天の川を泳ぐ願い
『お魚』というお題を貰って書きました。
◆
「みなさん、短冊にお願い事は書けましたか?」
僕は物心ついた頃から、魚が大好きだった。
食べるのはもちろんのこと、魚という存在そのものにとても魅力を感じていて、ただひたすらに魚を眺めているだけでも心が満たされたものだ。
「ねえねえ、なんて書いたの?」
あれは小学校一年生の頃だったか。
七夕の日、クラスのみんなで短冊にお願い事を書くといったイベントがあった。今にして思えば、習いたての平仮名の練習を兼ねていたのだと思う。
「魚になりたい」
周りが『宇宙飛行士』だの『野球選手』だの『お花屋さん』だのと子供らしい夢をにする中、魚好きの僕はそんな願いを口にしていたと思う。周囲にからかわれてもなお、小学校中学年くらいまで僕は『魚になりたい』という夢を語ってきた。
魚のように、自由気まま海や川を泳ぐことができたらどれだけ気持ちがよいだろう。優雅に泳ぐ魚の群れの中に入ることができたら、どれだけ素晴らしいだろう。
「話って、なに?」
思春期を迎えた頃には、大っぴらに『魚になりたい』だなんて言うことはなくなった。だがしかし、僕の魚好きは依然として変わりない。バイト代を貯めてアクアリウムを始めてみたり、水族館の年間パスポートを買ってみたりと、むしろ以前より興味は増しているかもしれない。
「好きです。付き合ってください」
人並みに異性も好きにはなったが、魚以上かと言われれば微妙なところだ。女の子に『趣味と私どっちが大事なのよ』などと言われた日には、『魚だよ』と即答してしまうかもしれない。
それほどまでに、僕は魚が大好きだ。
魚になりたい、だなんて願いを短冊に込めるほどに。
幼少期に短冊へと込めた願いは、織姫と彦星に届いたのだろうか。
もし届いていたのならば、一言だけ言わせてほしい。
「ごめん。私、魚顔の人、ムリなんだよね」
その願いは、叶えなくてよかったです。
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