クリハ村の攻防2

 少し前




 敵5000に対してこちらが200。

 200の中から50は敵に突貫、残りは村人を守っている。

 50が敵を抑えてくれるはずもなく自分達に出来るのは村人を守る為に団長達の為に時間を稼ぐ事だった。

 だが、圧倒的な物量を前に味方の士気は徐々に下がっていき、村人を放って敗走する者まで現れた。


 だが、その直後に連合の兵士の槍に刺し貫かれる。

 どうやら、連合は自分達を逃さず、皆殺しにする気だ。

 圧倒的な強者の蹂躙に未だに経験が浅い若者達は慌て、戦意を消失、膝をつき、絶望にくれて連合の槍に刺し貫かれる。

 だが、そんな中でも1人の男だけは戦意を失わず、敵に斬りかかっていた。




「うおっ!」




 息を鋭く吐くような音と共にカシムは敵の剣諸共、敵の正中線を両断する。

“剣化”の力がこの土壇場でモノにする事が出来た。

 アダマンタイトで出来た剣は神力の伝導率が良く、敵の鉄剣をチーズのように斬り裂いていく。


 普通に剣を打ち合い鍔迫り合いをして戦う彼等にとってカシムの剣は厄介だった。

 攻撃を剣で防ぐ事を定石として来た事で攻撃は剣で受け止める習慣があるのだ。

 それはカシムも同じだが、カシムの場合、仲間や弟の命がかかっている場面で無意識的に防御よりも勢いで積極的に斬りかかり、そのまま敵を両断していく。


 それにより返り血がカシムに大量に付着、その度の彼の目が鋭く剣士の顔つきに変わる。

 その姿と形相に連合の兵士から見れば、ゴブリンと呼ばれる魔物の上位種であるオーガ……”鬼”のように見えた。

 人の様に物を考え、知恵を働かせ、圧倒的な力で人を蹂躙する存在……人では勝てない化け物のように見えたのだ。

 血だらけの彼がこちらに歩み寄って来るのを見ただけで恐慌した連合も彼から遠ざかるように逃げていく。




「死なせないぞ……絶対死なせないぞぉぉぉぉ!」




 鬼の如き形相で走り寄り、迫り来る敵を斬り倒していく。

 カシムの中には仲間や家族に対する想いが込み上げる。

 自分の全てをかけても例え、この場にいる全ての敵を敵に回しても勝つと言う想いが、彼に勢いを与え、”剣化”を使い熟せるまでに至らせていた。

 その勢いの敵の指揮官は恐れ抱き、瞠目する。




「なんという男だ!これだけの軍勢を前にして圧倒するとは、奴はオーガの生まれ代わりだと言うのか!だが、こちらの札はこれだけではない!」




 すると、彼の背後から杖と頭にロープを被った男達が現れた。

 魔術師だ。

 彼らが杖を翳すと光が発せられ、光の中からシルバーウルフが20匹ほど現れた。

“召喚魔術”により、”従魔契約”したシルバーウルフを空間転移させ、召喚した様だ。

 シルバーウルフは1匹で中隊級の戦力が必要とされる魔物だ。

 普通なら1人では勝てない存在だが、カシムはそんな事を考える余裕すら無かった。

 どうやって、それを倒すか頭を巡らせる。

 シルバーウルフ達は魔術師の指示で一斉にカシムに飛んでくる。

 この戦いである程度、肝が据わったカシムは冷静に思案を巡らせる。




(確か座学でシルバーウルフは炎に比較的に弱いと聴いた事がある。どの程度の火炎魔術が効果があるのか分からないがやってみるしかない!)




