第44話 ウーヴェの実力

「スクエ、行け!」

「──ッおう!」


 ノラの言葉に反応してスクエはウーヴェに向かって走る。


 もう、この場にはウーヴェとスクエ、ノラ、そして腰を抜かして離れた場所で見ているロメイしか居ない。


「消えちまったか──グラッチ!」


 スクエの握る鉄パイプの先端が再び赤い光に包まれる。


 そして、スクエが大分ウーヴェとの距離を詰めると、ウーヴェが魔法を発動する。


「風よ──ウィンドショット!」


 ウーヴェの手から、風の弾丸がスクエに向かって放たれる。


「み、見えねぇ?!」


 魔法の特性なのか、何かが自身に向かって飛んで来るのは分かるが、一体どれ程の範囲なのか──又は何が飛んで来ているのか見えない為、スクエは不恰好になりながらも、横に飛び込む様に避けた。


「ほぅ……危機回避能力も高そうだな」


 ウーヴェがスクエに関心している間にノラが魔法を唱えていた。


「炎よ──フレイムショット!」


 ノラの手から野球ボール程の大きさの火球がウーヴェに向かって放たれた。


 火球を視認したウーヴェは直ぐに手を伸ばし、足元から青い魔法陣が浮かび上がった。


「風よ──ウィンドショット」

「──ッな?!」


 ウーヴェの魔法によりノラの放った火球は掻き消されてしまう。


 そして、何故かノラは驚いた様子で固まっている。


「は、早すぎる……」

「ノラ、何が早いんだ!?」


 ウーヴェの魔法の特性がよく分からないスクエは一度ノラの場所まで戻る。


「ウーヴェの魔法発動スピードが私が思っている以上に早い……」


 ノラの額から冷や汗が滴る。


「ふははは、どうした、来ないのか?」


 ウーヴェは再び手をスクエ達に向けて掲げる。


「風よ──ウィンドショット」


 又もや、直ぐに魔法を放った。


「スクエ、よ、避けろ」

「言われなくても!」


 二人は左右に移動して視認出来ない風の弾丸を避けた。


「ノラ──アイツの魔法特性を何でもいいから教えてくれ──これじゃ近づけねぇ!」


 この世界での魔法を一切知らないスクエにはウーヴェが何の魔法を放っているかが分からない。


「ウーヴェの魔法特性は風だ──使用している魔法は初級で、私が使用している魔法と同じレベルだ」

「ノラと同じって火球のやつか?」

「あぁ、そうだ」


 二人はウーヴェから目を離さず会話をする。


「風魔法の特性は見て分かる通り目視出来ない事だ……」

「厄介過ぎるだろ……」


 二人が話しているとウーヴェから風魔法が飛んで来る。


 だが、流石に距離が離れている為、二人は何となくの軌道を予測して魔法を避ける。


「風魔法は見え難い分威力は低いから、リプレスの場合は一発当たる程度なら問題無く動けるが──人間であるスクエでは恐らく一発耐えられるかどうか……」


 スクエの方をチラリと見るノラ。


「マジかよ……本当に厄介だな……おい……」


 今ではスクエの顔に余裕は無くなっている。


「それに、ウーヴェの処理速度が早い為、魔法を撃つのが速い──アレでは戦争で戦う兵士並だ……」 


 ウーヴェの詠唱速度はノラに比べて、大分早かった。


「何か策はあるか……?」

「……よし……私が盾になろう」


 決意を固める様にノラがスクエに言い放つ。


「盾?」

「あぁ、スクエは私の背後に隠れてウーヴェに近付いたら、その鉄パイプでアイツを叩き斬れ」

「だ、大丈夫なのかの?」


 いくら風魔法の威力が弱いとは言え、何度も当たって良いものでは無いだろう。


「それくらいしか、今は手が思い付かん──それに私の魔法はウーヴェに当たらないだろう……」


 状況を見る限り、ノラが一発魔法を撃つ間にウーヴェは三発は魔法を撃てる様だ。


