第375話 書き言葉の魔力

 実質的に、書き言葉なら何でもできる。我々は、性格や意識を持ち合わせた一人の人間として生きているが、そうしたキャラクター性を無視して、別人のように振る舞うことができる。


 話し言葉では、そう簡単にはいかない。やはり、書き言葉よりも話し言葉の方が人間にとって身近にあるようで、これを変えようとするとそれなりの訓練が必要になる。もちろん、書き言葉の場合も練習は必要だが、話し言葉ほど変えるのは難しくない。たとえば、語尾を変えたり、語尾に余計なものを付け加えることは簡単にできるわけで、こうすることで相手が受ける印象を操作することが可能になる。


 また、書き言葉の場合は、感情を偽造することも容易にできる。本当は嬉しくなくても、嬉しいですと書くことができるし、そうしたときに、人と対面して話す場合よりも罪悪感を抱かなくて済む。愛想笑いを浮かべる必要もない。また、もっと極端な例でいえば、本当は悲しくて泣いているときでさえも、文末に「笑」と書くことができてしまう。


 メールやチャットを使うことで、遠く離れた人とも気軽に連絡がとれるようになったが、その分裏を読む力が求められるようになったと感じる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る