稲葉麗華先生からの依頼

 警察署


 アリシアは警察署で事情を聴かれていた。

 アリシアが手に入れた毒物も既に警察に渡した。

 未使用の瓶が部屋にあったでは誤魔化せないからだ。

 何故なら、違法臓器売買の一環で毒を飲んでいた女がいるのに未使用と言う言い訳をしてもアリシアが疑われるからだ。

 ”空間収納”に仕舞って隠してGGに持ち帰って独自に捜査すると言う事もできたが、これはGG隊の仕事ではなくあくまで万高のアリシアが受けた仕事であるので警察との連携は必須だ。

 一度、そう言った意識に緩慢になると後々、その緩慢さが忠実な仕事と言うモノに支障を来すとアリシアは思っているので毒物を警察に渡した。


 だから、ここはある程度正直に「この毒は血中の毒を抽出して毒に変質する前に還元しました」と答えた。

 尤も警官の人はアリシアが何言っているのかよく分かっていないようで首を傾げていたが瓶は科捜研に持っていかれ、鑑定されている。

 量子コンピューターの解析があれば、そう時間はかからず、嘘を言っていないと分かるはずだが、どうも時間がかかっている気がする。


 待合室でGG隊の連絡や雑務をスマホPCで整理していると警官とある女性が入ってきた。

 女性の方は背筋をビシッと伸びており、切れ目でカッコいい黒髪ロングヘアのキリっとした目の大人の女だ。

 黒髪バージョンのブリュンヒルデのようなカッコいい女性と言えるだろう。




「初めまして……になるのか?」




 女性は右手を腰に当てて左手をだらりと力を抜く。




「そのはずですが……あなたは?」


「わたしは稲葉・麗華。お前の担任の先生だよ」




 稲葉・麗華。

 代理の先生から名前だけは聴いている。

 顔に関しては訳があり非公表になっており、知らなかったが先生にしては少し特殊な先生らしいと聴いている。

 彼女がここにいると言う事は恐らく、麗華もこの事件を追っている関係者だと言うのはすぐに理解できた。




「早速なんだが、あの毒はどうやって手に入れた?」


「説明通りだと思いますが?」


「俄かには信じられないな。あの毒はかなり高度な毒でその場で機械も無しに還元できる物ではないぞ」


「そこは企業秘密と言う奴です」




 スキルを見せても良いのだが、“奇跡”を見せても人は神を信じる訳ではない。

 無暗に見せるのも決して良くはない。

 ユリのように素直に「神様すごい!」と信じてくれるなら別に良いが、ここにいるメンバーは決してそうではない。




「それはGG隊の機密に関わるのか?」


「そう思ってくれて構いません」


「……分かった。なら、これ以上は詮索はしない」




 麗華のその言葉に周りの刑事も相槌を打ち部屋を出て行った。

 そして、まるで人払いを済ませたと言わんばかりに麗華は口を開いた。




「時に聴きたいのだが、アイはギャンブル、出来るのか?」




 本当に唐突だった。

 できるか出来ないかと言われれば、昔生計を立てる為に賭けポーカーやっていたくらいには出来る。

 リテラやフィオナと狩猟採取だけでは生計立てられなかったので頭脳労働のアリシアが大人に混じってやっていた。

 親には黙ってやっていたが、それなりに勝てた方だ。

 尤も、その後に親にバレて「やめなさい」と言われて手を引いたが……。




「まぁ……ポーカーくらいは出来ますよ」




 厳密には神の能力を使えば基本何でもできる。




「そうか。なら、わたしからの依頼を受ける気はあるか?」




 アリシアは麗華から依頼内容を聴いて首肯した。




 ◇◇◇



 沼津カジノ特区


 21世紀初頭にカジノ法が出来てから成長した沼津カジノ特区。

 21世紀頃から暴力団などの資金源にならないように法整備などがされていたが、いつの世にも金の力で擦り抜けると言う手を使う者はいるのだ。


 例えば、法外な配当金の倍率が非常に高いゲームとかだ。

 一夜で一攫千金と言う際限のない欲望を満たす為にやりたい顧客はいるのだ。

 その顧客を釣るために用意する事もある。


 本来は違法なのだが、この世の事は金で何とかなるので利益さえ出れば正義だ。

 逆に利益がないなら正義ではない。

 正義とはあくまで利益を上げるための方便に過ぎないのだ。

 そして、アリシアは違法組織の資金源となっているこのカジノに稲葉・麗華先生の依頼で来ている。

 先生の依頼はこの違法カジノを潰す事だ。


 これは警察関係者との合同で決まっている事だ。

 アリシアが手に入れた毒物はどうやら、ここで作られた物であり、千堂母もここの常連だったようだ。

 ただ、ここで作っているらしい事は分かっているのだが、毒物が毒物なだけに痕跡が明確ではない。


 なにせ、体内に入ったら毒性が消える毒なので証拠は残らない。

 情報を纏めると違法カジノで資金が尽きた者は己の臓器を担保に賭けをする。

 賭けに勝てば帳消しにできるが、負ければ例の毒物を飲まされ後日、穏便に臓器を売却される。

 毒が外部に出回っていない事を考えるとどうやら、このカジノでしか使われていないようだが、万が一にもこの毒が出回った場合の被害を考えると何としても毒の製法を知り解毒薬を入手したい。


 だが、ここは賄賂などで運営された裏カジノだ。

 よほどの事がない限り捜査出来ない。

 そこでアリシアの出番だ。

 敵はかなり穏便で周到なので証拠を早々、露見しない。

 だが、カジノと言うのは昔から出る杭を打つ。

 かの20世紀の天才数学者エドワート・ソープもカジノで勝ち過ぎて毒物を盛られた事がある。


 そして、このカジノでは勝ちすぎた人間の何人かが原因不明の死を遂げている。

 ”毒物による犯行ではない”と警察が判断した事件だ。

 だが、それ故に間違いなく例の毒物による犯行だ。


 そこでアリシアにはカジノで大暴れして貰い、アリシアが持ってきた毒物を解析した組成表を基にCPCにデータを入力、アリシアに毒物を入れたコップなどを持ってきた場合、現行犯で逮捕し一斉捜査の口実を作るのだ。

 アリシアの周りには覆面警察官数人と麗華がスタンバイしている。

 アリシアも今回の任務に合わせて初めて化粧をして赤いドレスに着替えて参加している。


 良くも悪くもアリシア・アイの名前は広まり過ぎている。

 アリシアが来ているだけで警戒される恐れがある為、今回は変装している。

 加えて、スキル”身体変化”を使ったので骨格レベルで別人になっており一応、変装の為に伊達メガネをかけている。

 それに今の外見は15歳のアリシアよりも5年増しの大人アリシアと呼べるような風貌に変わっている。

 会場に入ったアリシアに辺りが騒めく。

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