 カシムは右手にアダマンタイトの剣を左手にグローブ型の”火炎魔術”のスクリプトが刻まれた”ファイア・ボール”が発射できる手袋を嵌め、グローブに神力の流し、左腕をシルバーウルフの群れに翳す。




「喰らえ!ファイア・ボール!」




 だが、その瞬間、アダマンタイトの剣が光った。

 放たれた”ファイア・ボール”がシルバーウルフの群れに直撃、”ファイア・ボール”とは名ばかりの凄まじい爆音と共にシルバーウルフはおろか周りの兵士や魔術師すらも粉々に吹き飛ばした。




「えぇ!」




 あまりの事に驚愕とカシムは自分のグローブを見つめ、瞠目、慌ててしまう。

 自分が放つ”ファイア・ボール”がどんなモノが知っている。

 少なくともあんな高火力は出せない。

 しかも、普段の”ファイア・ボール”を撃つ時よりも神力の減りが少ない。

 その時、自分の右手のアダマンタイトの剣が淡く光っているのを見た。

 なんとなく分かった。

 どう言う理屈か分からないが、この剣に付与されたスクリプトの影響だ。

 そこにさっきの爆風で錯乱した馬がこちらに走り寄って来る。

 カシムはそれにうまく飛び乗り、馬を手懐け、敵軍に向かって突貫する。




「この力ならいける!」




 カシムは気持ちを意識を明確にする為に「ファイアボール!」と言う言葉を連呼しながら、魔術を敵軍に放つ。

 敵の魔術師がそれに反応して”障壁”を展開するが、”ファイア・ボール”はそれすら簡単に破り、凄まじい爆炎と共に敵が四散していく。

 カシムが通り過ぎる左右で人が吹き飛び、1発の魔術で200とか300人の人間が散っていく。

 豪炎とも言える爆炎を放つ”鬼”の姿に誰もが畏怖して、皆が逃げ始める。




「化け物だぁぁぁぁぁ!」


「鬼だ!悪魔だ!」


「炎を操る鬼!炎鬼が来るぞ!逃げろぉぉぉぉ!」




 完全に士気が削がれた敵軍は雪崩のように背中を見せて逃げ惑う。

 追撃してやろうとも思ったが不意に目をやると”13騎士”と思わしき男にライトメイス団長が銃口を突きつけられているのが見え、彼は馬を駆り立てる。




「ライトメイス団長!今、お助けします!」




 それに気づいた”13騎士”の8の騎士の男はカシムに銃口を向けて発砲する。




「ファイア・シールド!」




 グローブに刻まれたもう1つの”スクリプト””ファイア・シールド”を前面に展開、敵の弾丸を焼く。

“13騎士”と敵対した場合のレクチャーは受けていたお陰で相手の狙いに気づき、防護する。

 風除けの魔術も炎の壁の前では意味を為さず、圧倒的な熱量で蒸発する。

 ガウルはライフルが不利だと考え、剣に持ち替えて構えた。

 カシムは馬でガウルに肉迫すると馬から跳び上がり、上段からガウルに斬りかかる。




「13騎士!取ったぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!」




 カシムの上段にガウルは剣を横にしてガードする構えを取った。

 だが、”剣化”を纏ったカシムの剣は易々とガウルの剣を裂き、剣の軌跡がガウルの正中線を過ぎる。




「ば、馬鹿なぁ……」




 ガウルの体は鎧ごと正中線から両断され、割れ、その場に崩れた。

 それに取り巻きの部下達に動揺が奔る。




「ば、馬鹿な……ガウル様を一撃だと!」


「ガウル様は剣の達人だぞ!それをこんな……」


「き、貴様!貴様は一体、何者だ!」




 自分達の動揺を抑え込もうと多弁になり、口走る男達にカシムは思考した。

 そして、自分が持つ右手を剣を見つめる。




(そうだ、そうだな。オレはあの人を誇りに思っている。あの人のおかげでここにいるんだ。なら、堂々とあの人の誇りを証しよう)




 カシムは全ての世界に響くような声量で告げた。

 そして、このカシムの一言がアリシアの道筋を決める事になる。




「オレの名はカシム・エール!天下無双の最強騎士!アリシア・ズィーガーランドの一番弟子だ!」




 こうして、連合軍は瓦解、敗走する事になる。

 そして、カシムの大胆な宣言は傍にいた通信兵により、全軍にその名を響かせる事になる。

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