宴
5日後
アリシアは何事も無かったかのように部隊のメンバーや宇宙軍組に平静を装い帰還した。
本来はかなり辛かったのだろうがそれを顔には出さなかった。
尤もウィーダル辺りは勘が良いのか、見かねて話しかけて来たがそれでもアリシアは「大丈夫」と平静を装っったがウィーダルには完全に見抜かれていた。
だが、ウィーダルは気を使って、それ以上は詮索しなかった。
アリシア達も何事も無かったかのように植林作業に参加し午前中に終了した。
ウィーダル達の協力もあり、既に植生が構築されつつある。
謎の広葉樹は広葉樹とは思えない速度で成長している。
ウィーダルの踵くらいしか無かった苗木は5日の間に既にウィーダルを少し超えるだけの背丈に成っていた。
ウィーダルが知る限りそんな植物は地上には存在しない。
5日でここまで伸びる広葉樹は聞いた事は無い。
この広葉樹は品種改良でどうにかなるとか、そう言う次元のモノではない。
ウィーダルの中ではやはりアリシア アイは天使よりも高位の何かではないか?と言う憶測が思考の中で過り始めていた。
そうでも無ければ存在しない植物を作れる筈がない。
ウィーダルがアリシアに対して明確な興味を示しながらも作業は終えてアリシアは全員をシオンの中の会場に呼び集めた。
アリシアはみんなの前に立ちまず一度背筋を「うーん」と息を漏らしながら伸ばす。
「さて、皆さん。お疲れ様でした。皆さんよく働いて下さいました。わたしの目にもちゃんと映っていましたよ。誰一人怠ける事なくしっかり励んでいた事に感謝と感服の意を表します。どうも、ありがとう。お陰でここは緑豊かな土地となりました。皆さんのやった事を必ず実を結ぶのでそれまで楽しみにしてて下さい。さて、長口上も無粋ですね。宴の用意は出来ています!みんなお疲れ様!」
そう言ってアリシアは左手を大きく挙げた。
それに呼応する様に周りにいた全員が「おおおお!!」と歓喜の声を挙げる。
彼等は宴の席に着いた。
そこには色取り取りの食べ物や飲み物(酒は無い)が並ぶ。
ピザやハンバーガーを始めとして伊勢海老のお造りやフレンチ、麻婆豆腐など様々な料理が並び。
更には川魚のダイヤモンドで名高い伊富の海鮮丼まで様々な高級食材を使ったフルコースだった。
「うわ!この唐揚げうめー!肉汁が肉汁が!」
「このカレーヤバイぞ。匂い嗅ぐだけで涎が!」
「やべーぞ。このメロン!果汁と糖度が半端ね!」
「凄い!こんな料理が出るなんて!捕虜に成っても良いことないと思ったけど、凄いはここ!」
彼等は大いに喜んだ。
だが、そんな中で彼らの中ではある共通の疑問が過ぎった。
「なあ、シンよ。この食材どこから調達したんだ?こんな高級食材普通予算的に出ないだろう?どうなってるんだ?」
「あぁ、そのことか。そうだな。ここで自家栽培しているとでも思ってくれ。機密的な意味でな」
「そっか!自家栽培か!確かにこの艦見た目より広いからな!」
実際は艦に記録されているデータを基に食用調整した量子回路を基に効率的かつ能動的に食べ物等を”生成”と言うスキルで生成しているとは言えない。
昔は出来なかったが、今では数多のスキルやネクシレイターとしての能力が上がった事でシンが初めて量子回路を作った時よりも精度が断然良くなり、WNさへあれば大抵のモノが作れてしまう技術力を手に入れた。
仮に設計図を見せても人間では読む事は出来ない。
あの文献の解釈と似た話だ。
世界一売れた本ではあるあの文献だが、その内容が分からない人間が多い。
分かるのは極一部の者だけであり無理に解釈すると内容を曲解してしまう。
それが偽の旧制代宗教を作る原因でもある。
ネクシレイターが書いた設計図も読める者でないと読めない。
どれだけ機械工学に精通していようとネクシレイターにしか読めないのだ。
彼等にその事を教えても設計図が読めないから信じて貰えない可能性が高い。
だから、ボカして伝えるしかない。
「おい……」
「ん?どうしたんだ?」
「目の錯覚か?あそこ誰もいないのにメロンが独りでに減ってないか?」
男が指差す先には切り抜かれたメロンが置いてあるだけの誰もいない席だ。
だが、そこにあるメロンが独りでに食べた跡が付き、減っているのを男達は捉える。
