第13話 ゲーム大会
「このタイプの生姜焼き美味しいですね」
「ああー。肉ドーンも美味いけど、これだと野菜が美味く食えるんだよ」
俺と茜は夕飯を食べていた。今日のメニュー人参とタマネギ入りの生姜焼き、豆腐とワカメの味噌汁とご飯。生姜焼きには千切りのキャベツも添えているので、副菜は無し。野菜も十分取れていることだろう。
「それで律さん、何のゲームやりましょうか?」
「ああ、どうすっかな。割と色々あるけど」
アクション、レース、シミュレーション、
「あんまり力の差がつかないゲームが良いです」
「じゃあ双六だな。でもこのゲーム割と友情崩壊ゲームって言われてるんだよな」
「どんなゲームですか?」
「金太郎電鉄っていうゲーム。」
「あー、それ高校の修学旅行の時にやりました」
「何やってんの……」
「家と違って、高校は緩い校風の進学校だったもので」
「ゲームを持ち込んだ人がいたと」
「そうですそうです。携帯型ゲーム機を四人で回しながら遊びました」
面白いことやっている人もいるもんだなあ。まあいいや。ルール説明しなくて済んだし。口答でルール説明って結構難しいんだよな。
「それケンカになんなかった?」
「なりましたよ」
「修学旅行中に?」
「はい。そこまで深刻じゃ無いですけどね。私が圧勝したんですけど、それ以降は腹黒とか、計算高い女扱いされました」
ああ何か分かる気がする。茜と読み合いになると勝てなさそう。しかし、俄然やる気が出てきた。俺も金太郎電鉄は結構やりこんでいる。パーティーゲームを一人でやり込むなよっていう意見は無しな。
「よし、飯を食い終わったら早速やるぞ」
「はい。……でも、その前に……」
茜が若干モジモジしながら、お茶碗を差し出してくる。ああ、お替わりね。今更恥ずかしがることもないだろうに。俺はご飯をよそってやり、茜に渡す。
「……気付いたんですけど、今度から私が直接とりに行けばいいだけですね」
「ん? ああ、米の話ね。別にいいよ」
「でも、律さんいちいち席立ってますし……」
「気にすんなよ。俺、茜にご飯よそってやるの好きだし」
「ふぇっ!?」
「今なんか変な声出なかったか?」
「き、きの、気のせいですよ……?」
茜の顔を見ると、顔が大分赤い。そういえば、冷房つけてないし暑いのかもしれない。東北は関東ほど湿度は高くないが、暑くないわけではない。
「すまん、暑いよな。冷房つけるわ」
「へ? そんなに暑くは無いですけど」
「お前、顔赤いだろ。無理してるんじゃないのか」
「そ、そうですねっ。うん。めっちゃ暑いですっ!」
「そういうの遠慮する必要は無いからな」
冷房の設定温度は……、まだ二十八度でいいか。それでも暑そうだったら、ちょい下げよう。にしても、茜の奴……。電気代かかるとかで俺に遠慮していたのだろうか。俺はもっと気を回さないとな。
「ご、ごちそうさまでした」
「おう、お粗末様。暑かったらいつでも言えよ」
「は、はい」
俺も食い終わったので食器を下げる。さあ、洗うか。
「あ、そうだ。茜」
「な、何でしょう?」
「ゲームの準備しといてくれ」
「あ、了解です」
「頼んだわ」
俺は鼻唄まじりに食器を洗い始める。綺麗に平らげられた皿を見るのは嬉しいし、それをピカピカに洗うのも、得も言われぬ達成感を感じる。こういうのいいなあ。茜は読みが強そうだから、一回ガチンコで勝負したかったんだよなあ。
洗い物を終えた俺はビール片手に、スキップしながら茜の隣に座る。今日はあえて食事中飲まなかったんだよ。ああ~これこれ。このカシュッって缶を開ける瞬間。たまらんわあ。
「律さんご機嫌ですね」
「まあな。茜も飲むか?」
「まだいいです」
「甘いのも冷えてるから飲みたかったらいつでも言えよ」
「ありがとうございます」
ゲームが始まったので、俺が適当に設定していく。とりあえず十年プレイでコンピューターは一番強い奴。これでいいだろ。大体二時間で終わる計算だ。
「え、コンピューター一番強いのですか?」
「茜なら余裕だろ」
「私このゲーム割と初心者ですよ?」
「お前、読み合い強そうだから平気平気」
「律さんは私をどう思ってるんですか?」
「抜け目がないやつ」
「……良いでしょう。お望み通り徹底的に負かしてあげます」
「茜ってゲームとかだと圧倒的にラスボスキャラだよなあ」
俺は今までの茜を思い出す。冗談言われて見事に騙されたり、名前で呼ばせられたり、揶揄ったら倍以上で仕返しされたり。こうして振り返ると、俺雑魚すぎないか?時々、俺の思考読まれてるしなあ……。
「罰ゲームでも用意しましょうか」
「強気だなあ茜。いいぞ。あとで吠え面をかかせてやる」
「それ負けフラグ立ってません?」
「言ったな?」
「はい。では、罰ゲームは勝った方が負けた方に何でも命令出来るということで」
「ちょ、待ってくれ。このゲーム結構運が絡むぞ?」
「怖じ気づいたんですか?」
「そんなわけ有るか。良いじゃねえか。やってやるよ」
ヤバいな俺。自ら負けフラグを作りにいっている気がする。もうね、俺の
ゲームが始まると、俺と茜の実力は拮抗していた。若干俺の方が上だが。俺はデータを信用して勝つ確率の一番高い行動を選択し、茜は俺やコンピューターの行動を先読みして抑えるといった感じだ。なんで茜さんは当たり前のように思考を読んでくるんですかねえ。
そして、三缶目のビールが飲み干そうとした時に決定的な場面がきた。ここで目的地を押さえた方が、ほぼ確実に勝つような場面だ。ゴールまでのマス目は俺も茜もほぼ同じ。戦略もクソも無い、運勝負。
「律さん、ここで勝負がつきそうですね」
「だな。手が震えてきたぜ……」
「それは只のお酒の飲み過ぎです」
「ああ、そうか。道理で」
「お水飲んできて下さい」
「そうするわ」
さて、気を取り直してコントローラーを握る。最初にサイコロを振るのは俺。ここでゴールにピッタリ着く目を出せなければ敗北濃厚。無だ、心を無にしてボタンを押すんだ。初めて課金して超レアキャラを引いたときの気持ちを思い出せ……。いかん物欲センサーがっ。
「律さん、早くして下さいよ」
「いや、待て。心の準備をだな」
「ボタンを押すだけでしょう。誰が押しても一緒ですよ」
「待て待て。心を静めるから……。あ」
俺がそうこうやっていると、俺の手に、茜の手が乗ってきた。そして、俺の親指を上から押して、ボタンを押させる。一瞬何が起きたのか分からなかった。しかし、この衝撃はアルコールでバカになった俺の脳を、正常に機能させるには十分過ぎる衝撃だった。
手柔らかいなとか、俺より小さい手なんだなとか、とにかく色々な考えが浮かぶ。画面を見ると俺がゴールしていたようだが、そんなことはどうでも良い。嬉しい、恥ずかしい、死ぬ、といった感情が交錯している。
「律さんゴールしましたね。おめでとうございます」
「お、おう」
茜は何食わぬ顔で手を引っ込める。その顔を見ると色々考えていた自分がバカらしい。はい、止め。考えるの終了。そして再び思考停止した頭は、茜の耳が真っ赤になっていることに一切気付かないのだった。
「律さんの勝ちですね」
「おう」
「じゃあ、私に命令して下さい。何なりと」
「あ」
茜に負けないことに必死で、自分が勝った場合のことを一切考えてなかった。どうしよう。何でもって言ったよな……。よし、決まった。
「茜、頼みがある」
「はい。いいですよ」
「食費を折半にしてくれ」
「は?」
今まで聞いたことの無いような声が茜から漏れる。何というか……、かなり間抜けな声だ。そんな声まで出るんだなあと感心する。
「いや、だから食費だよ。一対一にしてくれ」
「律さん……。はあ……」
「呆れる理由は分かる。ただこれは俺にとって死活問題なんだ。男の
「分かりました……」
「そう言ってもらえて良かったわ」
茜はこめかみを押さえて溜息をつく。分かってる。俺もそこまで鈍感じゃあ無い。茜は色々、心の準備をしたことだろう。女子のプライドを踏みにじる様なマネをして申し訳ないがこればかりは譲れない。
「あの、律さん。私、律さんがここまでヘタレだと思わなかったですよ」
「悪いと思っている。けど俺にとっては一番重要なことだったんだ」
「私ポッキーゲームぐらいまでなら全然オッケーするつもりだったんですけどねえ」
「俺がそんなこと出来ると思うのか?」
「いや、寝ている私に何もしない時点で察していましたが……」
「俺のことよく理解してるじゃないか」
「律さん本当に卒業しているんですか?」
茜は何をとは言わずに問いかけてくる。失礼な。勿論、童貞は卒業している。ただなし崩し的に体に触れたりして後悔したくないだけだ。童貞と言われても結構。
「卒業はしているぞ。ただ軽々しくそういう事をしたくない」
「本当に頑固ですねえ」
「悪いな。これが俺なんだわ」
「分かってますよ。律さんがそんな人だからこそ、今もゲームしているわけですし」
「おう。次のゲームは何する?」
「アクションやりたいです。こうなったら徹底的にやります。お酒下さい」
「ほいきた」
俺は冷蔵庫からチューハイを取り出し、茜に渡す。夜はまだまだ長そうだ。
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