第十一話 意識低い系

 皇帝との練習試合当日。

 両校の選手が、それぞれ試合に備えてアップを行なっている中、皇帝学院高等学校の野球部監督、長島ながしまが上杉に握手を求めていた。


「ご無沙汰しております、上杉監督」


「おはよう長島君、わざわざ明来まで来てもらって悪いね。今日は一年生チームかな?」


 上杉も応える様に右手を出し握手した。


「はい。失礼なお話で申し訳ございません。この時期は例年、皇帝のグランドでは二、三年がチームを組んで練習試合を組んでおりまして」


「なるほど、二、三年はそこでレギュラー争いをしてコーチにアピール。一年生の掘り出し物は監督自ら発掘ということだね」


「はい。さすが上杉監督、その通りです。一年生でもすごい能力を持った子はいますので」


「たくさん一年生がいるから、可能性は高いだろうね。去年の太刀川君なんて正にそうだ」


「はい。ちなみに今日は太刀川も連れてきています。試合には出さない予定ですが、彼にもチェックをお願いしてあります」


 ――そんな監督二人の談笑をよそに、皇帝メンバーは淡々とアップをしていた。東雲と神崎は横並びでブルペン投球をしている。


「東雲の言う通り、明来のマネージャー、メチャクチャ可愛かったぞ」


 皇帝のキャッチャー若林わかばやしが、返球しながら東雲に話しかけた。


「だろぉ? だが残念だったな若林。アイツは俺に惚れてっから」


 東雲はドヤ顔全開で、若林にボールを投げた。


「嘘つけ! 東雲、お前さっき声かけてた時、完全にスルーされてたじゃん」


 若林がボールを投げ返す。


「お前、なーんもわかってねーな。これだから非モテは困るぜ。いいか? 女ってのは気になる男には冷たく接するんだよ」


 東雲がボールを投げる。


「なぜだ! 俺には理解できん!」


「恥ずかしいからに決まってんだろ? ツンデレって奴だよ。少しは女性心理ってのを勉強しろよな」

 

「なるほど、あれが伝説のツンデレってやつなんだな! 実在するとは……。東雲先生、励みになります!」


 他の部員が各々、黙々とアップをしている中、明らかな場違い感を出す二人。声も大きく、当然周りのメンバーにも話し声が聞こえている。


「お前ら、さっきからなんの話をしているんだ! 監督と太刀川さんに報告するぞ」


 東雲の隣ブルペンに入っている神崎が痺れを切らし、注意を始めた。


「うわっ出たよ正義マン。お前には縁遠い、女の話だよ。明来の女マネとヨロシクしてーってな。うぜーから邪魔すんなよな」


 東雲は邪魔者を振り払うかの様にボールを投げた。


「こ、この大事な試合前に色話とは。し、しかも対戦相手のマネージャーだと、不埒ふらちだ!」


「うっせーな。オメーも瑞穂の顔見てみろよ。俺らの気持ちが分かるかもよ?」


 東雲はグラブの先で、明来ベンチにいる瑞穂を指し示した。神崎の顔を覗くと、赤くなっているのが一目でわかった。


「ヒャハハ、顔真っ赤じゃねーかよ、このムッツリ野郎! 試合前なに興奮してんだよ」


 東雲が腹を抱えて笑っている。神崎はサッと顔を瑞穂のいる方から避け、咳払いをした。

 

「集合!」


 太刀川の呼びかけに、皇帝メンバーが猛ダッシュで応える。


「ほらいくぜ、ムッツリ野郎」


 東雲は笑いながらベンチまで走り出した。

 神崎は平手で顔をパンと叩き、太刀川の方へ向かっていった。

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