「確かに……減ってるな。でも、こんな所だしそんな事もあるんだろう」
「それを言われるとそうかもな。ならまぁ、気にしないでおくか!」
「そうだな!」
男達は良い意味でも悪い意味でもこの部隊の異質な特性に慣れ始め、感覚が鈍り始めていた。
今の彼等はちょっとやソッとの事では驚かなくなっていた。
ちなみに誰もいない席には目に見えない1匹の黒竜パーシヴァルがメロンを食べていた。
メロンを自分で取ってきてはお行儀よくメロンを口に頬張る。
ヴァルはメロンが好物なのだ。
黒竜とは言え、頭の良さなら人間以上に賢く、アスタルホンに創られ教育されただけあり礼儀は結構正しい。
獣のように見えて人間以上に食事のマナーはちゃんと守り食い散らかさない。
そのままお腹が満腹になり、その場で翼で全身を包み寝息を立てながら眠ってしまう。
◇◇◇
ウィーダルはある人物の元に歩み寄っていた。
その人物は気さくに隊員達と部下達との間に入り話し込んでいた。
ウィーダルはその輪に近づき声をかけた。
「すまない。少し良いか?」
「はい。どうしました?」
ウィーダルは輪の中心にいたアリシア アイに話しかけた。
アリシアはウィーダルの気配から大体の事を察した。
ウィーダルは何か重要な話があるのだと……ウィーダルも微かに微笑み「もう話は分かってるんだろう?」みたいな素振りを見せている事からもそれを窺い知る事ができた。
アリシアは周りにいた人間に断りを入れウィーダルと共にその場を去った。
部屋の出入り口まで移動して誰もいない事を確認して話し始めた。
「何か重要な話なんですよね?」
「君はわたしが何を話したいのか、分かっているのではないのか?」
「ある程度は……ですが、それはあなたの口から言わないと意味が無い。あなたの決意を言葉にしないと何も為せないから」
「そうか……分かった」
ウィーダルは一拍置いて深く息を吐いた。
相手が相手だけに緊張する。
気持ちを落ち着かせて彼は思い切って聞いてみた。
「アリシア。君は神……なのか?」
アリシアはウィーダルの目を真っ直ぐと見つめて答えた。
「YESかNOで答えるならYESです」
「その言い方からして厳密には少し違うとみるが?」
「えぇ。わたしはあなたが想像する様な人類創造の神ではありません。その直系ではありますが、本質的にはあなた達と同じです」
「でも、神なのだろう?」
「はい」
「ならば、神は何の為にこの世界にいるのだ?わたしはそれが知りたい」
アリシアは少し考え込んだ。
彼には一体、どこまで教えるべきなのか……いきなり、全て教えても分からないだろう。
何事にも順序があり掛け算、割り算を教えてから微分積分を教えるのが当たり前のようにウィーダルがどのレベルから始めるべきは慎重に頭の中で吟味する。
「教えるのはやぶさかではありません。教えて欲しいなら幾らでも教えます。でも、念を押すけど、教えてもあなたが納得いくかは別の問題だよ」
「それはそうだな。だが、まずは聞いて見なければ分からんさ。そうだろう?」
その辺の分別は出来ているようだ。
例え、教えたとしても駄々を捏ねて認めないだの騒ぎ立てるレベルにウィーダルはいないとこの時点で理解できた。
「確かにその通りですね。良いですよ。なら、明日、あなたの部下と共に特別講師しましょう」
「ほう……わざわざ、特別授業してくれるとはありがたい。なら、明日は宜しく頼むよ。先生」
ウィーダルはノリノリでその申し出を受けた。
「はい。お任せあれ!」
アリシアとウィーダルはそのまま宴の席に戻り宴を続けた。
その後、アリシアは宇宙軍組が帰った後も残り片付けを手伝い、夜遅くまで明日の授業教材を作った。
徹夜作業になってしまったが全てはウィーダルや他の宇宙組を活かす為に念入りに行わねばならないからだ。
彼女にとって単純な肉体的な死より地獄に堕ちると言う死の方が重大で地獄に堕ちる事がどれだけ悲壮であり、そんな気持ちから魂を憂うからこそ何度も教材を念入りに確認して眠気を見せないままそのまま教壇の上に立った。
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