魔王軍幹部の襲来、勇者(偽)逃亡
あぁ、いい天気だ。そう思い顔を上にして空を見上げる。今日は非常に雲が少なく、青々とした空が見え、快晴に恵まれていることが分かる。
まるで自分を祝福しているようだと俺は考えた。
「ーーーん、ーーさん、ーブさん! モブさん!」
「え? なんですか?」
俺は自分の名前を急に大きめの声で呼んだアリアさんにそう問いかけた。
「現実逃避はやめてください。魔王軍の幹部が攻めてきたんですよ! あなたは最前線で立っているだけでいいんですから、さっさと武器や武具を装着してください!」
アリアさんはそう言って勇者の聖剣(ただし偽物)を渡してくる。
俺はそれを受け取りながら、防具をつけた。しかし、アリアさんが無理やり俺の装着した聖武具を脱がしていく。
やめ……じゃなくて、もっとやれぇぇぇぇぇっ!!!
慌てて理由を聞くと、俺の付け方がぐちゃぐちゃだったかららしい。
いや、まず俺聖武具の付け方習ってないからね!? 兵士用のと全然違うし! ……あぁー!!! だから装備を装着した時王様とか笑ってたんじゃん!!!
「最初に教えてくださいよ!」
「黙れ」
「はい」
アリアさんは機嫌が悪そうにそう言う。……いや、気分が悪そうに見える。
だがそれは、魔王軍幹部が現れたせいだろう。おのれ魔王軍め!!!
結果、時間を大幅にロスしたが、俺は魔王軍の幹部と戦う準備ができた……ように見える。
この時、俺は普通に安心していた。俺はただ勇者の代わりとして、前線で存在しているだけで士気を上げるような、いわば国旗みたいな感じの認識だった。
だが、この後の展開のせいで認識は崩れ去った。
***
「王様、私は全速力で参りました! 処刑はどうかご勘弁を!」
俺は王様に呼ばれて一人で王様の自室にお呼ばれしていた。
そしてついでに急いだアピールと、とりあえず先に謝っとくことで誤魔化そうと思い、土下座のポーズでその場を乗り切ろうとした。
別にプライドなんてない。相手は王様だしな。面倒な事から逃げられるのなら、頭なんていくらでも下げてやるぜ!
「ふむ。それについてはどうでも良い。それよりも、魔王軍の幹部のことじゃ」
……よっしゃぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!! なんとか乗り切ったぜ!
最悪、立場上は無いとは思ってたけど、処刑も1%ぐらい覚悟してたからな!
よし、会話を合わせてさっさとさっきの事を王様の頭から消し去ってしまおう!
「はい。わかっております。私は前線の後ろで立ち、声を出して士気を向上させる、つまりは場を盛り上げれば良いんですね?」
「そうじゃ。絶対に戦ってはならぬぞ。勇者が2度も負けた。しかも死んだとあっては我が国は終わりじゃ」
自分は死ぬ気ないんで、何かあったら逃げますんでご安心を!!! 最悪この国見捨てても。
とは口には絶対に出さないが、頭の中で俺はそんなゲスい事を考えていた。
「大変理解してます。それよりも『
「明日だそうだ」
うわぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!! なんっっってタイミングの悪い!!!!! あと1日速ければっ!!!!!!
……盗賊団の縄張り争い鎮圧にかかった日数が1日……。え、これって自業自得? ……いやいや、流石にアリアさんのせいでしょ。
この事はアリアさんのせい。だから戦闘はアリアさんに任せよう(元からそのつもりだったけど)!!!
「アリアさんとヘルティス、二人でこの国を守りきれますか?」
「勝率は5割と言ったところかのう。二人はこの国の最高戦力である『聖域の十二騎士』の中でも1、2番を争う実力じゃ。ワシの元に最強を置いておくのは当然じゃろう」
え、2分の1!?!?!? それって結構まずいよ。それに今のことを聞く限り、人間族と魔族が総力戦を繰り広げた場合、人間族が敗退はするだろうけど、どちらも手酷い痛手を負うことになる。
そしてこちらに伝説通りの勇者が現れた場合、人間族に天秤が上がるって事か。
……まぁ、実際はイキって幹部にボコボコにされたんだっけ?
「まぁ、この地が落ちれば人間族は終わりじゃ。せいぜい頑張ってきておくれ。そう伝えてくれんかの?」
王様はそう言って、俺を下がらせた。……ちょっと軽すぎるよな?
