第32話 スクエ決意する

「お、あった!」


 スクエはジャンク部品の中から目当ての部品を見つけた様だ。


「長かったけど、全て揃ったぞー!!」


 広大なスクラップ場でスクエは両腕を天に伸ばして大声で叫ぶ。


「長かった──マジで気が狂うかと思ったぜ」


 破損パーツを取り分けてから、早速部品探しをしていたスクエだったが、これがまた苦労の連続だった。


 そもそも、この広大な場所から小さい部品パーツを探して当てるなんて相当骨の折れる作業だ。

 しかも、探す部品は一つや二つ所では無く相当な数である。


 はじめる前から分かっていた事とは言え、中々出来る事では無い──しかし、スクエやり遂げたのだった……


「めちゃくちゃ時間掛かったな」


 あれからパーツ探しだけで更に二週間程を丸々費やしてしまったスクエだが何とか最後のパーツまで見つける事が出来、今ではホクホク顔だ。


「よし、早速全て組み立てて起動させてやるぜ!」


 長かった苦労も、後少しと考えれば嬉しいものだ。


 直ぐに自分の家である簡易式のドラム家まで戻ってきたスクエ。


「パーツ見つけては少しずつ組み立てて来たから、後はこのパーツを取り付けて終わりだな……」


 スクエの手には長細いネジの様は物が握られていた。


 そして、スクエの目の前には横たわっているノラの姿がある。


 顔部分は未だベゴベコに凹んでいるが、それはノラが起きてから相談しようと思っている。


「頼むぞ、動いてくれよ……?」


 ノラの前にしゃがみ込み最後のパーツを嵌め込んだスクエ。


「──動け!」


 パーツを嵌め込み少し離れるスクエだったが、ノラは一向に動かない。


「……いやいや、まてまて、そんなの勘弁してくれよ?!」


 ノラを組み立て始めて一ヶ月近い月日が経過している。


 そんな長い時間を掛けて、結局動きませんでした……ではこれまでの苦労が水の泡である。


「──ノラ、起きろ!」


 横たわっているノラの側で呼び掛けるスクエ。


 すると、スクエの願いが通じたのかノラから何やら機械が動く様な音が聞こえ始める。


「──ッ?!」


 その音はまるでパソコンを起動した時の音に似ている。


「きたきたきたーー! これは流石にきたんじゃ無いか?!」


 いくら技術が進んだ、この世界でも流石に人間型のロボットを動かす際の初期動作は時間が掛かる様で、起動音は聞こえるが一向に動き出す気配が無い。


 その為スクエは一旦落ち着く為に地面に座り込む。


「これで、ノラが動けば助かる……よな?」


 スクエ自身、ノラを治した所でロメイとウーヴェに勝てるとは思っていないが、何かの策なら持っているのでは無いかと淡い期待を寄せていた。


「それに、一人より二人だよな!」


 スクエ自身、一人は寂しかった様で誰か話し相手が欲しい様だ。


 暫く動かないと感じたスクエは地面に座りながらノラの起動を待つ事にした。


 そして、ポツリとある言葉を漏らす。


「ヒーローか……」


 ノラの部品を集めている時、スクエの頭の中ではずっとノラに言われたある言葉が何度も蘇った。



「この街の人間を救えばヒーローになれるぞ!」


 その言葉を最初にノラから聞いたスクエは自分なんかでは絶対に無理だと諦めていた。


 もちろん、今でも出来るとは思っていない様だが、考え方が少し変わった様だ。


「失敗するかも知れないけど挑戦するのは……有りだよな……」


 未だ横たわっているノラをジッと見ながら呟くスクエ。


「俺がノラに協力して何が出来る訳でも無いと思うが……この世界の人間達に対する状況は変えたい……」


 スクエはこれまでリプレス達に虐げられて来た人間達の事を思い出す。


 それは最初の奴隷競売の時に見た人間の女性だったり、ロメイに酷い仕打ちをされていた店員だったり、他にも、このアクアスを歩けば常に人間はリプレス達から酷い扱いを受けている。


 そしてスクエの中で人間を救いたいと思った一番の出来事はスラム街での子供に対しての仕打ちだ。


「あんな、小さい子がスラム街で暮らしている事すら間違っているのに──リプレス達は更に躊躇なく暴力まで振ろうと……」


 恐らく、スクエがあの場で出て行かなかったら子供は死んでいただろ……


「こんな世界間違っている」


 だが、そんな間違っている世界を正そうとする者は居ない──いや正確にはノラ一人である……


「人間はメンタルチップで抵抗出来ない……」


 人間三原則に逆らう事が出来ない人間達は、この状況をどうする事も出来ない。


「なら、誰がやる──そんなの決まっているよな」


 スクエは不敵に笑う──その表情は、これまでこの世界に来てからのスクエでは考えられ無い程、良い笑顔であり小生意気そうな笑みである。


 そして、その不敵な笑いは本来のスクエの顔──そう、ヒーローを目指していた時の小さな頃のスクエの顔付きである。


 スクエは無意識に腕に付いている腕輪に手を添えて呟く。


「誰も出来ないなら俺がやってやる」


 そしてスクエは人が変わった様に立ち上がると笑い出す。


「あははは──なんだか上がってきたぜ!! こんな気分になるのはいつ以来だ?」


 スクエの表情はいつも通り生意気そうではあるが、今は更に拍車が掛かりこと更に生意気そうだ。


「日本では成れなかったが、この世界でなってやる!」


 スクエは一度深く深呼吸すると、大きな声で、暗くなった夜空に向かって宣言する。


「俺が人間達のヒーローになってやるぞーーーー!!!!」


 こうして今まで消えかかっていたスクエのヒーロー魂に再び真っ赤な炎が灯り、子供の頃から止まっていた時間が動き出した様だ……

 

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