愉悦に浸る襲撃者
「これが駆動系?」
「はい」
「随分、小さいんだな」
「小型ですからね」
「いや、ちょっと待て!これで一体どうやって動かす気だ!」
「あぁ!」
アリシアがポンと手を叩く。
「説明しないとダメですよね?」
全員が転ぶように倒れる。
「当たり前だ!こんなの見て誰が駆動系だと思うんだよ!」
ネクシレイター間なら余計な会話なしで会話が成り立ってしまうから人間相手だとやり難い。
説明不足な時があるから困り物だ。
「では、説明しますね」
こうしてアリシアによる新型機のレクチャーが始めようとした。
◇◇◇
同時刻
「目標万高にセット。いつでも発射可能です」
「よし。オレの合図と共に万高に攻撃しろ」
宇喜多はモニター越しにワインを片手に眺めていた。
バビ以外の独立国家との戦闘の中で彼はユウキ博士の協力もあり、物質を産み出す技術を編み出した。
尤も、その過程で多くの人間が死んだが、彼の知るところではない。
衛星軌道上のカメラには全体の半分近い大きさの巨大な砲身に円錐型の装置が付いた人工衛星があった。
最新の物質生成技術により作られた特殊弾頭を発射する衛星電磁投射砲”イゾルデ”だ。
無限(I)の弾丸を特定領域内(Z)に生成ループ(L)を発生させ電磁投射として放つ破壊兵器(D)と言う接頭語が名前の由来だ。
正式名称はInfinity Zone Loop Destroy
電磁投射砲の使用は本来、カイロ条約で禁止とされている。
それは戦艦の光学兵器とは違い発射予兆が無い為だ。
この世界の光学兵器には2つのパターンに分かれる。
1つがハーフミラー方式。
鏡の中で光を往復、共振させた後でハーフミラーと言う半分、光が透けた状態のレーザーを撃つ方法。
もう1つが核融合方式。
機構内部で臨海状態の核融合を起こす事で瞬発的な強い光を放つ方式だ。
制御の容易さと安全性から前者が選ばれる事が多い。
だが、2つに共通する事はレーザー発射までにタイムラグがある事だ。
両者とも共振と融合反応を起こすのに時間が必要だ。
APにはそれを利用した光学兵器回避プログラムが入っている。
センサーで光学兵器の発射予兆を検知、撃たれる前に回避行動を取るのだ。
撃たれる前に避けているのでこの方式なら何もしなくても機体が発射前に避けて回避する。
尤も、光学兵器を放つ側の射撃技術と回避側の回避技術によって命中率に大きな差が出る。
だが、電磁投射砲にはその予兆が殆ど無い。
起動時に一瞬、電磁気が発生するだけだ。
後は電磁気を発生させたまま撃ち続ける。
その弾速は音速の数10倍と言われ、撃たれたなら、例え、光学兵器の光速より遅くとも避けられない。
撃ったら最後、相手を一方的に殺すその凶悪性から大戦後の使用は禁止とされた。
尤も、音速を超える弾を発射する関係上、弾が自壊しない特殊な金属弾頭が必要かつ大量でなければ戦果が出せず、コストの関係上大戦中に使われたケースも少ない。
だが、宇喜多やユウキ博士はオルタ回路に改良を加え、特殊弾頭を無限に生成する手段を手に入れた。
これにより唯一の問題点だったコストパフォーマンスが解消されたのだ。
既に幾つかの独立国家に試射として撃ち込まれ、あまりの運動エネルギーから地形は抉れ、国そのものが無くなった様だ。
それによる死傷者はファザーにより隠匿され、統合政府間では国が何者かにより、ある日突然消滅したという騒ぎになっているだけだ。
世間への不安を煽らない為にこの事は公にはなっていない。
「感謝するぞ。ユウキ博士。お陰で究極の兵器が完成した」
「いえ、わたしも有意義な実験の機会を設けて頂き感謝に堪えません。お陰でオルタ回路は精度が上がり、世界は平和に近づきました」
モニター越しに協力者であるユウキ博士の顔が映し出されていた。
彼女の普段は飲まない日本酒を上機嫌に飲んでいた。
2人とも酔いが回り、更に上機嫌になっていく。
「お互い様だ。これで世界の統治は盤石になる」
「人類の統合化の意味を知らない欲と囚われた俗物達を一掃するには良い機会でした。これで統合化は渋っていた彼らも焦る事でしょう」
「これで人類存続は成される。コードブルーを排除してあの技術さえ奪えば、人類発展にも繋がるでしょう。全く、馬鹿な女。わたしと手を組めば、対等に扱ってあげたのに……」
ここにシンがいたなら「それは対等に扱う気の無い奴の台詞だ」と言っただろう。
事実としてアリシアやシンが存在しなければ、オルタ回路を完成させる事も出来なかった女が“高慢”にも自分の成果のように誇示する姿は人類存続させたい者の意志では無い。
況して、量子力学者であり、意志と物理的な関係性を専門に研究している女の考え方ではない。
本当に平和を願うなら高慢さは自然淘汰されるものだ。
彼女の本性も悪魔と大差ないのだ。
「では、あの忌々しい娘の最後の時だ!」
宇喜多はそう言ってボタンを押した。
だが、妨害されているとは言え、この世界の全てを見渡す目を持った女が彼らの俗物的な考えに全く気付いておらず、全く対策していないなどと言う事は決してない事を彼らは知らない。
仮に彼らの全ての計画を知らなくても彼らの俗物的な考えから次に何をするか、予測するのは容易な話なのだ。
そして、その時が来たとアリシアは勘づいた。
「愚かな……」
アリシアは工藤達に解説する前にふっと声を漏らした。
「どうしたんだ?」
すると、校内に警報が鳴り響く。
校内に衛生砲によるロックオンを検知!繰り返す衛生砲のロックオンを検知!
