イスラエルの王
アジア戦線 カンボジア付近
大戦中に様々な独立国家が建国された。
それは大戦と言う混沌とした時代を生きる生存戦略としてだ。
特に昔から国々の繋がりのあった東南アジア諸国連合は1つの国として合併、アセアンと言う独立国家が建国した。
地球統合政府は人類の管理と保全、秩序を名目に現在もアセアンに侵攻している。
尤もアセアンは当初、地球統合政府の統合化を承諾しようとしたが、国内の治安や諸々の事情で早急な対応は出来ないと返答するとそれを反抗の意志と受け取った地球統合政府に攻撃され、現在も戦争が続いている。
旧インドネシアを国土としているアセアンは地理を生かし、様々な群島に秘密基地を点在させている。
その基地から随時、前線に部隊を派遣する事で前線を保っている。
島が点在している事もあり、地球統合政府としては大きな打撃を与えられず、仮に拠点の情報を掴んでもモグラ叩きの様に永遠と戦わねばならなかった。
未確認の衛星がアセアンの領空に入ろうものなら、群島に点在する基地から問答無用で衛星撃墜用のレーザーが照射され、群島に対する攻撃もままならない。
更にアセアンは近年、独自技術で”アトミックフュージョンジャマー”を開発、各基地に配備。
群島間でジャマーを展開する事でAPやADの動力である核融合反応を完全に封じ込めている。
核融合の燃料である水素に対して電磁的干渉し易い電磁波を利用、水素を絶対座標に固定すると言う原理だ。
無論、味方側ではジャマーに対するキャンセラーを搭載しているので群島内で活動可能になる。
更にカンボジア戦線ではアセアンの主力機であるAPオラシオMkⅢに装備としてジャマーを搭載、地球統合軍のワイバーンMkⅢを主力とした水連四式のAP混合部隊を壊滅させていた。
現在、地球統合軍とアセアンが戦闘を行なっているが、現状はアセアンの有利で運んでいた。
APに積めるサイズの問題から有効範囲が限られるが、狙撃銃でもない限り、その範囲から逃れる事は出来ない。
「くそ!アセアンの奴らめ!」
「これじゃまともに動けね!蜂の巣にされるぞ!」
彼等の予期通り、地球統合軍の味方部隊は蜂の巣にされていく。
唯一の対抗手段である狙撃もアセアン側の狙撃手により駆逐されている。
最早、彼等に勝機はない。
あとは蜂の巣になるのを待つばかりと思われた。
だが、戦域の上空に1機の輸送機が近づこうとしていた。
ユウキはその中で
「作戦目標は敵の殲滅です。それ以外の指示はありません」
「了解したわ」
相手の女は気に入らないが、優秀な駒であるのは間違いない。
不承不承ではあるが、自分の目的の為には彼女を使うしかない。
「あなたの機体。ネクシル・リビフリーダには”WNコンバーター”が付いています。空中のWNを永久的に吸い上げ、電力に変換します。だから、敵のジャマーに影響される事はないわ」
「これで私は自由になれるの?」
「自由になれるかは戦果次第です」
「なら、やってやるわ!私は私の人生を取り戻す!」
「期待してるわよ。間藤・ミダレ。いや、キラース・カーショ」
「了解」
そして、戦場にネクシルリビフリーダが落とされた。
“英雄”キラース・カーショと言う悪魔を伴って……。
「上空に感あり。識別を確認。アレは!」
「ネクシルタイプだと!まさか、蒼い閃光が来たのか!」
「いや、色が違うアレは白だ!」
「だが、統合軍である事に変わりはない!すぐに殲滅するぞ!」
着地したリビフリーダの敵が群がり、一斉に包囲する。
”アトミックフュージョンジャマー”の圏内に入れて動きを鈍らせてからハチの巣にすると言うアセアンの基本戦術だ。
「単機で何を企んでいるか知らんが、奴はジャマーの影響で動けない筈だ。一気に倒すぞ!」
アセアンのAPは銃口を向ける。
だが、それにキラースは憐憫とも見下しとも取れるような目線で敵を見つめる。
「やめてよね……私が本気を出したらあなた達なんか私に敵うはずないでしょう」
キラースは敵軍に左右両腕の試作型レーザーライフルを向け、更にマウントハンガーに搭載された複数の砲門を敵に向けた。
