神域の戦神工場(プランタル アーリア)

「吉火さん」




 アリシアの呼び掛けに多少なり怯えるように吉火はピクリと動いた。





「聴いたと思うけど、わたしはこれからADを止めに行きます。4時間以内に出撃準備をして下さい。指揮と裁量はあなたに任せます」


「構いませんが……出来る事は限られますよ」


「それで構いません。わたしはシン達と別の準備をしないとならないから手が回せないから、細かい事まで指示は出来ない。それにあなたの判断なら大丈夫だと考えています」


「準備?何をするんですか?」


「化け物には化け物にしか出来ない事があるという事ですよ」




 吉火の顔が一瞬だけ引き攣った。

 どこか棘があるような言い方であり、吉火にはそれで全てが伝わった。

 アリシアが真の意味で超越しているのだと理解した。

 だからこそ、自分では計り知れないような準備があるのだと……。

 アリシアはインカムで3人に連絡を入れた。




「そう言う事だから、3人はわたしの準備を手伝って」


「一体、何をすれば良いの?」


「わたしのプライベート用の工場で働いて貰う」


「はぁ?プライベート?工場?」


「何、言ってるか分かってないよね?なら、……創世の書、解放」




 アリシアの詠唱と共に吉火とギザスの目には見えないが、3人には一瞬だけ上三角の表紙を持つ本がパラパラと開かれたのを見た。




「創造を開始。ヨクト世界を知覚、構成要素抽出……」




 アリシアはその場に立ち尽くし機械的な口調で呪文を唱え始める。

 目の色を失い、機械的に淡々と呪文を唱える。

 まるでプログラムのように無機質だ。




「概念抽出……構成ヨクト10の7777乗をマクロ化……構成開始」




 すると、本から無数の黄金の針が宙に舞い、浮遊しながら空中で針同士が繋がり形を成していく。

 吉火達にはアリシアは棒立ちになり、独り言を言い始めたようにしか見えない。

 だが、彼らの目には見えない世界では壮大な事が目の前で行われ、3人は呆然と息を呑みながらそれを見つめる。




「構築……構築……修正……再構築……修正……再構築……修正……構築、最終構築……構築完了」




 目の色がフッと戻り組みあがった黄金のピラミッドがアリシアの体内に入り込む。

 アリシアはその出来栄えが良かったのか「うん!」と力強く頷いた。




神域の戦神工場プランタル アーリア!」




 この瞬間、新たな次元が創造され、アリシアの詠唱と共にアリシアの3人の姿は消えた。

 さっきまでそこにいたアリシアが突如消えたのだ。

 吉火はすぐにフィオナ達に通信してみるが既に応答が無かった。

 既に待機中だったコックピットの中には誰もいない。





 ◇◇◇




 神域の戦神工場


 気づいたら変な世界にいた。

 何処かの建物も中にいた。

 振り向くと綺麗に整った設備と広さ、フカフカそうなソファーが綺麗に並んでいた。

 彼女達は振り向き直すと目の前には大きなガラス張りの窓があった。

 ガラス張りの方にゆっくりと近づいた。

 すると、目の前には広大な平野と草木、宙には蒼い粒子が飛散し輝いている。

 草木は蒼い粒子を取り込み生き生きとする様に輝きを放つ。


 3人はそれが現実とは違う事を近くしていた。

 だが、夢と言う訳でもない。

 夢の様な虚ろな感じがない寧ろ、いつもよりも現実味がある感覚だ。




「ここは……いや、俺は前にここに居た?」


「アレ、なんだろう?なんか、見覚えがある様な無いような……」


「いや、私は……私達はここを知っている?」


「そりゃ、そうだよ」




 後ろからの声に振り向くとそこには蒼い白衣を纏ったアリシアが立っていた。




「あ、アリシア」


「ここに呼んだの……アンタよね?」




 リテラとフィオナの質問にアリシアは「勿論」と答える。





「ここはどこだ?と言いたいところだが……何故か知らんが、何となく思い出しているから聴くだけ無意味なんだろうな」




 シンの質問にアリシアは答える。




「そうだね。私が教えなくても勝手に思い出すから……個体差はあるけどね」




 それにリテラとフィオナが得心したように頷く。




「ふーん。じゃあ聴かないでおくね」


「それでここで何すれば良いの?」




 フィオナ達は普遍的に抱きそうな疑問をすっ飛ばして問題から入る。

 良くも悪くも彼等は慣れていた。

 アリシアのやる事に一々疑念を抱かない。

 普通ならこの空間に関する事とやかく言うだろうが、アリシアのやる事だから深くは詮索しない。

