第17話 ひとりだち

「それでは、息子をよろしくお願いします」

「はい、責任を持って息子さんはお預かりします」

「ゔぁあああああ、ギィくぅぅぅんん!」

「おにいちゃーーー!」



 スカウトを受けてから一週間。

 僕は『ブレーメン』に所属することに決め、僕のギルドマスターとなるマルクト・ローランドさんの馬車で王都まで送ってもらうこととなった。



「こら、二人とも泣かないの……!」

「ママだって泣きそうだけどね」

「すいません。うちの女性陣が騒がしくて」

「それほどこの子のことを大切にしてきたということでしょう。素敵なことです」



 あの日、僕をスカウトしに来た人全員との面接を計6時間ぐらいかけてしたのだけれど、どうにも、最後まで僕と同じ考えであるこの人のギルドのことが忘れられなかった。

 それが決めてと言っても過言ではない。国内での序列が5位というのももちろん大きい。


 無論、三十位以上だけど態度が粗暴で絶対に行きたくなくなるようなところもあったし、下位や新設されたばかりだけどかなり良さげなギルドもあった。

 一応、ちゃんと全部ひっくるめて考えたんだ。


 でも、こうしてギルドマスターが本当はする必要がない家族への顔見せをしてくれるあたり、やっぱり『ブレーメン』に決めて正解だと思う。

 マルクトさんは『赤ずきん』のマスターのスワロさんから、僕の所属が決まった後、「クロックス家はかなり家族愛が強いから、安心させるためにも顔を見せておいた方がいい」と事前にアドバイスを受けたらしい。



「ギィくん、頻繁に帰ってきてね……?」

「うん、二ヶ月に一回くらいの頻度で帰ってくるよ」

「ああ、そうだギアル。最後にこれを持って行きなさい」



 お父さんはポケットから一枚のチケットらしきものを取り出して、手渡してきた。

 お父さんの仕事場の図書館のハンコが押されている。



「それは王都の国営大図書館の年間入場券の半額チケットだ。どうせ足を運ぶんだろう、持っていきなさい」

「わぁ! ありがとうお父さん!」



 とてもいいものを貰った。

 僕は積んである鞄の一つにそのチケットをしまう。



「じゃあ行こう、ギアル。……それでは」

「じゃあね、みんな。元気で」



 僕とローランドさんはウチの玄関を出た。まだお姉ちゃん達の寂しそうな声が聞こえる。

 止めてある馬車に二人で乗り込み、すぐに王都へ向けて発車した。すぐにローランドさんが話しかけてくる。



「それじゃ改めてよろしく、ギアル。俺のことは今後、マスターかギルマスとでも呼んでくれ」

「了解しました」

「でも本当によかったのかい? お姉さんと一緒のギルドにしないで」

「……ええ、この街じゃ僕の夢を叶えることはできませんから」



 そういうとマスターは、あの日僕をスカウトした時のように微笑んだ。



「どんな夢?」

「この国、果ては世界で、最強と呼ばれる存在になることです」

「……ほー。君はそんな野心家には見えない、どちらかというと大人しそうな子だけど、熱いものを秘めてるんだね」

「はい」



 おそらく僕はこのギルドに長くお世話になる。

 必要だと思い、僕はその夢を抱いた経緯も話した。



「なるほど、逆境に立ったからこそ燃える……。やはり熱い。俺は不可能じゃないと思うな」

「ありがとうございます」

「ところで一つ聞きたいんだけど、ギアルは『大魔導師』の魔法一種、能力二つで間違いないんだよね?」

「はい」

「……試験の時は二試合とも明らかに二つ以上のスキルを使っていた。今、いったい幾つの能力があるんだい?」



 僕の能力はお姉ちゃんにメモしたものを見せた時からいくつか増えている。

 その都度書き足していってるけど、ちゃんと数えてはいないな。直接見せたほうが早そうだ。



「メモしてあるんですよ。ご覧になりますか?」

「えっ、あんまりそういうのって人に見せない方がいいと思うけど……。いや、でも君に限っては知っておいたほうがいいかもしれない。他言は絶対にしない、見せてくれるかな?」

「いいですよ、全然」



 僕はメモを見せた。

 マスターは一瞬驚愕したような表情を浮かべてから、すぐにそれを返却してくれる。



「……魔導剣聖に余力を残して勝ててしまうのも当然といえば、当然かもしれないな……」

「恐縮です」



 それから僕たちはお互いの親睦を深めるための他愛もない会話をしたり、冒険者になってから心がけるべきことを教えてもらったりしながら馬車の中で揺られた。

 そしておよそ一日が経ち、馬車は王都へたどり着いた。

 王都へは単に旅行だったり、お姉ちゃんの様子見だったりでかなり頻繁に来ていた。いつも家族揃って訪れていたから、一人で来るのは初めてではあるけど、特に目新しいことはない。



「たしか、何回も来てるから街の案内は必要ないんだったね。馬車にはこのままギルドに直行してもらうけど、いいかな?」

「はい、お願いします」



 やがて、馬車はギルド『ブレーメン』にたどり着く。レンガと木材でできた素朴だけど存在感がある建物。とんがり屋根の頂点には緑色の風見鶏。ここが、僕の過ごす場所。僕の最強への道……!

 



==========

(あとがき)

次は午後10時に投稿します。


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