第40話 スクエとノラ捕まる

「さて、スクエ──これからどうする?」

「あんなにカッコ良かったのに、何も考えてねぇーのかよ……」


 周囲のリプレスは綺麗に円を描く様にスクエとノラを取り囲んだ。


「これで逃げ場は無いがどうする──大人しく奴隷を渡すか?」


 ウーヴェの声に反応する様に二人はぐるりと周りを見渡す。


「くく、頼みの罠も、もうここら辺には無い様だな」


 ウーヴェの言葉にリプレス達がぐるりと周りを見渡す──ウーヴェの言う通り周りには先程崩した山が最後の様で、後は低いジャンクの山があるだけであった。


 スクエは取り敢えず足元に転がっていた鉄パイプを拾い上げて構えを取る。


「ほぅ……やはり戦う意思がある様だし人間三原則が効いて無いか……」


 スクエを益々興味深そうに見つめるウーヴェ。


「このまま見ていても飽きなさそうだが、取り敢えずは確保してからにしよう──最後の警告だがその奴隷を渡す気は無いか?」


 ウーヴェはノラに再び確認する。


「しつこい男だ」

「ふん──やれ」


 ウーヴェの言葉にリプレス達が動き出す。


「スクエ少し下がれ!」


 ノラがスクエを下がらすと、いきなりノラの足元から青い魔法陣が浮かび上がる。


 そして、それを見た瞬間リプレス達が足を止める。


「魔法持ちか……」


 ウーヴェが苦虫を食った表情で直ぐに指示を飛ばす。


「一斉に攻めろ!」


 その指示で再び四方からリプレス達が迫り来る。


 その間にもノラは何やらブツブツと唱え最後に言い放つ。


「燃えろ……」


 すると、ノラの手からは野球ボール程の大きさの火球が出来上がりリプレス一体に向かって放たれた。


 思っていたよりも火球のスピードが早かったのか、リプレス一体に直撃する。


「ノラ、それ何の魔法だ?!」

「説明している暇は無い!」


 直撃したリプレスはその場に座り込むが、壊すまでは行かなかった様だ。


 そして、ノラは次を放とうとする為に再び青い魔法陣が浮かび上がる。


 だが、二発目を放つ前に確実にリプレス達が手の届く位置まで迫りくるであろう。


「ノラ早く次を撃ってくれ!」

「魔法は時間が掛かるんだ」


 そして、リプレス達が目の前まで来てしまう。


「こっち来るんじゃねぇ!」


 スクエは持っていた鉄パイプをリプレスに向かって思いっきり振り下ろす。


 ガツンと音が鳴り響く。


「お前は大人しくしていろ」


 やはり人間の腕力では傷一つ付けられないのか、二人のリプレスがスクエを確保する。


「クソ、離しやがれ!」


 全力で振り解こうと暴れるが肩をガッチリと掴まれており、ビクともしない様子だ。


 そして、スクエの隣ではノラがリプレス達に捕まる。


「私に気安く触るんじゃない」


 青い魔法陣が再び浮かび上がる──しかし、魔法陣を見た一人のリプレスがノラの腹部に向かって拳をねじ込んだ。


「──ッヴ」


 ノラの身体がくの字曲がり地面に膝を付ける──そして魔法陣もかき消えた。


「ノラ! ──クソやめろ!」


 ノラが攻撃されたのを見たスクエは殊更、身体に力を入れて拘束を振り解こうとするが、ちっとも動かない。


「へへ、ヴーヴェさん──この女どうしますか?」


 ノラを抑えつけているリプレスが確認を取る。


「好きにして良いが最後はキッチリ壊せよ?」

「へへ、流石ヴーヴェさんだぜ!」


 下品な笑い声を上げるリプレス達──そして、その様子を見ていたロメイに向かってウーヴェが言い放つ。


「お前も、あの女を好きにして良いぞ」

「え、え? ほんとですか?」

「あぁ──お前もここ最近頑張ってくれたからな」

「あ、ありがとうございます」


 ウーヴェに頭を下げた後、ロメイがノラの前まで歩く。


「はは、お前を壊した時は本当に最高だったぜ? ──それをもう一度味わえるなんて夢見たいだぜ」


 醜い顔を膝を付いているノラに近づける。


「お前臭いから、近寄らないでくれないか?」


 ノラはこの状況にも、関わらず小馬鹿にする様な表情でロメイに向かって不敵に言い放つ。


「──ッんだと……?」


 ノラの言葉に青筋を立てるロメイは拳を握りしめて、ノラの頬に向かって振り下ろした。


「──ッノラ!」


 ロメイはノラを殴った後に口の口角を上げて笑う。


「あはは、お前殴りがいがあるな」


 ウーヴェの前にいた時の態度が嘘の様に生き生きとしていた。


「ロメイ、お前だけ楽しんでいるんじゃねぇーよ」


 他のリプレス達がノラを囲む様に移動し、スクエの視界からノラが消える。


「や、やめろ、やめてくれ!」


 恐らくリプレス達に囲まれているノラは暴行を受けているのだろう──時々痛みに耐える声がスクエの耳まで入ってくる。


「クソー、アイツら羨ましいぜ」

「だな──あの女、かなり綺麗だったから俺も混じりたかったぜ」


 スクエを抑えているリプレス達が呟く。


──な、なんなんだよ! 折角意気込んだのに、結局これかよ!


 スクエは心の中で叫ぶ。


「ん? ──こいつ急に大人しくなったな」

「はは、ご主人様が痛ぶられるのを見たくねぇーんじゃないか?」


──俺は一体何をしている……ヒーローになるんじゃ無いのかよ?!


 スクエは地面を向く様に下を向く。


 その間もずっとノラはリプレス達に暴行を受け続けている様だ。


──やっぱり、俺には無理なのかな……


 スクエの顔が更に下を向うとするが、そうはならなかった。


──いや、ダメだ! 俺はあの夜の日にヒーローになるって決めたんだから!


 どうやら、今までのスクエでは無い様子だ。


 前までなら諦めてしまう様な場面であるが、スクエの心は奮え上がっている。


 そして、この場に居る誰も気が付いて居ないが、スクエの身体が僅かに光っていたのだった……



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