第22話「なんですってえ!?」


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)22

「なんですってえ!?」                     






 かゆ~いいいいいい!!


 寝ていた須磨が飛び起きた。




「どうかしたんですか?」

 ワンピース8巻目から目を上げて、千歳が聞く。

 PCゲームをやっていた啓介も、マウスをクリックする指が停まってしまう。

「なんか居るんじゃないかなあ……あちこち噛まれてるよ……ウウ、手が届かない。千歳ちゃん、ちょっと背中掻いてくれない」

「は、はい」

 千歳は器用に車いすを旋回させて、須磨の後ろに回ってブラウスの上から背中を掻きはじめた。

「……それじゃ、たよりない……直接やって」

「はい」

 千歳は、須磨のブラウスに手を突っ込んで、直接背中を掻いてやる。

「たしかかゆみ止めが……」

 啓介は部室奥のロッカーをかき回し、数分後に、まとめ買いされていたムヒを発見した。

「先輩、これを……」


 ムヒを手に振り返ると、須磨はスカートをたくし上げてマタグラを。千歳もブラウスのボタンを外してボリボリかいている。


「あ……いちおう、オレも男子やねんけど」

「「あ……」」

 さすがに二人の手は停まった。

「オレ、ちょっと外出てるさかい、ムヒ塗っておさまったら呼んでもらえます?」


 廊下に出て、啓介は二人のかゆみが収まるのを待った。


「この部室、虫が湧いてるわよ」

「ほんと……キャ、これってダニじゃないですか!?」

「この大きさは虱だろうね……」

 血を吸ってまん丸になった虫を掃き集めた。

「ウウウウウ、なんで、こんなのがいるのよ!? ちょっと、啓介せんぱーい!!!」

「え、え、え、なにかなあ……って、その前に服装なおしてもらえませんか」

 須磨も千歳も、ムヒを塗ったり、痒いところを掻いたりで、あられもない姿になっている。

「いや、あの、だーかーらーー!!」

「信じらんないわよ、この不潔さ!!」

 かゆみとおぞましさと怒りのために、恥ずかしさを忘れて、啓介に噛みつく二人。

「ところでさ、小山内君は、どうして痒くならないわけ?」

「あ、そりゃ、オレは虫除け塗ってますから」

「「なんだってえ!?」」

「え……オレ、なんか間違えてる?」


 女子二人のジト目に耐えきれなくなってきた啓介であった……。

 



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