それを敵勢行為を判断したアセアンはすぐにXM8の派生であり、36.6mm弾に対応しているXM99A5アサルトライフルを発砲するが、敵機は上空に跳ね上がり、複数の砲門から放たれたレーザーが敵の胴体を貫いた。
「何!APに光学兵器だと!」
「しかも、なぜこの状況で撃てる!」
「危険な相手だ!すぐに殲滅するぞ!」
「そうだ。オレ達は平和を守ってみせる!」
その通信を傍受していたキラースは何かを決意したように呟く。
「どんな苦しい世界でも変わらない世界なんてゴメンよ!変えてみせる!世界を変えて私は生き残る!」
それは自分の自由を頑なに阻む世界を変えようとする意志の現れだった。
彼女の中にはアセアンを滅ぼし、世界を変え、自分が生き残る術を考えていた。
どんなに辛くても全力で生きていつかきっと幸せを掴めると信じて……キラースの中には思いもあり、力もある。
世界を変えようとする思いと世界を変える力がある。
「世界を変える思いだけでは無意味。だから、私は力を示す!」
キラースはユウキから受け取ったネオスとしての能力を使い、敵の攻撃を避ける。
そして、流れる様に後方に下がりながら敵に光学兵器を見舞う。
キラースは雪崩のように舞い込んでくる敵を次々と撃墜していく。
その火力と光学兵器の長距離砲撃とネオスとしての能力を活かし、敵を始末する。
10秒経たない内に既に100機近い敵を撃墜してみせた。
「なんだ!あの敵は!」
「あの機動力であの火力!やはり並みの敵ではない!」
敵の危険性を感じ海岸のAP空母から機体が次々と発進しようとしていた。
「やらせないわ!」
キラースは長距離砲撃を利用して敵の戦艦の動力部を的確に貫いた。
敵の動力は誘爆、それに巻き込まれてAPを撃破される。
だが、敵は際限なくキラースに迫る。
キラースは敵の攻撃を圧倒的な機動力で回避し砲撃で沈める。
それを永遠と繰り返す。
これだけの消費にも関わらずエネルギーが切れる気配すらない。
空間から永続的にWNを変換、電力を取り出す事でリビフリーダは無限の出力を得る事が出来る。
しかも、WNによる変換は変換効率が非常に高く平均して100%を超える。
その甲斐あり、リビフリーダは高機動、高運動性と高火力を両立した機体となった。
更にネオスの能力を併用すれば、機体の複雑な管制も易々使い熟し、人間以上の運動能力の獲得しているのも相まって高いポテンシャルで仕上がった機体と成っていた。
「行ける!このまま倒し続ければ敵を殲滅出来る!この力があれば、世界を変えられる!」
キラースは浮かれていた。
彼女にとって敵は取るに足りない存在だった。
今のキラースは頭脳面、身体面全てにおいて人間を凌駕し、その愉悦に浸る。
意識はしていないが、自然と人を見下し雑魚だと思っていた。
「世界を変えるか……それを愚かだと言うのだよ。偶像英雄よ」
キラースの思いを遮る様に通信に割り込みが入った。
すると、突如、レーダーが上空で敵を捉え、キラースは上空を見つめる。
そこには1機の機体があった。
その姿に戦域にいた全ての者が目を惹く。
紅蓮の色を纏い周りから陽炎の様に熱気を出す機体。
まるで地上の太陽と形容出来るような異質な容姿に目を奪われる。
その機体は紅蓮のネクシルタイプの機体だった。
ある人物の機体として与えられたネクシル・ヤルウェと呼ばれる機体だ。
「新たなネクシルタイプが出現!」
「速やかに殲滅せよ!」
アセアン軍が紅蓮の機体にも攻撃を仕掛けようとした。
「待たれよ」
ネクシル・ヤルウェはオープンチャンネルで全域に通信を送る。
「あの白い機体は私の得物だ。手出しされるな」
「何だと?つまり、我々の味方だと?」
「汝らを味方とは思っていない。ただ、あの白い機体は私の敵。それだけだ」
キラースは不快そうな声色を覗かせながら、問いかけた。
「あなた、一体何なの?」
「我が名はソロ。かつて、イスラエルを統べた王。イスラエルのソロモンである!」
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