第113話『千歳の胸騒ぎ』


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)

113『千歳の胸騒ぎ』        






 主役でもないのに緊張のしまくり。


 でも、緊張していたのだと自覚したのは、家に帰ってお風呂に入ってから。


 入浴は少しだけ介助してもらう。

 脱衣も着衣も一人で出来るんだけど、やっぱり浴室でのいろいろはお姉ちゃんに介助してもらう。

 浴室にいる間は必ず介助者が居なければならないんだけど、浴槽の出入りだけ手伝ってもらう。

 浴槽に浸かっている時間が長いので、付き合っていては冬でも汗みずくになってしまうからね。

 まあ、三十分くらいは浸かっている。


 お姉ちゃんはコンビニに出かけてしまった。ATMだけの用事だから、ものの五分ほど。


 で、不覚にも居ねむってしまった。


 バシャ! ゲホ、バシャバシャ! ゲホゲホ!


 お姉ちゃんが帰ってくるのと溺れるのがいっしょだった。


 ち、千歳!!


 土足のままのお姉ちゃんに救助されて事なきを得たんだけど……


 怖かったよーーーーーー!!


 その夜は熱が出て、けっきょく二日学校を休んでしまった。

 演劇部に入ってからは休んだことが無かったので、クラブのみんなからメールが来た。

 学校を休んでメールをもらうなんて初めてだったので、お礼は一斉送信なんかじゃなくて、一人一人にお返事を打った。

 



 で、本題はここから。



 あ、忘れてた。


 その日のあれこれを机に突っ込んで気が付いた。

 クラブの書類を生徒会に提出しなければならない。文化祭で飛んでしまっていたんだ。

 必要なことは記入済みなので、すぐにでも持っていこうと思ったんだけど……。


「千歳、大丈夫だった?」「もうええんかいな?」「Are you OK?」「よかったー! 元気になって!」


 クラブのみんなが休み時間の度にやってくるので、お昼休みになってしまった。


「失礼しま~す、演劇部です、書類を持ってきました~」


 どーぞ


 入ってビックリした。

「あ、えーーと……」

 生徒会室の本部役員の顔ぶれが変わっていたのだ。

「あ、ちょっとビックリ? おとつい選挙があって執行部は入れ替わったんよ」

 ピカピカの副会長バッジを付けた二年女子がにこやかに言う。

「瀬戸内さんは?」

「あ、引退したよ。三年生やからね」


 書類を渡すと、わたしは三年生の校舎に向かった。


 いま思えばメールすれば済む話だったんだけど、その時は直接顔を見なくちゃと思った。

 瀬戸内先輩は演劇部じゃないけど、部室明け渡し問題からこっち、ほとんどお仲間のようなものだったから。

「あのう……演劇部の沢村ですけど、瀬戸内先輩いらっしゃいますでしょうか?」

「あ、休んでるわよ、おとついから」

「え、そうなんですか」


 瀬戸内先輩は、ちゃんとメールをくれていた。

 

 あれ? 先輩自身休んでて、どうしてわたしが休んでたこと知ってたんだろ?


「ああ、それはボクが伝えておいたからだよ」

 ミッキーが先輩んちにホームステイしてるのを思い出して、訊ねた返事がこれ。

「でも、そのあとスマホ繋がらなくなって、でも、明日あたり帰って来るんじゃないかなあ」

 ミリー先輩の通訳であらましは分かった。

 どうやら家の用事で親類の家に行っているらしい。


 でも、なんだか胸騒ぎのするわたしだった……。

 

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