巨人の預言が果たされる時
ベナン上空
ADケルビムⅡがゆっくりと降下し目標である敵AD基地に迫る。
「まもなく作戦領域に到達します」
「わかった。敵が出撃するのも待つ必要はない。有効射程に入り次第、基地諸共破壊しろ。主砲発射準備!」
部下達はウィーダルの指示をケルビム前方の主砲を展開し始めた。
円盤型のケルビムの前方に2本のレールが前に現れた。
主砲はエネルギーの充填を開始した。
すると、主砲周辺の空間が歪む。
空間が歪んだところに2本のレールの間に現れた。3本目のレールが空間湾曲した空間に触れる。
空間は3本目のレールからまるで吸い上げる様にレールを喰らっていく。
「縮退圧キャノン発射スタンバイ。重力レール展開、カウント開始60……59……58……」
縮退圧キャノン。
それはケルビムシリーズの重力兵器を応用し超新星爆発を艦前方で発生させ、重力で形成したレールの延長線上に高エネルギーをぶつける砲撃。
レールの中では重力に内包された縮退燃料が激しく爆発を繰り返している。
ロシュ臨界点を突破し燃料そのものも異常な重力圏を形成し加速度的に爆縮を繰り返す。
超新星爆発の塊は眩い光を放ち始める。
それはまるで第2の太陽と言う形容がぴったりだ。
昼間であるベナンの地表に注ぐ光を上書きする様な眩さを放つ。
地上を観測していたオペレーターが報告した。
「敵ADの出現を確認また周辺に敵統合軍の艦隊を確認!」
「承知した。敵勢体に全てロックオ……」
ロックオンと言いかけたその時通信が入った。
「艦長。敵のADから呼びかけがあります。こちらに亡命したいと言う内容にとれます」
「聴かせろ」
ウィーダルは砲撃のカウントは止めずに通信だけを聞いた。
「こちらバビロンR。宇宙統合軍。聞こえるか!我々はそちらへの亡命を求む、繰り返す亡命を求む!」
ウィーダルはすぐに思考する。
罠の可能性がある。
亡命を求めれば、こちらが主砲を止めると算段をつけている可能性がある。
だが、同時にウィーダルは地球統合政府のあり方を分析していた。
彼等は自己利益の為なら他者を犠牲にする事も厭わない。
「自分達が戦争したいから他国に金を出せ」と脅迫しているような奴等だ。
どんな理由があるか知らないが、バビロンRに搭乗する者達がそう言った迫害を受けているなら利用しない手はない。
それを確かめる方法をウィーダルは思いついた。
残り時間35秒の間にウィーダルは決断、行動した。
「回線を繋げ!」
「回線繋ぎます!」
「こちらは宇宙統合軍第8宇宙艦隊のウィーダル ガスタ中将である」
「おー繋がったか。早速だが、我々の亡命を……」
「残念だが、今の君達は信用に置けん。だから、後15秒やる。それまでに地球統合軍の地球艦隊を攻撃しろ。攻撃しないもしくは、攻撃したとしても損害の軽度が少ない場合君達の死だ。以上」
ウィーダルはそう言い残し一方的に通信を切った。
ウィーダルが話し終えた時には既に発射20秒前だ。
15秒以内に決断しなければ、彼等への照準は変えられない。
これで16秒以上焦らすなら敵に思惑があるのは自明だ。
その場合は殺すに値する。
彼等がこの状況で亡命するなら、そのくらいの事は見せるべきだ。
だが、彼等に偽りは無かったに直ぐに分かった。
申し出直後にADの主砲は地球統合軍の艦隊に向けられた。
そして、オレンジ色のレーザー光が真っ直ぐと地球統合軍の艦隊に直撃した。
ADバビロンRはまるで地球統合軍を足止めする様に必死にレーザーを放ち続ける。
その必死さ背水の陣なのだろう。
彼等の敵を堕とそうとする意志は強く。
敵の損害は軽くはない。
ウィーダルを納得させるには十分だった。
「亡命を受理したと伝えろ。ロックオン変更。目標地球統合軍艦隊!」
ケルビムは巨体を動かしながら狙いを艦隊に定めた。
艦隊もロックオンを感知して双方のADに攻撃を仕掛ける。
だが、バリアに阻まれ戦艦の砲撃は無力だ。
「発射まで5……4……3……2……1……」
「撃て!敵を沈めろ!」
双方の最大火力重力光学収縮砲と縮退圧キャノンが放たれた。
鋭いレーザーの一撃と爆発物を抱えた重力の球が艦隊に迫る。
艦隊は為すすべも無く、その事実を眺める。
その刹那の間に人間に出来る事はない。
艦隊のレーザーが縮退圧キャノンに激突するが、虚しく四散し艦隊を呑み込んでいく。
双方の莫大な火力が地面を抉り、空を裂き重力で空間を歪めた。
その光景はまさに2機のADが互いの最大火力を空と陸から両挟みで撃ち合っているようで互いに戦っているようにも見える。
内容は変わってしまったが、アストとテリスが見た預言であり、アリシアが観た預言そのものだった。
両挟みで狙われた艦隊は圧倒的な爆圧と熱量で融解し木っ端微塵になっていく。
空間を掌握する程の破壊が辺りを包み込む粉塵が舞い上がる。
そこに別の場所から突如蒼い空中戦艦が現れた。
戦艦に乗っている皆はその光景に目が釘付けになる。
彼等のネクシレイターとしての勘がこの状況を直ぐに理解した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます