第4話 がんばり系リア充認定の千歳

REオフステージ (惣堀高校演劇部)


004・がんばり系リア充認定の千歳                      


※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです






 惣堀高校は、見かけの割に充実したバリアフリーである。



 各フロアーごとに身障者用のトイレが完備、校内のドアの半分は車いすでの通行が可能で、そのいくつかには点字以外に音声案内まで付いている。エレベーターも早くから導入され、去年からは新型への更新も始まって、今では、バリアフリーのモデル校指定を受けるほどになっている。


 この充実ぶりには訳がある。


 大正の末にできた空堀高校は、第一次大戦の好景気や教育熱心な時代の空気を受け、敷地は広く校舎も間隔をあけて建ててあり、増改築が容易であった。

 それで全く新規に学校を建てるよりも、一ケタ少ない予算でほぼ完全なバリアフリーができるのである。慢性的に財政難な大阪府にはうってつけな実験校であったのだ。


 沢村千歳は、そんな情報をもとに空堀高校に入学した。


「なんだかなあ……」


 入学して4週間、すっかり口癖になった「なんだかなあ……」をため息とともに吐き出した。


 車いすの千歳にも申し分のない設備で、先生もクラスメートも親切に接してくれる。


「沢村さん、入る部活とか決まった?」


 今日も担任の村上先生が聞いてくる。


「いろいろ目移りして、なかなかです(^_^;)」


 もう100回目くらいになる答えをリピートした。


「あ、そう。なにか決まればいいわね」


 そう言って、村上先生は職員室に引き上げて行った。



「えと……部活とかもがんばりたいと思います」



 自己紹介で、うっかり言ってしまった。村上先生に指定された1分間の持ち時間を持て余していたからだ。


 その気になればいくらでも喋れたが、ピカピカの同級生たちは反応が薄かった。入学したてで緊張してもいるんだろうけど、これは元からこうなんだろうと思った。


 人への興味が薄く、薄い割には簡単に人をカテゴライズしてしまう。リア充、ツンデレ、ヤンデレ、オタク、モブ子、マジキチ、帰宅部、その他色々……。


 カテゴライズされてしまえば、それ以外の属性ではなかなか見られない。


 千歳は――足が不自由だけど頑張るリア充――とカカテゴライズされてきている。


 車いすという他にも、小柄で整った顔立ち、特に眉毛の頭が上がったところなど、微妙な困り顔。緊張すると潤んだ瞳と相まって――この子は頑張ってる!――応援しなくちゃ!――助けてあげなきゃ!――と人に思わせる。


 ほんとうは部活なんかに興味はなかった。


 最初に担任の村上先生が言った「空堀には20あまりの部活があります。きみたちも、ぜひクラブに入って、高校生活をおう歌してもらいたいものです!」という、ちょっと前のめりなエールというか演説はプレッシャーだ。


 5分ほどの演説の中で数十回繰り返された「部活」「がんばる」という言葉が刷り込まれ、残り15秒を持て余し、先生のウンウンと笑顔で頷くプレッシャーに「えと……部活とかもがんばりたいと思います」つい出てきた言葉なのだ。


 リア充と思われると、リア充として振る舞わなければならない。


 そんなシンドクサイことは願い下げだ。


 この二日歩で千歳は、ある決心をした。


 でも、その決心は口に出してしまっては顔に出て悟られそうなので、言わない。


「クラブ見学とか行くんやったら、押していくよ」


 くららが笑顔で寄って来た。なにくれと千歳の世話を焼きたがる真中くらら。悪い子ではないけどリア充としてしか会話が成立しない。


「ありがとう、今日は図書室行くから」


「そうなんや、沢村さんて、どんな本読むんやろなあ? また話聞かせてね。あたしクラブ行ってるさかい」


「うん、またね」


 そうして、千歳はエレベーターに乗って図書室を目指した。



 エレベーターが上昇するにつれて、千歳の決心はさらに強くなっていった……。




☆彡 主な登場人物


小山内啓介       演劇部部長

沢村千歳        車いすの一年生

瀬戸内美春       生徒会副会長

​生徒たち        真中くらら

先生たち        姫ちゃん(現社) 村上(千歳の担任) 隅田(世界史)

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