第111話 皆で作る社会

 社会に出たら通用しないとは、結局のところ、皆そうしているから私もそうする、という主張である。


 社会を構成するのは人間であり、社会そのものに実体はない。反対にいえば、社会を構成する人間によって、社会はいくらでも性質を変えうる。というわけで、通用しない社会を作っているのは、その内側にいる大勢の人間であり、その大勢の力が、現在の社会に適合しないものを排斥しようとする。


 対象を排斥しようとする理由が正しいものであれば、こちらとしても自分の考えを見直して、素直に改善しようとするが、多くの場合、排斥の対象となるのは、どういうわけか、論理的に正しい事柄である。それが正しいと分かっているときに、人は「社会では〜」という言葉を口にする。しかし、その言葉を口にしている人間は、実際に社会の構成員の一人なのだから、それは、同時に自分自身の主張でもあると気づくべきである。


 通用する社会にするためには、今まで当たり前だと考えていたものを、一度疑って、別の視点から観察し直す必要がある。そういうときに、伝統とか、文化とか、そういうまたもや実体のないものを理由に挙げる人がいるが、現在の変化から、未来の新しい伝統や文化が形作られるとすれば、そんなことを言うのは、馬鹿げているのではないか、と個人的には思う。

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