第60話『夏休み編 イノウエ空港』


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)60


『夏休み編 イノウエ空港』   





 で……どうしてアメリカに行くんだっけ?



 日付変更線を超えて、それがスイッチだったみたいに目を覚ましたお姉ちゃんが聞いてきた。



「え、分かってなかったの!?」

「だって、たった三日でパスポートとったりの準備に追われてさ、うっかり聞き逃しちゃって」

「もー、しっかりしてるようで抜けてるんだから」

「アハハ、で、どうして?」

「当たったからよ、懸賞に」

「それは知ってるけど、なんの懸賞だっけ?」

「それは……」


 実は、ミリーから「アメリカ行きの懸賞に当たったから、みんなで行こう!」としか聞いていない。


 いろいろ説明は有ったと思うんだけど、みんな舞い上がってしまって、覚えていない。

 隣に座っているミリーに聞いてみる。

「言ったでしょ、部室棟のことで領事館に行ったら入館何人目かの交換留学生だったとかで、日本の友だちと一緒の……なんとかってのが当たったのよ」

「とゆーことよ」

「え、あ、うん……てか、」

 ミリーの説明も怪しい。

「はい、これに書いてある」

 ミリーが書類一式をドカッと差し出す。わたしは中継だけしてお姉ちゃんに渡す。

「……なるほど……ムルブライト奨学金のスカラ……」

 さすがは大人というか、仕事で慣れているというか、ブツブツと英語の書類を読んで納得したようだ。

「でさ、お姉ちゃんは、なんで付いて来てるの?」

「あ、ついでだったから」

「つ、ついで?」

 

 妹のことが心配で、つい照れ隠しに言ったんだろう……鼻の奥がツンとした。


「じゃね、途中で一緒になれるようなら顔出すから~」

 イノウエ空港に着いたかと思うと、入国ゲートでお姉ちゃんはサッサと行ってしまった。

 えと、イノウエ空港って分かるわよね?

 亡くなった日系上院議員のダニエル・K・イノウエさんにちなんで、何年か前に名前が変わったの。

 もとの名前はホノルル空港。


 わたしたちのアメリカ旅行の第一歩はハワイからのはじまりはじまり……。

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