外伝〜《勇者(偽)と勇者(真)その2》アリアさんの恋〜
「ーーということがあったんですよ」
「なぜ止めなかったのですか!」
ボカン!
痛い!!! アリアさんなんで殴るんですか!? ……まぁ、理解はできますけど! できますけど酷い!!!
「でも、王都にあるという事実がわかったのは良かったです。今、彼の存在はその……面倒くさい存在ですので、さっさと捕まえて異世界へと送り返しましょう」
アリアさ〜ん、あなたは天然のSですね。でもたまにツンデレがあるからS気質の高圧自己中ツンデレ女騎士……この人属性いろいろ盛りすぎだろ。
もうお腹いっぱいだな。
「あ、そうだアリアさん。俺3日後には村に帰る予定ですので先をお別れを言っておきますね」
「……え? あの、ちょっと待ってください。モブさんが帰るって、どういうことですか?」
俺がお別れの言葉を言おうとしたが、アリアさんが珍しく戸惑っていた。ふっ、しょうがないなぁ、おバカなアリアさんに俺が説明してや……痛いです!
頭をつかまないでください!!! 脳が……潰れる。
アリアさんに頭を掴むのを離してもらい、俺は説明をしだす。本来のアリアさんならこれぐらいすぐに理解するはずだが、勇者(真)が現れて動揺しているのだろう。
「え? だって世界を救った勇者(偽)がいつまでもいては不自然ではありませんか。ですので異世界に帰ると言う体で村に帰るんですよ。でもどうせなら勇者(真)を異世界に実際に帰らせる方が実感が湧きやすいですし、勇者(真)を捕まえて異世界に送り届ける。俺はその間に村に帰ってひっそりと暮らす……完璧じゃないですか」
「全然良くありません!」
アリアさんが机をバンと叩いて反論してきた。あれ、なんで……?
「……と、とにかくです! ……そう、エミーリオお嬢様を悲しませるつもりですか!?」
くっ! この人結構痛いところを突いて来やがった!
「う〜ん、たしかに悲しいですけど……」
「そうでしょうそうでしょう! ですからーー」
「でも、王様は俺を村に帰らせたいそうですよ?」
「ちょっとあの豚斬ってきます!」
「ちょっ、アリアさん! エミーリオが悲しみますよ!?」
剣を手に取り王様の元へ向かおうとするアリアさんを抑えるのに、俺はとても苦労した。
アリアさんを止めて落ち着かせてから、改めて王様へと勇者(真)がいたことを伝える。
兵士に命令でもして探させたいが、俺がいるせいでそれはできない。
さらに勇者(真)は己の姿を隠しているはず。よってあの時みたいなハプニングでも起きない限り、見つけることは困難だろう。
……さて、どうするか……。
「……モ〜〜ブ〜〜くんっ!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!! ヘルティス!? お前のせいで心臓が止まったら恨むからな!?」
「えぇ〜、普通に話しかけてるだけなのなぃ〜。でも、モブくんが死ぬ時は」私も一緒だよ♪」
「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
***
ヘルティス(裏ボス)との会話(と言う名の拷問)を終えた俺は、ヘルティスの意見を頭に思い浮かべる。
『勇者の偽物が王都を彷徨いている。魔王軍の残党の可能性があるので、見つけた場合は報告だけしてほしい』
ヘルティスは王都中にこの噂を広めるように提案して来たのだ。勇者(真)とて人間。物資などを調達出来なければ死ぬ。
現れたとの報告を受ければ、そこに俺とアリアさんとヘルティスが向かう。
勇者(真)を捕まえ、異世界である日本という国に返す。んで俺は勇者(真)と入れ替わり、勇者返還をしている間に城を抜け出しておさらばだな。
うん、結構完璧じゃね? これなら穴なんか見つかりっこないな(フラグ)!!!
その夜、アリアさんとヘルティスが城の外のとある居酒屋に行ったらしい。
まぁ、仕事の愚痴とかだろうな! もちろん俺の愚痴ではないだろう。俺が愚痴を言われるようなことなど一個も無いし!
