こんなのありかよ……

「えぇ?お兄ちゃん?」


「あなたの母型のDNAはわたしのお母さんのモノだよ。異父兄妹だから、お兄ちゃんだよ」




 シンの頭に衝撃が走った。

 その瞬間、彼が心の何処かで夢想していた恋心が、一気に空中分解する激しい音が聴こえた。




「えぇ?嘘、マジで?」




 シンはいつになく取り乱す。

 流石のこんなギャグ漫画的な展開を現実として認めたくない衝動が遥かに上回る。

 もう、飛行機こいが空中分解しているのにそれでもその飛行機こいの空中分解した事実を受け入れられない男の心情ようだった。




「マジだよ。多分、お母さんは大戦前に日本にいたらしいからその時遺伝子取られたんだろうね。一応、あなたの話を聞いて照らし合わせてみたけど、間違いなさそうだね。DNA鑑定もそう言う結果出てるしね」




 そう言ってアリシアは鑑定書を見せる。

 確かにそこには遺伝子の適合率が50%と書かれた紙があった。

 空中分解した飛行機こいは空中分解したと不承不承ながら受け入れてしまう。

 シンは唖然と口を開けあまりの急展開に魂がフリーズしそうだった。






(話したい事って、この事だったのかよ……前々から似ているとは思っていたがよもや血縁者だったとは……)






 だが、意外と納得がいく理由なのも事実ではあった。

 たしかにここまで気の合う人間は今まで人生に出会った事もなくあまり他人とも思えないほど似通っていたのだから……尤もそれが納得いくのは残念な気がしてならない。




「はぁ……さらば、俺の想いはつこいってか」


「ふぇ?何か言った?」


「……いや、何でもない」




 シンは虚しさを隠し心に閉まった。

 色々、言いたい事や複雑な心境などはあったが真っ先に自分の創造主に言いたい事があった。






(なんでオレ達は兄妹なんだ……)

 





 もし、違ったなら自分はこれほど虚しいとも悲しいとも思えるような複雑な何とも形容し難い苦しい想いはしなかったと思わざるを得なかったからだ。

 だが、そんな情けない姿を彼女には見せられないので表には出さないように平静を装う。




「さて、話は終わったから仕上げに入らないとね」


「仕上げ?この男のことか?」


「うん。わたしの中にいる0次元の住人の魂をこの中に入れる」


「0次元?」


「まぁ、見れば分かるよ」




 アリシアはキーボードのエンターキーを押した。

 すると、シリンダー内部が淡く光始め淡い光が男を包み込む。

 光が消えるとシリンダー内部にあった液体が排出され、男がゆっくりと降りて来る。


 彼はシリンダー内部の床に落ちた。

 シンとアリシアは様子を伺う。

 すると、男の子が目を開けた。

 体の感触を確かめる様に指を動かし足を動かしてみる。

 シリンダーにもたれながらおぼつかない足で立ち上がろうとする。




「調子はどう?オリジン?」


「うん。ちょっと違和感があるね。成る程、これが体なんだね」


「なぁ、アリシア。こいつは誰なんだ?」


「あなたの弟」




(いや、突然弟と言われてもな……)





