騎士にもいろいろいる
砂山一座
第1話 ギルド組合員と国の騎士
その日、私は運搬の仕事を請け負っていた。
大した仕事ではないが、二人でないと受けられない仕事だというので、ギルドに増員を要請した。
呼んでもいないのに、またもやロイ・アデルアが派遣されてきた。
余計な人員を増やしてまでこの仕事を受けたのは、依頼人の圧もあったが、何より私の故郷に近いからだった。
仕事のついでに、長年離れて暮らしている養母に会いに行けるかもしれないという下心があった。
ロイとは付き合いが長いし、私の育ての親とも面識がある。
彼が来るのならば、抜け出すのも気が楽だ。
なんだったら荷物を届け終わったら、そこで解散にしてもらうことも出来るだろう。
奇妙な依頼ではあった。
荷物を二人で交互に持ち、どちらが持っているかわからないようにして運べだなんて。
二人しかいないんじゃ、あまり攪乱出来ないのでは?
まぁ、雇い主が雇えるのは二人が限界だったのだ。
その通りに努めよう。
一般の人にとって、ギルドへの依頼は決して安いものではない。
とは言っても、決して法外な値段な訳でもない。
ギルドへの依頼は、仕事に見合った値段に設定されている。
この荷物を運ぶことが適正な値段かどうかは私にはわからない。
普通に運送屋さんに頼むのでは、ダメだったのだろうか?
この小国、ドルカトル王国が、ギルドによって守られる国になったのは、私が生まれるより少し前からだ。
そんなに昔のことではない。
かつて、この国を守る組織は、王家が指揮する騎士団のみであった。
しかし、そういった力を持つ者たちが守るのは、王都だけに偏っており、国の境や魔物が出る田舎などでは民が身を守る術はなかった。
どこからともなくこの国にやって来た「ギルドマスター」と呼ばれる男が作った「ギルド」は瞬く間に国民に受け入れられ、王家を取り残すようにして国の守りの要となった。
ギルドは貴賎を問わず、金銭で公平に民を守る機関として、この国の人々に根付いた。
そして防衛だけでなく、様々な仕事の依頼がギルドに集まる。
そう、荷物の運搬だってギルドに依頼される仕事の一つである。
にしても、初日から剣を抜くことになるとは思わなかった。
王都をでて半日ほど歩いた街道で、数人の騎士が我々の道を塞いだのだ。
「中を検めさせてもらいたい」
一番上等な騎士服を着た赤銅色の髪の騎士が、緊張した表情で私が背負った荷物を見る。
私の顔もジロジロ見る。
なんだったら頭のてっぺんから爪先まで刺すように見る。
残念ながら今はロイが荷物持ちなので、私の荷物を開けられてもなんともないのだが。
「騎士様、これはギルドへ依頼された仕事です。荷物を開けることは出来ません」
無理強いすれば反撃も厭わない事を知らしめる為に、抜刀して距離を置く。
国の騎士に狙われる仕事だというのなら、確かにこれはギルドに依頼すべき仕事に相違ない。
「騎士様はこれを開ける為に、何か権限をお持ちですか?」
「……」
美しい、とも表現出来そうな端正な口許をきりりと引き結んで、力強くこちらを見る。
返事がないところを見ると、誰かの勅命として許可されたものではないのだろう。
しかし、こちら側にも騎士の要求をまるっと無視出来るほどの根拠も無い。
国の利益を損なうような物でないという確証はないし。
「私たちの旅程は長くても三日ほどです。
どうしてもと言うのであれば、同行して受け渡した後にご確認いただけると思いますが」
私の仕事は荷物を受け渡すまでだ。
その後受け渡した相手と騎士が交渉すれば良いことだ。
もっとも、依頼主やその関係者に無体を働こうとするのなら、それを守る義務もあるのだが。
「略奪するとおっしゃるのなら別の対応をとりますが」
ロイは茶番に付き合うつもりは無いらしく、木陰で木の幹に背を預けて高みの見物を決め込んでいる。
「いや、ギルドと事を構えたい訳ではないのだ。
同行する。
どうか、受け渡す相手を確認するまで同行させて欲しい」
少し面倒なことになったが、騎士がいれば撹乱目的でなら役に立つ。
国に仕える騎士は品位を重んじる。
弱きを助け悪を挫くし、女性や子供を軽んじない。
国に姫がいれば付き従い、守り敬う……あいにく今の王には娘はいないのだが。
……とにかく、男子が一度は憧れ、娘達が一度は夢見る英雄的存在なのだ。
実際、とある騎士は姫に仕えた騎士道が模範的だということで巷で人気が出て、逸話をまとめた本が書かれたくらいだ。
そんなわけで、この国では騎士は好かれる。私は除く。
と、なれば、荷物を狙う者がいるとしたら、騎士が荷物を持っていると思うだろう。
「付いてくるのは勝手です。邪魔はなさらないようにお願いします」
この場合、ロイに否やはない。
私が受けた仕事なので、ギルドの要員とはいえ命の関わること以外は口を出さない。
決定権は私にあるのだ。
「心得た。道中の警護は任せてもらって構わない」
御伽噺に出てきそうな美しい赤毛の騎士は、誠実そうに騎士の礼をしながらキラキラと嬉しそうに微笑んでみせた。
「私は国の騎士、ニコラ・モーウェルだ。
お会いできて光栄だ、ひ……」
「ひ?」
ひ、ひ?……ひもの?
「いや、貴方の名前は?」
「ギルド組合員のタリムです。
家名はありませんので、名は一つです。
皆、タリム組合員とよびます。
あちらは、ロイ・アデルア、ギルド職員です」
ギルドの職員は通常ギルド内部の仕事を行う。
書類の処理とか人事とか。
「タリム、タリム嬢だな」
なんだろう、この騎士、犬が盛った時みたいな気配がした。
「タリム組合員です」
組合員はギルドに雇われた状態の者たちで、ギルドの厳しい規則に則って依頼をこなす。
騎士といえどそれを妨げるなら容赦はしない、と言う意味での名乗りだ。
「心得た。宜しく頼む」
そういうと、モーウェル騎士はやけに近い距離で私の手を取り握りこんだ。
間合いに入られるのは苦手なのに、全然、避けられなかった。
あ、なんか鳥肌立った
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