第八十七話 そして時は動き出す

 時計の針は、時に残酷なほど速いスピードで進んでいく。無慈悲な事に、針を戻しても、もうその瞬間に戻ることは出来ない。


 ついさっきまで、守はマウンドで命がけの戦いをしていた。全身から溢れるアドレナリン、身体のオーバーヒート。

 バッター、一人一人と闘っていた時は自分の世界に入っていた事もあり、とても時間はゆっくり進んでいた。

 だが、守がマウンドを降りた途端、そのゆっくりした針が急激にスピードを上げ始めた。

 

 一塁を駆け抜けた神崎は打球がフェンスの奥に消えたのを確認し、右腕を高く上げていた。同時にマウンド上の氷室は顔を伏せ、しゃがみ込んだ。


 守は様々な感情が自分の中でぶつかり合いながら、目を逸らさずに神崎の姿を見つめていた。この悔しさを一生忘れないかのように。


 二塁ベースを回ったところで、一瞬神崎と山神の目線が合った。だが直ぐに山神は目を伏せた。それを見て神崎は前を向き直し、ダイヤモンドを一周した。


 神崎がホームベースを踏み、皇帝のスコアに4の数字が叩き込まれた。


 観客席からは変わらず歓声が飛び続けている。明来側も応援はしているのだろうが、その声援に、完全にかき消されている。


 守は堪らず天を仰いだ。


 ――そして。




「整列!!」




「六対一で皇帝学院! 礼!」




 守たちの、初めての夏は終わった。



 試合終了


 明来 一対六 皇帝学院

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