ルーの打ち明け
3日後
砂漠地帯には晴空が広がっていた。
ついさっき、雨が止み砂漠は今までとは全く違う物に変わっていた。
戦いにより空けられた大きなクレーターには水が満ち、既に大きな池に成っていた。
そこから流れ出た水は自然と川を形成していた。
砂漠の砂は水を保持し難いがADやアタランテの高出力兵器で出来たクレーターの側面と底はガラス張りになっている。
それがグラスに入った水の様に水が拡散しないように保持している。
この戦いでアフリカをまたぐ巨大な山脈は壊れ、そのお陰で山脈に加速していた激しい上昇気流が発生しなくなり、雲が出来ないほど高高度まで運ばれていた水蒸気が低高度に運ばれ、雲を作り砂漠の空には所々に雲が出来ていた。
その後、この砂漠には緑が溢れ、新たな生態系が出来るがそれは未来の話であり、今はその一歩を踏み出しているだけだ。
GG隊は捕虜と一緒になり、砂漠に木々を植えていた。
そこにはウィーダル ガスタ率いる捕虜達の姿もあった。
砂漠の照りつける残暑の中、彼等はよく分からない品種の広葉樹の苗木を植えていた。
辺りに決められた間隔で木を植えていく。
ウィーダルは部下と協力しながら、等間隔に苗木を植えていく。
最初こそ、この申し出に不信感を募らせていた部下達もいつしか乗せられて皆が積極的に植林活動をしている。
自分達が捕虜である事を忘れてしまうほどだ。
すると、昼時になったのかウィーダルを案内したルーが現れ、大声で声をかけた。
「皆さーん!ご飯ですよ!」
それをまるで心待ちにしていたように隊員達は重い体を押しながらも快活な足取りで休息と弁当を取りに行く。
ルーは1人1人に弁当を配り、両手の手渡しでニコニコしながら彼等に渡していく。
「まるで天使のようだ……」と人間達は思った事だろう。
実際、彼女は肉体を纏った天使の1人なのでその感覚は間違っていない。
そして、順番に渡していきウィーダルの番が回ってきてウィーダルは彼女から弁当を受け取った。
「ありがとう。ルー君」
「ありがとうございます。たくさん、食べて下さいね!」
ルーは満面の笑みでウィーダルに微笑みかけるとウィーダルは軽く失笑する。
「わたしも歳なんだ。そんなにガッツリは食べられんよ」
「心が青年なら何とかなりますよ」
「成る程、確かに言い得ている」
ウィーダルも自然と微笑み返した。
そう言えば、ここに来てから自然と笑顔が絶えない。
ここにいる全員がそうだ。
この3日間自分達は捕虜とは思えない程の持て成しを受けた。
捕虜の食事とは思えない肉料理に魚料理を味わいシーツの整ったベットにも何度も寝た。
いつ補給したのかも分からないまま欲しい飲み物は冷蔵庫に既に入っており(酒は除く)まるで1つのホテルにでも泊まっている様な感覚だった。
ルーも時間の合間を見て我々の世話を甲斐甲斐しく行い、良くしてくれた。
ウィーダルの身近な世話や隊員のお世話、炊事、洗濯色々面倒を見ていた事もあり、たった3日ではあるが隊員は既に彼女を受け入れていた。
ウィーダルもその1人である。
ただ、それと同時に一抹の不安もあった。
逆にここまで持て成されると何か裏があるのではないかと疑ってしまうのだ。
部隊長であるアリシア アイの考えが未だに分からない。
何を以てこんな事をしているのか、全く分からなかった。
捕虜にしては自分達に対する対応が良過ぎる。
独房にも入れず、艦内ならある程度、自由が保障されている。
流石に武器庫や艦橋、動力部などには入れないが、それ以外ならどこでも行けた。
それこそ、アリシア アイの自室にすら行ける。
尤も行こうとも思わないが、まさかアリシア アイに土下座されて今回の植林ボランティアに参加する様に促されたら今までの手厚い対応も込みで考えるとNOとは言えなかった。
ただ、ここまでの自分達の行動が思惑などによって流された結果なら自分達は完全に敵の毒牙にかかっているのではないかとウィーダルは不安に思っていた。
とはいえ、ウィーダルは勘で言えば、彼らに悪意などなく本当に自分達が持て成されているのは目にとって理解できた。
それに仮に罠だとしてもそれを知る術が今のところないので今は大人しく弁当を食べるしかないとウィーダルは判断した。
「おぁ。これはカツ丼と言う物だな」
お弁当の中身はカツ丼だった。
箸の使えないウィーダルは渡されたスプーンでカツを切りご飯と一緒に掬って食べた。
「おお。美味い。私好みの甘めに作ってあるな。それに衣のサクサク感揚げた胡麻油の香りと肉のフワフワが良いな」
食通であるウィーダルはカツ丼の味に感嘆していると隣にいた部下が声をかけて来た。
「中将。その飯は甘いのですか?」
「ん?わたしはそう思ったが?」
「アレ?オレのは辛めに作ってあるのか?」
「辛いのか?すまん少し分けてくれ」
ウィーダルは徐に部下のカツ丼を取って食べてみた。
すると、口に衝撃が奔りウィーダルの顔をミルミルと変わり顔から汗が溢れ出る。
実際、このカツ丼はアリシアが事前に隊員1人1人の好みに合わせて調整された物であり、ウィーダルには甘めに設定しこの隊員には激辛で設定してあるのだ。
しかし、当然だが他人のカツ丼を食べれば、口に合うはずがなくウィーダルは災難に見舞われていた。
「中将?大丈夫ですか?」
「ああ。らいじょうふだ(大丈夫だ)」
「呂律回ってませんが?」
「ちんばいするな(心配するな)。あっちでビズ(水)貰ってくる」
そう言ってウィーダルは静かに席を離れた。
心配する部下に目を向けず悟られぬ様にその場を去る。
しかし、中では悲鳴を上げていた。
(カレェェェェェ!!!)