あーーーっ! 夜の街行くの忘れてたぁぁぁぁぁっ!
コンコン!
扉を叩く音がしたので出てみると、にっこりと笑顔で怒ったエミーリオが目の前に立っていた。
「勇者様、なんでお部屋に来てくださらなかったのですか!」
あ、色々あって忘れてた。この後に罰と言われ、俺の部屋のベッドで添い寝するように命令された。
王族からの命令をただの村人が断れる訳ないじゃん! だから俺はロリコンじゃなぁぁぁぁぁっい!
ちなみに、起きたらアリアさんに「ロリティーブ」と呼ばれたことはまた別のお話だ。
***
「聞いてくだしゃいよヘルティしゅ〜!」
「分かったからアリアちゃん、少し落ち着いて水でも飲んで。ほ〜ら」
「わたしは酔ってましぇ〜ん!」
アリアとヘルティスはとある居酒屋に来ていた。『
ここはそんな人たちのために作られた、特別な居酒屋だった。
「モブしゃんがぁぁぁっ! モブしゃんがぁぁぁっ!」
「モブ君がどうかしたの?」
アリアはひたすらモブの名前を叫んでいた。ヘルティスも不思議に思い尋ねた。
「……うぅ、村に……帰るそうです。……ヘルティス? ……ヘルティィィィィスッ!!!」
アリアの一言を聞き、ヘルティスは倒れた。モブがいたなら多分ちょっとだけ……いや、結構喜んでいる場面だった。
「ふぅ、危なかったわ。……それで、さっきの発言はどう言う事なの?」
「勇者(真)がいたらしいんでしゅ! それで向こうの世界に返す時に、モブしゃんもついでに村に帰るらしいんでしゅよ! 帰ったはずの勇者がいたらおかしいからって! ひどい! ひどいでしゅよ!」
机を両手でバンバンと叩きながら、アリアは愚痴を零す。
「……なるほど、王様がモブ君をエミーリオお嬢様から遠ざけようとしているのね」
「全くあの豚死ねば良いのに!」
「否定はしないけどエミーリオお嬢様が悲しむからだめよ。ところでアリアちゃん、何であなたはモブ君が帰るのが嫌な理由って……やっぱり、モブ君のことが好きだから?」
「ふぇっ!? しょ、しょんなことありましぇん! ありえましぇん!!! わ、私がモブしゃんの事を好きになるなんて、あってはならないことなんでしゅっ!」
ヘルティスのアリアの心の核心を突く質問に、アリアは思いっきりテンパりながら答える。その顔は真っ赤に染まっていた。
「そうなの? で、どこが良いのかしら?」
「そりゃあ確かにエッチですし、考えはゲスいですよ。でも、兵士一人一人のために、自分ができる可能な限りみんなを守ろうとしてた所とか〜。ミノスとの戦いの際、自分が殺されるかもしれないのに、1人で堂々とタイマンを挑みに行ったときの顔と覚悟とか〜。変態なくせに、つい良い雰囲気になったらチキる童貞臭い反応がもう可愛くてぇ〜」
「あんたも処女よね?」
「それは良いんでしゅよ! 処女は貴重だって聞きましたから! …………って、なに言わしぇてるんでしゅかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
アリアが自爆した。
「へぇ〜〜〜〜! アリアちゃんったら、こんなにエロい体していて純情なんだぁ〜〜!」
「うう、うるしゃぁぁい! 私はモブさんの事などなんとも思っていない! モブさんは、その……ただの友達だ!」
「でも、モブ君とそんな関係になりたいでしょ?」
「わ、私にはまだ、そんな関係は早すぎる!」
「まだ……ねぇ。しかも否定はしない……。アリアちゃんったら本当に可愛い〜〜!」
「う、うるしゃぁぁぁぁぁぁぁぁいっっっ!!!」
そして翌日、勇者(真)が捕まったとの知らせが入った。
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