 詮索するだけ面倒なのだ。

 実際、ここはアリシアが創造した新たな高次元に創られた施設だ。

 だから、高次元に戻れば、高次元にいた頃の天使の時の記憶を少なからず思い出すのだ。




「じゃあ簡潔に……私達はこれから総勢1000万人のスタッフと共に戦艦を作ります!」




 3人は顔を見合わせ、沈黙し少し首を傾げた。




「えーと、戦艦作るの?」




 リテラがそう聴くと「うん。戦艦メインで作るよ」とアリシアが答える。

「ちなみに何で?」とフィオナが問うと「えーと、地球でも私の力を弊害なく使える拡張ユニットが欲しいから」とアリシアは答えた。

 それにシンが質問した。




「APじゃダメなのか?」


「大きい方が性能上がるでしょう」


「まぁ、たしかに……」


「それにいざという時とあなた達が力を使い易くする為でもあるの。力の説明は要らないよね?」


「あぁ、何となくわかるな……」




 何故かは分からないが、御業スキルについての事が地上にいた時よりも頭に入って来る。

 それがどう言ったものなのか?特性や使用条件などもまるで思い出すように頭に入ってくるのだ。




「えーと、それじゃここでは真名で呼んだ方が良いのか?今のお前はイリシアなんだろう?」


「まぁ、そうなんだけど……世界を平定するまでその名前は名乗らないて決めたから今まで通り呼んで」


「分かった。俺としてもいきなり真名で呼ぶのも呼ばれるのも抵抗があるからな。俺はそれで構わない」


「私もそれでいいよ」


「右に同じ」


「じゃ決まり。これから皆で戦艦を作ろ!おーー!」




 3人はアリシアのテンションに合わせる様に「お、お……」と合わせた。今の彼女は大変楽しそうだ。




「ところで1000万人スタッフがいるそうだが……どこにいるんだ?」


「そう言えば、周りにはわたし達しかいないよね」


「あぁ……その事。ちょっと待って、今呼ぶから」




 アリシアは徐に指パッチンした。

 すると、何処からともなくアリシアの後ろに跪く者達が現れた。

 それが段々、波状する様に現れていく。

 その人数はフィオナ達の視界では見通せない程の数に成っていた。


 パッと見で何人いるか分からない。

 アリシアの言葉が真実なら恐らく、1000万人がアリシアに跪いていた。

 3人は圧巻の想いで彼らを見つめフィオナが思わず尋ねる。




「これ全部、アンタの部下?」


「部下と思った事は無いよ。大切なチームだよ」


「もしかして、ずっとこの人達と活動してたの?」


「うん。そうだね。バビ解体戦争では建物の破壊を防いだり、4次元的な干渉で私に対する世間の認識を悪く捉えられない様にしたね」




 シンは不意に思った。





(待てよ。認識を自在に操っている?それはもしや……)

 

 

 

 

 と思うところがあった。




「それは洗脳って事か?」




 ストレートに疑問をぶつける。

 別に人間が洗脳されようとどうでも良いが、それが悪い事に使われていないのか一応、確認しておきたいという気持ちがシンにはあった。

 シン個人と”神の誘惑”と言う洗脳の類の兵器を知っており、それに悪い印象しかないからだ。

 それに今のアリシアは「よく分からない」ところがある。それ故に道理とか人道から逸れた事をしていないのか、少し不安になったのだ。




「洗脳じゃないよ」




 アリシアはハッキリ断言した。

 シンの不安を感じ取り、それを分かり易く真っ向から否定した。




「わたしの行動が悪魔によって非難される可能性があったから……その傾いたバランスを調整したとか私の今後の戦略を優位にする為の布石だよ」


「えーと、つまり洗脳じゃないのね」


「偏った不平等を平等にしたと考えれば良いよ。現に世間では私の事を肯定する人もいれば、否定する人のいるでしょう?」


「批判ばかり産まない様にしたって、事?」


「そうそう。そう言う事」




 他人から聞けば分かったような分からないような意見だが、この3人にはこれだけの説明で納得出来た。

 これが神の血と肉を宿した者同士の見えない繋がりの賜物だ。

 互いの意志や思いは相互理解出来る。




「もういいかな?後でこれまでの事を情報共有するからそろそろ、仕事に掛かってくれるかな?」




 3人はコクリと頷いた。




「それじゃ始めよっか。シオン計画開始だよ」




 アリシアの合図と共にプロジェクトシオンが始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る