今にも叫びたいが部隊の士気に関わるので顔には出さない。
(あ、あんな激物が少し辛いだと!)
彼は真顔のまま心の中で悶絶する。
今、振り返るとあの彼はインド系人間だったのだ。
もしかすると、辛い物が常人よりも耐性があるのかも知れない。
だが、常人であるウィーダルにはあの辛さは頭が可笑しくなりそうだ。
真顔で水を取りに来たウィーダルの元にルーが近づいて来た。
「ウィーダルさん。こちらへ」
ルーはウィーダルの手を握り、彼を誘導しウィーダルは招かれるままにそれに従った。
ルーはウィーダルをキャンプ地の仮設テントの中に入れた。
「ここなら誰にも見られません。どうぞ」
そう言ってルーは何処から出したのかバニラモナカアイスを出してきた。
「水よりはこちらの方が良いでしょう?あなたの部下は近くにはいません。この事も誰にも他言しませんからどうぞ」
ルーはウィーダルの身に起きた事を全て把握した上で彼の都合に合わせて彼を手助けをしたのだとウィーダルは察した。
ウィーダルは飛びつく様にアイスを頬張る。
実際、この場合、水よりはアイスがあった方が良い。
アイスのクリーミーさが刺激された喉を優しく包む。
「はぁ……はぁ……」
ウィーダルは息を荒だてたが落ち着きを取り戻し、息を整え、腕で汗を拭い一呼吸置いた。
「はぁ……すまない。助かった」
「いえ、お役に立てたなら光栄です」
「しかし、随分根回しが良いんだな。まさか、こうなる事を予測を?」
ルーは首を振った。
「それはさっき作ったんです」
「作った?どう言う事だ?モナカアイス製造マシンでもあるのか?」
ルーは首を振り胸の前に手を出した。
すると、ルーの手の中に光が灯りウィーダルは神々しい輝きに思わず息を呑み薄暗いテントの中を光が照らす。
そして、光が治りルーの手の平の上にはモナカアイスが現れていた。
「こ、これは……」
ウィーダルは目を疑う。
何も無い所からアイスが現れた。
さっき、ウィーダルが食べたバニラモナカアイスと全く同じ物が目の前に現れたのだ。
「手品か?」とも思いウィーダルはモナカアイスを触ってみた。
モナカアイスはヒンヤリとしており、衣はパリパリしており溶けている様子は無い。
もし、隠し持っていれば体温で溶け衣のパリパリ感は無くなっていただろう。
そうなると信じざるを得ないが彼女は目の前で何も無い所からアイスを作った事になる。
「君は……君達は一体?」
「私はルー。3次元よりも高次元の世界から来た生命体。分かりやすい例えは天使です」
「天使……だと」
(何かの冗談か?)
「冗談か?と思いましたね?」
(っ!まさか、心が読めるのか!?)
「そのまさかです」
(ならば、わたしの言う事を復唱してくれ特許許可する東京特許許可局!)
「特許許可する東京特許許可局!」
ウィーダルは生唾を呑み込み現実を受け入れた。
これはもう素直に認めるしかない。
認めたくはないが……頭では否定する気持ちがあったが心が納得いかず、どんなに思考は働かせても認めるしかない状況に置かれた。
こんなマニアックな質問に答えたのだ。
心を読んでいると納得するしかなかった。
それならさっきのアイス作りも何処となく納得がいく。
そうなるとこの部隊の異質さが余計に顕著になる。
天使と呼ばれる生命体を配下に置いているアリシア アイはやはり只者ではない。
アリシアは天使であるルーに主と呼ばれている。
(まさかな……)
頭にそんな単語が過った。
そうだとしたらウィーダルの罪など彼女前では裸同然であり、その気になれば裁かれてしまう。
そこでウィーダルは不意に気がつく。
そう言えば、今日彼女を見ていない気がする。
「主様でしたら別件で今日はいません」
「任務か何かなのか?」
「確認したい事があると言って皆さんと共に何処かに行きました。それ以上の事は分かりません」
「そうか。まぁ、わたしもこんな身だ。深くは詮索はしないさ。ただ、何だろうな。妙な胸騒ぎがする」
「胸騒ぎですか?」
「外れる事もあるがこれは当たった時が厄介な胸騒ぎだ。何事も無ければ良いのだが……」
ウィーダルは敵であるアリシアの事を自然と気にかけていた。
自分の予感は外れる事もあるが当たった時は大抵、碌でもない。
そんな経験は彼女が何者であろうと経験してはならない様なモノばかりだ。
ウィーダルは心の何処かで外れる事を願う。
だが、奇しくも予感は的中してしまうのだった。
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