第36話 はらぺこゴブリン

 なんなんだ、あの巨体は。他のゴブリンがみんな痩せていたのに対しこの恰幅の良さ。そしてこの漂う威圧感。間違いなくあいつがここのボスだ。


 体の所々にAランクの魔物、ゴゴッゴゴブリンの特徴が見られる。だからおそらくあれはそうなんだろう。ただ浮いていることや太っていることが異質すぎてぱっと見まったく別の魔物のように思える。


 太ったゴゴッゴゴブリンはただこちらを見つめているが、その焦点は僕に合っていない。いや、まるで眼中にないみたいだ。魔力も感知できないから敵対心もないみたい。

 ならば倒されてしまった仲間のことを思っているのかと思えば……どうやらそれも違うようす。なぜなら口から滝のようによだれを流し始めたから。


 グゥゥゥと大きな音が鳴ったかと思うと、太ったゴブリンは自分のお腹を慌てて抑える。そしてすぐさま手のひらをこちらに向け始めた。

 その瞬間、広場にあった食べ物達だけが次々と吸い込まれるように太ったゴブリンの下に集まっていく。


 あれは重力魔法だ。でも、魔法陣が出現していない。きっと僕と同じように【不可視の魔】を所持しているんだろう。

 加えて大半の魔物は元から魔法を詠唱しないから、あのゴゴッゴゴブリンの魔法は事前に予知することができない。


 たぶんあの浮いてるのも重力魔法によるもの。自分の体が重すぎて、魔法に頼らないと動くことができないんだ。

 

 そばに食べ物が集まりきると、太ったゴブリンは魔法を解いてそのばに座り込んだ。そして片っ端からむしゃむしゃと食べ始める。まさに暴飲暴食。あいつが自分の部下達の分の食料も奪っていたことは安易に想像できる。


 そうだ、こうしちゃいられない。猫族の人たちに逃げるように促さなきゃ……でもどこに? 森の中に入ったら生息してる魔物に襲われる。そしてここは森の中に偶然できた穴。どこに逃げても森の中。

