悪な一撃が僕の顔に振り下ろされる。
そして、僕は死んだ。
はずだったと思う。ゴ・ゴッドゴブリンの予定では。
でも実際は拳を僕に振り下ろし始めた時点で、ゴ・ゴッドゴブリンの動きは止まってしまっている。いや、正確には止まって見えるというべきかな? 悔しくも。
「ギ………? ゴ、ブギアゴゴ……?」
「ごめん、何言ってるかわかんないや」
明らかに僕に問いかけてきていたけれど、人とゴブリンは専用の魔法がないと会話なんてできない。
僕にはもちろん、魔法が一種類しかないからそんなことできるはずがない。
ただ、ゴ・ゴッドゴブリンが悩んでる隙に【遅延発動】を用いて『ザ・スピダウン・デイ』を僕の魔力の限界スレスレまでかけておいた。そしてそれが今、発動しただけ。
<【特技強化・極】の効果が発動。
能力進化:【遅延発動・改】>
<【特技強化・極】の効果が発動。
能力進化:【真・高速詠唱】>
なんかまた獲得したけど、それは置いておいて。
とりあえず、まあ、こんな感じで強くなった喜びのおかげか頭が冴え、即座に頭を回すことができたんだ。そしてここまでやれた。
<【特技強化・極】の効果が発動。
能力取得:【不惑冷静】>
嬉しいけど、冷静だったってわけではないんだ。
いや、自分自身の投影である能力がそう判断したなら、本当はそうなのかもしれないけど。
「ギ……? ギグ……」
そろそろいいかな? ゴ・ゴッドゴブリンは存分にもがいてるみたいだし、力も溜まっただろう。
僕は横に転がって離れておく。魔力をなくすために速度を上昇させてるから、一瞬で穴の端までたどり着けた。
「グフ……?」
準備万端。
じゃあ、やろう。速度暴走を。
「魔法、解除」
「ゴ____________」
=====
(あとがき)
明日も午後6時と午後10時に二本投稿しますよ!
私の作品一覧から新作、【最弱の下に互角であれ】もよろしくお願いします!
(非常に励みになりますので、もし良ければ感想やレビューやコメント、フォローなどをよろしくお願いします!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます