第2話 杉山

 僕の初恋は小学1年生。


 入学式当日、母さんが僕に蝶ネクタイを付けてくれた。いつもテンションが高い母さん。今日は更に高い気がする。小学校ってそんなに楽しいところなのかな……


 そうこうしているうちに、学校に行く時間になった。


 「小学校って庭が広いんだな……」

 

 校庭を眺めていたら、カールした髪の毛の背の低い女の子が僕の前を横切った。その子は、お父さんと手を繋いでいたが、女の子のほうが先を歩いていて、お父さんが引っ張られている感じだったのが印象的だった。


 体育館で校長先生の長い話が終わり、担任の先生の紹介をした後に、クラスが発表された。


 (1年2組か……)

 

 クラスに行くと、さっきのカールの女の子も同じクラスだった。

 僕の名前は伊藤たつき。

 カールの子は杉山なぎさというらしい。

 座席は名前順だったので、杉山さんは僕の斜め前に座っていた。

 僕はよくわからないけど、その子の事を目で追いかけていた。



 学校にも慣れてきたある日の算数の授業。

 算数は幼稚園の頃から4歳上の兄貴が教えてくれていたおかげで得意分野だった。


 (足し算なんて楽勝)


 心の中で呟いていた。

 ふと、杉山さんのことが気になって様子を見てみた。

 

 (あれ、杉山さんさっきから動いてない…… ノートの一点をずっと見つめて口がへの字型になってる)


 その時、先生がいきなり僕の名前を読んだ。


 「伊藤くん、杉山さんにさっきの問題の解き方を教えてくれるかな」


 僕は、杉山さんと話したこと無いしびっくりして、思わず頷いた。



 (杉山さんって、算数が苦手なんだ。入学式の時、自分のお父さんをリードしてたからしっかり者なのかと思ってたけど、可愛いところもあるんだな。)




 「足し算がわからないときは手を使って数えるんだよ」


 僕がそう言うと、さっきまでへの字口だった口角が上がり、ニッコリとはにかんだ笑顔になっていた。



  僕は杉山さんが醸し出す雰囲気がクラスの他の子と違っていて気になっていた。


 ある日、母さんが買い物から帰ってきて僕に言った。


 「さっき、スーパーに行ったら、たしか同じクラスの杉山さんに会ったわよ。杉山さんお父さんと一緒に買い物してて、目があったらにっこり笑って挨拶してくれたわ。」


 「ふ~ん。そうなんだ。」


 僕は興味がないフリをしながらゲームしていた。

 

 「でも、お父さんが買い物しているなんて珍しいわね。うちなんてパパが買い物してくれたこと一度もないのになぁ」


 母さんはそう呟いて、夕食の準備を始めた。


 (そういえば、杉山さんっていつもお父さんと一緒にいるイメージがあるな。この前も車で杉山さんのお父さんが小学校に迎えに来てたし)


 次の日、僕は杉山さんに話しかけてみることにした。


「杉山の家はいつもお父さんが買い物しているの?」


 うちの父さんなんてスーパー行ったことないから、うちの母さんが羨ましがってたよ……。 続けてそう言おうとしたけど、杉山さんの表情が少し暗くなった気がして言うのをやめた。


「お父さんと買い物に行くのが好きなんだ……」


 




 

 それから、しばらくして保護者会があった。母さんは家に帰って来てまた、杉山さんの話をしてきた。


 「杉山さんのお母さんって中国の方みたいね。他のお母さんと違って、見た目は落ち着いてる感じなのに、質問とか意見をしっかり発言する人だったから、私関心しちゃってさ」


「ふ~ん。そうなんだ。」


僕は相変わらず興味がないフリをしていたけど、また気になってきた。


 (杉山さんは算数は苦手だけど、おしゃべりが上手でいつも色んな人と楽しそうに話している。しっかり者の雰囲気は杉山さんのお母さん譲りなんだろうな)



 次の日、杉山さんに質問してみた。


 「杉山のお母さんは中国人なの?」


 「うん、そうだよ。ごめん、私次の授業の準備しなきゃ!」


 そう言うと杉山さんは慌てて、お道具箱の整理を始めた。これ以上聞くなと言わんばかりに。




 (やっぱり、杉山さんって不思議な人だな)



 


 




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