第118話『広すぎるお風呂は瀬奈さん付』
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
118『広すぎるお風呂は瀬奈さん付』
え 広い……
瀬奈さんに案内されて、少し降りたところにお風呂があった。
十二年前は日帰りだったので、大お祖母ちゃんちの風呂は初めてなんだけど、あまりの広さに足が止まってしまった。
まだ脱衣所なんだけど、ゆうに教室一つ分は有る。
「里の人たちも利用されるので大きんんです、さ、こちらにどうぞ」
温泉旅館のように二つの壁面が四段の棚になっていて、一段ごとに八つの籠。4×8×2=62、ざっと六十人くらいは入れる。浴室に近いところが窪んでいて衝立で目隠しになっている。
「お嬢様、こちらへ」
瀬奈さんが示したのは、その衝立の向こうで、入ると四畳半のスペースで、しつらえが高級になっている。
「こちらがお身内様の脱衣所になっております」
「ここでなきゃダメなのかしら?」
「お好きなところを使われて良いのですが、里の人たちが気を使われますので……」
ああ、そういうことかと納得して裸になって浴室に向かう。
え……広すぎる。
浴室は脱衣所どころではなく、小学校の講堂くらいの広さに大小四つの浴槽がある。
どうやら温泉で、浴室の外から掛樋が引かれて、盛大に湯煙を立てながらお湯を注いでいる。
広場恐怖症ではないのだが、美晴はたじろいでしまった。
夏休みのサンフランシスコで入った温泉も学校のプールのような広さだったけど、屋外でのスポーツ施設のような感じにたじろぐようなことは無かった。
壁面の一つはゴツゴツの作り物ではない岩壁になっていて、この浴室が、元々は天然の岩風呂だったことを偲ばせる。
大お祖母ちゃんちは天守閣さえあれば十分お城で通用しそうな屋敷なのだが、このお風呂は、それに倍する歴史の重さを感じさせる。瀬戸内家の始まりは、ひょっとしたら、この天然温泉の周囲から始まったのかもしれないと思った。
「お背中を流します」
ハッとした。
いつの間にか瀬奈さんがセパレートの水着で控えている。
「あ、え、あの……」
「嫡流の方のご入浴は、それぞれ役目の者が付きます。いつもわたしとは限りませんが、本日はわたしが務めさせていただきます。こちらへ……」
檜の腰掛に座ると、瀬奈さんがユルユルと賭け湯をしてくれる。
お風呂で人にお世話されるなんて初めてなので、いささか恥ずかしい。
「御屋形様と同じ肌をなさっておられます。やはりお血筋なのですね」
「え、あ、そうなんだ(^_^;)」
三杯ほどの掛け湯を済ませると中ほどの浴槽を示された。
入ってみると、思ったよりも熱くない。美晴は熱い風呂は苦手で、家の風呂も冬場でも三十九度度設定である。
「この浴槽が一番穏やかな温度設定になっています、慣れてこられましたらお好みの浴槽をお使いください。あちらの小さいのが一番たけだけしくて四十五度ございます。ちなみに、御屋形様は、あちらをお使いになっておられます」
「四十五度……」
ただでも近づきがたい大お祖母さまが、いちだんと化けものじみて感じられた。
同性とはいえ瀬奈に身体を洗われるのはきまりが悪かったが、髪を洗ってもらうのはラクちんで気持ちが良かった。
「えと……なんだか瀬奈さんの視線をヒシヒシ感じるんだけど」
「あ、申し訳ありません。お風呂のお世話はお嬢様の健康状態のチェックも兼ねております。まだ未熟者ですので、ご不快でしょうね、申し訳ございません」
「あ、いえ、そんなんじゃ」
自分で指摘しておきながらワタワタしてしまう。
風呂からあがって驚いた。
着替えが全て新しくなっている。
いちばん驚いたのは制服だ。
三年間着慣れたものではなくて、触っただけで分かる新品に替わっていたのである。
「新しいものと、御屋形様からの御指示でございましたが、制服をお召しになってこられたのはお嬢様の心意気であるとお見受けいたしましたのでご用意させていただきました」
すばやくメイド服に着替えていた瀬奈さんが、心なし口元をほころばせた。
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