そのアナウンスに生徒は慌てる。
彼等は準軍人だが、衛星からの攻撃と言う機会に遭遇した事がない為、パニックになり走り出す。
「隊長!どうします!」
「落ち着け。レーザー砲なら地下の方が安全だ。対レーザーコーティングが施されている。下手に動くより安全だ」
「この場を動かない方が良いのは賛成です。ですが、相手は質量兵器の様です」
アリシアはタブレットを差し出した。
そこにはこちらを攻撃する衛星らしい物のパラメータが出ていた。
光学兵器発生予兆は無い。
寧ろ、電磁気の指数が上がっている。
工藤は直感した。
「まさか、嘘だろう……電磁投射砲だと!」
「大丈夫です。こんな事もあろうかと用意はしています」
アリシアもまたタブレットのボタンを押した。
そして、衛星砲から電磁投射砲が放たれた。
眩い光と共に弾丸が万高に迫る。
そして、何の抵抗も出来ぬまま誰もが終わると思った。
だが、そうはならなかった。
事は一瞬だった。
万高の屋上に無断で配置された装置が次々と起動した。
万高の上空にリフレクターが展開された。
その直後、弾丸がリフレクターに直撃する。
一点に無数の弾丸を受け亀裂を走らせながら、リフレクターは弾丸を受け止めた。
そして、そのままのエネルギーを来た方向に返す。
来る弾丸と帰る弾丸が直線上で交わり互いの弾丸が弾き合う。
だが、鯉の滝登りの様に帰る弾丸が勢いを増し衛星を貫いた。
衛星は木っ端微塵に砕ける。
宇喜多とユウキ博士はその光景を唖然と見る。
そして、地上に落ちた最後の弾丸がリフレクターを貫通、万高の校庭に刺さる。
減衰した事でそこまでの被害は無かったが特殊弾頭は原型を留めたまま、生徒達の前で悠然と刺さる。
「くそ!またしても……またしてもぉぉ!」
「まさか、これ程とは……」
彼らの上機嫌だった酔いが一気に醒めるほどの衝撃的な展開に不愉快さ混じりの呆気に取られる。
2人は悔しく歯軋りする。
「甘いんですよ。あなた達は……」
アリシアはどこかにいる誰かにそう呟いた。
宇喜多が自分の暗殺を諦めて確実に仕留める為に万高を巻き込む可能性は既に計算の内だ。
人間とは本質的に破壊を好む。
その事を打算に入れれば、宇喜多の行動パターンを予測する事など造作もない。
その破壊の為ならシンが警戒していたユウキ博士を使う事すら計算の内だった。
尤も、物質生成する電磁投射砲やその威力がリフレクターを貫通する程とは思わなかった。
どうやら、課題はまだある様だ。
時は迫る。
全てを終わらせるオメガノア計画。
それは人類史の抹殺と終焉を告げる。
最期の時だ。
学校のアナウンスが生徒達に近くにある退避路から速やかに逃げる様に指示を出す。
万が一に備え学校から離れる準備をする様だ。
「この話はまた、後にしましょう。今は退避が優先です」
「そうだな」
「それに……」
アリシアは満面の笑みで答えた。
「これから忙しくなりますから!」
それが一体何を意味するのかこの時の彼等は知らない。
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