まぁ、王城の外から見た外観を第一に気にするような王様だし、これくらい普通か……。
その後、魔王軍幹部が現れた場所に、兵士や騎士たちが集結し始めた。
もちろんアリアさんとヘルティス、俺も参加する。
魔王軍幹部は平原に現れてから動く様子を見せない。なにを企んでいるのやら……。
まぁ、やばくなったら俺は逃げるだけだし、関係ねぇけどな!!!!
なんて、俺はお気楽に考えていた。
そしてその認識が崩れ去ることが起こったのは、俺が魔王軍幹部と戦う3時間前だ。
「大至急報告です!」
「何事だ? 答えよ凡愚」
なんだよなんだよ!?!?!? 急に入ってくるなよ驚いたじゃないか!!!! で、なにが起こったんだ?
兵士の一人が俺のテントに入ってきた。彼は息も絶え絶えで水を一口飲み、顔を真っ青にして報告を始めた。
「アリア様が、急に腹を下して戦闘不能だとのことです!」
「……なんだと。それは
アリアさーーーーーんっ!?!?!? ……え? まじで? ……なんでだ?
…………あ、昨日俺が入れた下剤じゃん!!! あれって即効性なんじゃ? それが今更って……。
もしかして、アリアさんがとても強かったから、薬の効果が出るのに時間がかかったとかか?
……ま、ず、い!!! これはまずいぞ!!!
俺は心の中でそう叫びながら、表面上は無表情で取り繕いつつ、そう自信満々に答えた。
俺のすることは士気を上げることだからな。わざわざ「負ける」なんてことを言おうものなら、士気がガクンと下がってしまう。
そんな事、させてたまるか! 俺は後ろで悠々と休みたいんだ!
「実はもう一つ!」
まだあんのかよ!?!?!? 今度はなんだよ!!!
「ヘルティス様が昨日お風呂場でのぼせて、戦闘不能とのことです!」
何してんだよあいつ!!! …………あ、あいつ先にサウナ入っとけって言ったけれど……。
確かそのまま放置したんだよな? あいつ一体どれぐらい俺のこと待ってたんだ?
「本日の朝、掃除の際に倒れているところを発見したそうです。発見した者の証言では『あはっ♪ これが放置プ・レ・イッ♪』とのこと」
あいつはもう手遅れだっ!!! いっそもう死ねばよかったのに!!!
……いや、どうせなら戦場で逝ってくれよ!!! てか表上この国の戦力俺だけじゃん(実際は0)!!!
終わったぁぁぁぁぁぁっっっ!!! アリアさんもヘルティスもいないなんてぇぇぇぇぇっっっ!!!
「……ふ、ふむ。だが安心せよ。この勇者は修行の末、アリアとヘルティスの2人を相手に無傷で勝つまでになったのじゃからな! 兵士の皆にもそう伝えるのじゃ!」
「は、はいっ!」
王様はドヤ顔で手を前に突き出してそう言い、兵士は俺を改めて尊敬する……いや、信仰するような顔で見てくる。
そして顔を晴れやかにして大きな返事をし、大急ぎで王室を後にした。
「失礼します」を言わず、部屋の扉も閉めずに……。
「あいつ、後で首にしよう」
と王様は言っていたが、俺はそれどころではない。ゆっくりと、だが力強く、身分の差なんて関係ない。やれるもんならやってみろ!
そんな気持ちで俺は王様の肩を掴んだ。顔は当然笑顔を浮かべてこう言った。
「何ハードルあげてんの?」
「ごめんなさい」
王様は顔を青くして俺に土下座した。後で聞いたことだが、王様の初土下座、頂きました。
そして俺は王室を出る。もちろん「失礼します」は言わないし、扉も閉めなかった。
俺は頂いていた王様の部屋にあったチョコレートを一粒口に入れる。
これが大人の味という感じの苦味が広がり、遅れてほんのりとした甘さが伝わる。
「……ふぅ、美味しかった。……それじゃあ行くか」
俺はそんな独り言を呟き覚悟を決め、そして歩き出した。そして俺は王城の外に出る。
そこは木が生い茂っていた。まるで王都に広がる街とは真逆。そう、森のようだ!
「あばよ王城っ! 世話になったぜ! ……俺は自由だぁぁぁぁぁっっっ!!!」
そう、俺は王城の裏門から外に出て、森の中へ逃亡を始めたのだった。
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