第16話 陽キャの嫌がらせ


 颯太はトイレを済ませて教室に戻ってくる。


 今は休み時間だ。


 颯太が自分の席に戻ると、颯太の席に生徒が座っていた。


 そこには、徳瀬や豪田といったクラスで一番の陽キャが集まる男子生徒の

グループが颯太の席とその周りの何席かに座っていた。颯太の席には豪田が座っていた。


「悪いが座らせてくれないか」


 颯太はぎゃはぎゃは楽しそうに談笑している豪田に声をかける。


「あ?なんでだよ?」


 豪田は視線だけ颯太に寄越すとへらへらしながらそう聞く。


「俺の席だから」


 颯太は豪田の質問に端的に答える。


「座りたいんだったら適当にそこら辺の席に座れよ。俺たちは今ここで楽しんでんだよ。邪魔すんな」


「そんなこと言ってやるなよ豪田。かわいそうだろ」


「ほんとにな」


 豪田の言葉に同調して颯太を嘲笑うかのように言葉を言い放ってくる陽キャ達。


「確かにそうだな」


 颯太はそう言うと、自分の席から離れて真ん中にある空いている席に座る。


「おい、何してんだお前」


 颯太がその席に座ったのを見た瞬間、豪田が大きな声を出すと、颯太の座った

席に歩いて近づいてくる。


「なに?」


 颯太は豪田に視線だけ向ける。


「なにじゃねぇ。そこ俺の席じゃねぇか」


 豪田は颯太を睨みつける。


「俺はどこの席でも座れればいいからな。それにそこら辺に適当に座れと言ったのはそっちだろ」


 颯太は豪田にビビらない。視線だけ豪田に寄越している。


「は?調子に乗るなよお前」


 豪田はそう言って、颯太の胸ぐらを掴む。


 颯太の首筋が制服のカッターシャツでキリキリと擦れる。


 クラスがざわつく。


「はなせ」


 颯太は低い声を出して忠告する。


「豪田君やめた方がいいよ」


 陽キャグループの1人が豪田にやめるようにいう。


「お前は黙ってろ」


 豪田に威圧的に睨みつけられその男子生徒は萎縮して黙ってしまう。


「やめなよ」


 沙奈が颯太と豪田の元に近づき止めにはいる。


「ちっ」


 豪田は沙奈にたしなめられ胸ぐらから手を放すことをためらう。


「いいからはなせ」


 颯太はやや大きな声を出して豪田の手をはじく。


 豪田の胸ぐらを掴んでいた手が離れる。


「てめぇ」


 手をはじかれてキレた豪田が拳を振りかざして颯太に殴りかかる。


 拳は颯太の顔に目がけて振りかざされた。


 颯太はその拳を座りながら顔を横にずらして避ける。


 避けたときに颯太の耳にちりっと拳が少し当たる。


 拳を避けられたことで豪田はバランスを崩す。


 だが、すぐにバランスを整えると颯太のいる方に視線を向けて颯太を睨む。


 豪田が視線を向けたとき颯太はイスから立ち上がっていた。


 颯太が豪田に視線を向ける。


 颯太と豪田の目が合うことで対峙する形になる。


 キーンコーンカーンコーン。


 休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。


「だから学校は嫌いなんだよ」


 颯太は胸ぐらを掴まれて乱れた襟(えり)を手で直すと、豪田を見ながらそう

吐き捨てる。


 豪田は言い返さない。いや、言い返せなかったのだ。


 豪田は心中では颯太にビビっていたからだ。


 教室内が安堵の空気で満たされる。みんなこの状況に焦りを感じていたのだ。


 颯太が黙って席に戻っていく姿を沙奈は心配そうに眺めていた。



 






 


 


 

 




 



 


 


 




 



















 






 








 


 



 





 



 








 

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