 流石にさっきの急展開直下の展開からアリシアを妹として完全に受け入れられていないのにその上で弟とか言われてもすぐには受け入れられなかった。




「そういう事を言ってるんじゃなくだな……」


「あぁ、そう言う事。あなたには説明してないんだったね。彼はオリジン。原始宇宙0次元に存在した唯一の生命体。神様作った神様とでも言えば良いかな?」



「いや、そう言う事を言っているわけじゃない……てか、神様を作った!そんな奴がいたのか!」



「あーと言っても僕には権能は無いし今の神様ほどの力は無いよ。僕は偶然、神様を作るきっかけ作っただけの存在だよ」


「神様を偶然作るだけでも相当だと思うが……」


「でも、僕には大した力は無いよ。あるとすれば世界の基準点である事と神様や悪魔ですら殺せない程度の力しかないよ」


「そんなものなのか?」


「そんなものだよ。




 オリジンと名乗る彼はニパッと笑ってみせシンは歯切れが悪そうに「……そうだな」と答えた。

 その微笑み方はどことなくアリシアを彷彿とさせる。

 アリシアに似せて作られただけありとしてはかなりの完成度だろう。

 この屈託のない笑顔を見せられるとなんか全てを受け入れられそうだ。

 しかし、と言われるのはなんかむず痒い。

 そのシンの表情を機敏に感じたのか、シンが「違う」と言っているように思えたようでオリジンは聴き直す。




「……遺伝子配列が同じならあなたは僕のお兄ちゃんでしょう?」


「うん……まぁそうだな。それで間違いない」


「そうするとアリシアは僕のお姉ちゃんだね」


「ふぇ?あぁ、確かにそうなるよね」




 オリジンは脚と言うモノになれ何とか自立してシリンダーの中から出てきた。

 オリジンはまるで無邪気な子供のように手を広げ、アリシアに訴えかける。




「ねえ、お姉ちゃん。僕、会ってみたい人がいるんだ」


「会いたい?誰に?」


「アリシアのお父さんとお母さん!父と母と言うどんなものか知りたい!」




 生まれたての子供の様にオリジンには知的好奇心が満ちていた。

 何もない0次元とは違い、この世界にはこれの好奇心を掻き立てるモノが多いだろう。

 今まで知りたくても手が届く距離にあるなら手が伸ばしたくなるのは自明の理だ。




「あーそう言えば最近、忙しく忘れてた。そうだね。明日にでも会いに行こうか!フィオナ達も誘って!きっとお父さんもお母さんも貴方を歓迎するよ!」




 アリシアは自分の事のように喜ぶ。

 新しい家族が入って喜ばない者はいないだろう。

 それに生前な何かと妨害されて故郷に行けなかったが、今なら神の力を行使すればそれを突っ切って会いに行ける確信があった。


 今のアリシアにとって本当の母親とはアステリスの事を指し、肉的な両親は自分と同じ被造物ではあるが、それでも大切な両親である事は変わらない。

 家族との関係を良好にしておく事も福音には必要だ。

 これを期に故郷に帰るのも悪くはないと思えた。




「オレも行っても良いか?」


「もちろん!」




 アリシアは当然の如く同意した。

 シンもまた、自分を生んだ親が気になる。

 例え、時代が違うにしてそれが一体どんな人間なのか、母親とは何なのか気になるのだ。

 その後、シンはそっとその場を後にしてスライドドアの横に背中を持たれた。




「こんなのありかよ……」




 どこかの誰かを恨んでいる訳ではないが正直、もどかしい。

 彼のアリシアに対する想いとはそれほどだった。

 もう、一生探しても巡り合えないほど良い女に思えた。


 少々、変わり者だが馬鹿みたいに素直で純粋で健気でこれほど美しいと思えた女はいなかった。

 彼女と結ばれたらと夢想した事もあったほどだった。

 それがまさか、こんな不意打ち的に終わるとは思ってもみなかったので思わず、「はぁ……」と溜息を漏らす。




「どうしたんだよ?そんな辛気臭い顔をして」




 そこに現れたのはブロンドヘアで30代後半を思わせる無精髭を生やした中年の1人の男だった。

 初対面だが、名前と顔は資料で見た事があった。たしか、名前は……




「クーガー スリンガーか……」


「インディゴ デスサイズに名前を憶えて貰って光栄だね」


「インディゴ デスサイズ?」


「なんだ、知らないのか?アリシアの陰に隠れがちだが、アンタもサレムの間じゃ”藍色の死神”なんて呼ばれて恐れられたぜ」


「初耳だ」


「まぁ、アンタら兄妹はそう言う事、無頓着そうだからな」




 その言葉にシンの眉が微かに動いた。




「なんでオレ達が兄妹だと分かった?」


「ん?秘密にでもしてたのか?オジサン連中からすれば見れば、分かるレベルだぞ」




 さっきの話を盗聴したとかではないようだ。

 どうやら、シンが思っている以上にシンとアリシアは血縁関係が分かり易いらしい。


 シンやアリシアは異常な方法で関係性を知ったにも関わらず、他人から見ればそれほどあからさまなのか?それともここのオッサン連中の慧眼が凄いのか?

 たしかにウィーダル ガスタなんかは見抜いていそうだ。

 捕虜にした宇宙軍のエースパイロットの古参なんかも中々、腕が立ちそうだ。

 案外、当の本人達以上に他人の方がこう言う事が分かるかも知れない。




「それでどうしたんだ?妹と喧嘩でもしたのか?」


「いや、喧嘩はしていないさ」


「じゃあなんだ?フラれたのか?」


「……何故、分かった」


「図星かよ……一度、格納庫で見かけた時から思ったがお前のアリシアを見る目はガチだったからな。まさか、ここまでシスコンだったとはな……」


「……いや、すまん。アンタが想像しているような関係では断じてないぞ」


「ん?なら、どう言う事なんだ?」


「オレは遂さっき、アリシアが妹である事を知った。それが理由だ」




(なんでオレはこの男にこんなに私的な事をベラベラと喋っているのだろうか?)





 別に嫌っている訳ではない。

 アリシアが連れて来たのならこの男に特に文句はない。

 それに少し喋った感じそこまで悪い奴には思えないのは事実だが、自分でも驚くほどシンはクーガーに気を許している。

 それが不思議でならなかったのだ。




「そうか……つまり、本気で異性として愛していたのか?」


「そうなるな」


「なるほどな。道理であんな目をするわけだ……」




 クーガーは何か感慨にふけるようにシンを見つめ、何か懐古物を見るようにシンを眺める。

 まるで過去の自分の思い出と重ね合わせているようだった。

 そして、何か決心をつけたように彼もある事を告白する。




「オレも……アリシアの事が好きだ。異性的にな」

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