「私が魔法を放っても魔法をぶつけられて相殺されるだけだ──なら、スクエがその力を使って攻撃した方が確実だ」


 ノラの説明にスクエは納得して無いながらも、首を縦に頷く。


「私は走りながら魔法を撃てないから、本当にタダ突っ込むだけになるが、なるだけ後ろを走るスクエには影響がない様にする」

「あ、あぁ分かった」


 じっくり考えれば他にも良い手が思い付いたかも知れないが、この緊迫した状況で考える暇など無かった。


「くくく、作戦会議は終わったか?」


 余裕を見せるウーヴェ。


「そこの女も魔法が使えるなら、部下として雇うのは全然問題無いが?」


 ウーヴェの言葉には反応せずにノラとスクエは走り出す準備の為、腰を少し落とす。


「スクエ、準備はいいか?」

「あぁ、いつでも大丈夫だ」


 ノラは一呼吸する──そして……


「──ッ行くぞ!」


 スクエに声を掛けて走り出すノラ──その後ろを少し距離を置いて付いて行くスクエ。


「ふふふ、無駄な事を──」


 二人が、どの様に出るか見ていたウーヴェだったが、ただ突っ込むだけと知ると再び魔法を発動させる。


「風よ──ウィンドショット」


 まず、一発目の見えない風の弾丸がノラに放たれる。


 ノラは走りながらも、顔の前で腕をクロスさせて少しでも衝撃を和らげる様にする。


「──ッく」

「ノラ!」

「大丈夫だ──しっかりついて来い!」


 風魔法の威力がいくら弱いからと言っても直撃すればダメージは入る。


「ははは、頑張るでは無いか──まさか、そのまま私の所まで耐え続ける気か?」


 魔法を一発受けただけで作戦がウーヴェにバレる──しかし、二人は関係無しに足を進める。


「ふむ、後二発は撃てるな」


 ウーヴェの足元に魔法陣が浮かぶ。


「風よ──ウィンドショット」


 二発目が放たれ、ノラに直撃する。


「──ッ……」


 流石に連続で二発直撃はキツいのか、ノラの体勢少し崩れた──しかしノラは足を止めない。


「女よ──いいのか? もう一発食らったら流石に耐えられないだろ?」


 ウーヴェの言葉には一切反応せずに、ノラは少しでもウーヴェに近づく為に足を動かす。


「まぁ、私は人間が手に入ればどうでも良いがな」


 そして、三発目の魔法を放つ為の魔法陣が浮かび上がる。


──ノラの奴、本当に大丈夫なのかよ……


 ノラの後ろを走っている為スクエは現在ノラにどれくらいのダメージがあるか分からない。


 そして、三発目の魔法がウーヴェから放たれる……


「風よ──ウィンドショット」


 ノラはクロスした腕に更に力を込めて、これから来るであろう衝撃に耐える。


 そして、ノラに三発目の風の弾丸が直撃した──その瞬間ノラの身体は前にでは無く後ろに──更には折角修理した筈の部品があちこちに散らばり片腕だけその場に残して後方に吹き飛ばされる。


「──ッノラ?!」

「──私は大丈夫だから、行け!」


 ノラの無事を声で判断したスクエは目の前のウーヴェに向かって鉄パイプを振り下ろす為に片足を踏み込む。


「グラッチ!」


 鉄パイプの先端が赤い光に包まれた。


 するとウーヴェから又もや魔法陣が浮かび上がった。


 しかし、一発貰う覚悟は既に出来ているのかスクエは目の前のウーヴェに向かって鉄パイプを力のあらん限り全力で叩き付ける。


「──ッぶっ壊れろ!」

「風よ──ウィンドウォール」

「──ッ?!」


 確実に攻撃が当たったと思ったスクエであったが、何か見えない障壁に阻まれて鉄パイプはウーヴェに到達しなかった……


 そして、魔法の特性なのかスクエは後ろに吹き飛ばされ、再び走る前と同じ距離が開いてしまうのであった……

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