聖馬の装具

 それから数日後



 識別信号を確認した限り、何やら数日間”災いの森”の中を徘徊していたようだが、敵は完全に撤退したようだ。

 今、振り返ってみると他の隊員を殺してから数日は経っていたのに味方の死を誰一人気づいていないようでもあった。


 識別信号の挙動でも見れば、その程度、分かると思うのだが、案外通信もまともに出来ない連中だ。

 識別信号の見方すらまともに分かっていなかった可能性はある。


 何にせよ、APは解析の為に外に出していないとならない。

 もし、敵が現れてもレーダーで探知出来るのでまず、大丈夫だろう。

 ステルスなんかを使われなければだが……アリシアは簡易的な格納庫を家の隣に作り、その中で機体の整備と解析を行いながらリバインにAPについて説明した。

 リバインはまるで童心にでも帰ったように子供ように無邪気に笑い、目を輝かせながらAPの話を聴く。


 時にOSとかプログラムとか馴染みのない機能に困惑する時もあれどなんとか理解しようと懸命で遊びに夢中になった子供にように燥いでいた。

 こうして、説明してみるとやはり、自分はこのAPについて何か知っている。

 恐らく、このAPに乗り込んで戦っていたのだと思う。


 しかし、誰がこれを用意した?と言う疑問も浮かんだ。

 リバインや紅翼騎士団の反応を見る限り、APはこの世界には馴染みはないはずだ。

 だが、存在しないモノがいきなり生まれる事はまずない。


 何かしらの過程は経るはずなのだ。

 例えば、レーダー機器の誕生やアクチュエータの誕生やシステムの構築などそう言った細かな技術の累積でAPは完成するのだ。

 いきなり無いところから超自然発生的に生まれる事は無い。

 だが、現実はそうなっているらしい。

 ここで考えられる可能性は極論だが、2つある。


 1つは今の時代の文明レベルよりも高度な文明を誇った古代兵器を現代人が発掘した可能性だ。

 それなら誰もまともに使えないのも説明が出来る反面、ここ2ヶ月で出現したモノに何故、”アイの国”と言う整備スタッフが用意出来るのかと言う疑問は残る。

 幾らなんでも何も分からない状態から2ヶ月で解析して全てを理解するのは不可能な筈だ。


 そうなると最も濃厚な可能性が残る。

 APは”アイの国”から齎された。

 しかも、アリシアが異界から来た事とアリシアがAPを知っている事から”アイの国”は恐らく、アリシアが居た異界の国である可能性が高く、”アイの国”は異界を行き来する技術があるかも知れないと言う可能性だ。


 だとすると、アリシアが帰還する為には”アイの国”と共闘する、利用する等をしないとならない訳だが、そうなると失敗だったかも知れない。

 首を差し出したAPの戦闘記録を見れば、アリシアの顔と姿、名前が記録されているだろう。

 つまり、現状暫定敵として扱われる可能性は高い。


 これでは帰還の手段が1つ潰えているかも知れないが最悪、その時は不幸な行き違いでしたと答えつつ”威圧”をかければ押し切りで帰れるかも知れない。

 それに”アイの国”がそもそも、味方である可能性も無い。


 この世界ですら複数の国があると聴く。

 それは自分の世界とて例外ではないはず……ならアリシアが”アイの国”の敵対国家の兵士とかなら協力した瞬間、捕虜になる可能性もあり得る。

 それに個人的に人間と言う者が信用に置けない。

 人間は人間同士で決めた約束事もまともに守れない。




(確か……誰だったかな……「ジュネーブ条約には、捕虜は丁重に扱えということになっているが……あんな建前だけのルールを守っているやつなどいない」その事に「そんな馬鹿の事をほざいているが人間の決めた小さなルールすら守れないクズ、それが人間だ」みたいなニュアンスの事を言っていた男がいたはずだ……名前はなんだっけ?次元◯介だっけ?まぁ、いいや……)




 とにかく、仮称:次元がそんな毒舌な事を言った事でアリシアの中に少しだけ溜まっていたフラストレーションが解放された事を覚えている。

 とにかく、人間は裏切る事を前提にした方が良い。

 今はその事を考えても仕方がないが、やれる事はやっておこうと考えた。


 アリシアはユニオの鐙や蹄鉄、鎧などを”武器創造”と言う神術を使って作り上げている。

 アリシアの力が上がる度にまるで封印が解けるように使えなかった神術が使えるようになっていく。

 この”武器創造”もその内の1つだ。

 神力をベースに記憶や知識、発想で武器を生み出す事ができる。

 使用する素材も元素の構造式まで指定すれば、生み出せる。

 ただし、明確な認識と精確な記憶の精度が求められる。

 

 作っていると思い出す事もある。

 武器の作り方や構成の仕方などが頭に浮き上がる。

 どんな構造にするか?神力の配分、力加減などが不意に頭に浮かぶ。




「うん、こんな感じかな?」




 聖馬の装具


 防御力 10000


 神力保有 15000


 神力 極大 神力 極大Ⅱ 神力 極大Ⅲ 神力 極大Ⅳ 神力 極大Ⅴ 心意守護 ? 防御 極大 防御 極大Ⅱ 防御 極大Ⅲ 防御 極大Ⅳ 防御 極大Ⅴ 俊敏 極大 俊敏 極大Ⅱ 持久力 極大 持久力 極大Ⅱ 持久力 極大Ⅲ 神力生成 極大 神力生成 極大Ⅱ




 作ってみて分かったがアリシアが今、使っている鎧や刀より強い。

 これを機に自分の鎧と刀作り直した方が良いかも……と思う出来栄えだった。


 ユニオの戦闘機動を下げない為に重い金属などは使わず、稼働域の妨げにならない軽装にしたが、装備しているだけで全身を鎧で保護するような仕様になっている。


 寄生虫対策として神力を高めにしてある。

 防虫対策に構成を割くよりは戦闘にも直結する神力を増強する事にした。

 更に機動力に直結する”高速移動術”の派生である”俊敏”と言う神術がユニオには無かったのでこの鎧にその機能を付与した事で野生にいるライトニング・ユニコーンとは秀逸な存在となった。


 今回この鎧には試験的に”触媒石”を付与した事で神力保有も大幅に上がっている。

 神術が多過ぎるとどうしても色々、複雑化してしまうが、この技術で少しだけ簡便化に成功したと言える。

 これを踏まえて今度は自分の鎧を仕立て直す事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る