 いや、だとしても、Aランクの魔物がいるこの場所よりは少なくとも安全だろう。



「皆さん、逃げて! Aランクです、こいつ……!」

「にゃに!? じゃあはやく逃げるにゃ!」

「しかし村の周囲は魔物避けのアイテムを埋め込んでるから大丈夫だが、ここらへんはそんなものにゃいぞ!」

「助けが来るまで隠れてればいいにゃろ!」



 みんな森の中に入っていく。先程の一言でそう決めたのか、深くまでは森に入らずこの近辺で息を潜めるつもりだろう。

 ゴゴッゴゴブリンの方を向き直すと、奴はもうかき集めた食べ物を食べ尽くしてしまっているようだった。かなりの量があったはずなんだけど……。


 ゴブリンは非常に満足そうな表情を浮かべたが、それも束の間。なんと再びお腹が鳴り出してしまった。そしてそれを抑える。

 自分のことなのにその表情は明らかに驚愕していた。どうやら自分自身でもお腹が減るまでの速さが想定外だったようだ。


 ゴブリンはあたりをキョロキョロと見回すと、今度はきちんと僕に焦点を当ててきた。そして手のひらをこちらに向ける。

 人肉食ゴブリンのボスが何を考えてこちらに魔法を放とうとしているかなんて一目瞭然だ。


 僕の身体がまるで落下するかのようにゴブリンに向かって引っ張られる。それと同時に僕は全速力で真横に走る。

 流石に六回分重ねがけしてある僕の速度魔法の方が強力だったようで、なんとか相手の魔法の範囲から脱出することができた。


 ゴゴッゴゴブリンはその場から動かないまま手の方向を変えて再び僕に魔法の照準を合わせてくる。しかしそれも先ほどと全く同じ方法で回避。

 今度は僕の方からゴゴッゴゴブリンに向けて『シィ・スピダウン』を限界までかけてやった。


 自分の異変に気がついたのか、ピタリと動きを止めるゴブリン。しかし、それからすぐに登場した時と同じようにふわふわと浮き出した。


 ……僕の魔法はたしかに一瞬で相手の動きを遅くできるから強いけど、弱点もある。

 まず普通にマイナス効果のある魔法に対して耐性を持っていたら効果が薄くなる点。これは補助魔法自体の弱点ともいえる。


 そして、身体の動きを遅くしても脳みそや感覚はそのままのため魔法は普通に唱えられてしまう点。

 しかしそれは本来なら、唱えられても魔法陣から出てきたものを遅くすればほぼ無効化できたも同然なので今までは問題なかった。


 だが、このゴゴッゴゴブリンの魔法は魔法陣も、発動した後も何も目に見えない。目に見えないからピンポイントで遅くすることができない。今の僕では対処が難しい。

 唯一の対処方法は自分以外の全てが遅くなるように常に範囲魔法を降り注がせること。ただそれをやると流石に魔力が尽きる。


 グゥゥゥゥと、一際大きな音が三度なった。しかしその音はさっきより一段階大きくなっているように感じる。

 ゴゴッゴゴブリンは焦ったような様子を見せると、そのままふわふわと浮いてこちらに向かって移動し始める。


 あれはおそらく十割近く魔法に依存した移動だから、あいつ自体を遅くしてるにもかかわらず動けるんだろう。

 もしかしたらマイナス効果を軽減させる能力もあるのかもしれない。いや、そもそも相手はAランクだしあって当然か。

 

 ゴブリンはそのまま僕の真上まで移動してくると、おそらく魔法を解除した。自分の体重で僕を押しつぶそうとして。

 無論、落下してくるより僕の速さの方が速いため難なく回避できた。けれど太ったゴブリンが落ちた衝撃により地面は揺れ、ひび割れる。


 ……遅くされてなお魔法と自分の体を駆使して攻撃を仕掛けてくる。やっぱりAランクにふさわしい強さだ。一筋縄じゃいけない。

 僕の脳裏に、昔本で読んだ「CからBより、BからA。Aランクから魔物が急激に強くなる」といった一文が浮かんでくる。

 ああ、実際その通りのようだ。






=====

(あとがき)

※明日も午後6時と午後10時の投稿です

そして、以下、新作を投稿するという報告です!

そうです、明日、またまた新作を投稿します!


【最弱のもとに互角であれ! ~呪われてレベル1のまま成長できなくなった俺の、最高のダンジョン巡り生活~】


 というタイトルの作品です。

 以下、軽いあらすじを。


 ダンジョンが自然に生成される世界。

 成り上がることを夢見て田舎から上京した主人公の少年は、ダンジョンから持ち出された禁忌の宝箱、『パンドラの箱』を意図せず開けてしまい呪われます。その呪いによってレベルは永遠に1のまま、ステータスも成長することがない上、魔法と攻撃系の技を一切覚えることができなくなってしまいます。


 その呪われた当日、少年が今後どうしようか路頭に迷っていたところ、偶然、似たような境遇に立たされていた少女を救うことになります。


 少年と少女は今後のことについて相談していく中、『パンドラの箱』の中に入っていた『能力の札』というアイテムに注目します。このアイテムは使うことで自分に能力を付与できる宝具で、彼らが手に入れた札の中には『強制互角』という能力が入っていました。


 『強制互角』の能力は、当人のステータスと敵のステータスを全く同じにするというもの。呪われて最弱になってしまった少年はこれを習得し___。


 といった内容です。

 投稿時間は明日の午後6時に1~2話、午後11時に3話、午後12時に4話目を投稿します。

 この投稿スパンは私の実験を兼ねたものとなっております。

 

 それ以降は1日2話投稿(午後6、11時)を3日間続け、その3日間が過ぎたら1日1~2話投稿にするつもりです。

 また、本作は今までと違って私が登録している小説投稿サイト全てに同時進行で投稿していこうと思います。


 それでは私の最新作を、今までの作品共々よろしくお願いします。



……私、これでこの作品と合わせて今、4作品同時投稿になるんですよね!!

そして今まで一作品もエタッてないんですよ。もちろんこの4作も全部同時並行で投稿を続けます。

誰か褒めてくれてもいいんでござるよ|ω・)



(非常に励みになりますので、もし良ければ感想やレビューやコメント、フォローなどをよろしくお願いします!)

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