ワルキューレの武器

 東側 南国家軍基地




「警戒を怠るな!いつ、敵が攻めてくるのか分からないんだ!」





 基地司令が激を飛ばす。

 が3日でバビを滅ぼすと宣言したからだ。

 アレだけ強大な敵が、何の根拠もなく宣言したとは思えない。


  基地の周りには、警備に当たる国家軍のAPと国家軍の扱いのサレムの騎士が混ざっていた。

  テロリストを自軍の戦力とするこの国ではよくある事だ。

  特に最近、統合軍御用達のニジェールのPMCが過激な事をするものだから、隣国からバビに流れてくる事が増え、中にはニジェールのPMCへの復讐、強いては政府に対する復讐に駆られた者も多く入り込んで最近では、APの供給が追いつかなくなりそうだ。

  統合軍はまるで逆だと言うのに、皮肉な事にそんな彼等の行いでこちらの軍備を整えられた。




「統合政府は俗物ばかりだが……そのお陰でこちらの戦力も潤った。まさに因果応報とはこの事だな」




 思わずにやけ顔が止まらない。

 これだけの戦力があれば、エジプト基地を制圧する事も可能だろう。

 本来ならレジスタンスを早々に片付けて、アフリカ圏統一によるケイ素市場の拡大を狙う事も出来た。

 そうなれば、その利益が自分に回ってくるとなれば、顔を綻ばせずにはいられない。

 だが、あの蒼い死神のせいで全てが狂った。



「統合軍の神殺しのアリシアか……こちらにとっては死神以外の何物でもないが……この美貌を殺すには惜しいな」




 あの演説で肉声を確認して、アリシア・アイ本人だと既に断定している。

 司令官は彼女の顔写真を見つめる。

 彼女の情報は既に仕入れている。

 今、一番ホットの話題を持ったエース級のパイロット。

 一度は死んだとも噂されたが、ガセネタだったらしい。

 乗っている乗機のスペックも死んだと噂された時、以上にハイスペックになっている。

 世界最高峰のパイロットが世界最高峰の機体を乗り回す姿は、まさに一騎当千の悪夢だ。


 おまけに美しい。

 10代後半だと情報を得ているが、妖麗さを感じさせる深い蒼い瞳に淑徳を感じさせる落ち着いた大人のような雰囲気が特徴的だ。

 統合軍が彼女をプロパガンダに使う理由も分からなくもない。




「殺すのは惜しいがわたしの富のためだ。悪いが死んで貰うぞ」




 すると、まるでその返答を待っていたと言わんばかりに基地に接近する機影をレーダーが捕捉した。




「来たか!敵の数は?」


「5機です。先頭に蒼い奴が!残りの4機はワイバーンの派生機と思われます」


「よし!各機、蒼い奴を集中して狙え!他の弱卒に用は無い!死神さえ沈めればこっちの勝ちだ!各機、死神の動きを鈍らせろ!作戦プランAで行く」




 複数の機体が基地から出撃しアリシア達に直進する。




「来たよ。どうやら、敵はわたし以外、眼中にないみたい。そこに付け入る事が出来るね」




 神としての感覚で敵の指示が筒抜けの状態なのは便利だ。

 尤も地球がサタンの占領下にあるので、いつでもどこでも筒抜けではなく敵のSWNの濃度によっても把握できる情報の濃淡が異なる。

 加えて、相手の深層心理までは簡単には読めない。正確にはあまり、相手の心を読むような行為やスキルを使用すると潜在的に相手の考えに感化され、悪事を働く思考なども共有するかも知れないのだ。戦闘する分には深層心理まで読む必要はないのでこの塩梅で十分だ。

 その敵の考えにブリュンヒルデ、グン、ヒルド、ゲイルスケグルが各々敵意を向ける。



「舐めてくれるな。我らワルキューレの雑兵扱いとわ、後悔させてやる」


「その屈辱……1000倍にして返す」


「返り討ち……」


「槍の錆にする」


「あはは……できる限り殺さないでね」




 どうもこの4姉妹は考え方が似てる。

 元々、そう言う風に作られているのか、モデルにした個体がいるのか分からないが、ちょっと敵意と言うかプライドが高いと言うか、負けず嫌いなのかとにかく、やる気になる方向性が似ている。

 その方が息が合って良いのかもしれない。




「機体の調子はどう?」


「悪くないな。人間の機械人形に乗る事に抵抗もあったが、我らの能力が拡張されている。高く評価せざるを得ない兵器だ」




 ブリュンヒルデの評価に皆が首肯する。

 彼女達は着ていた環境適応スーツではなくアリシアが用意した金髪に近い黄色ダイレクトスーツを装備し、その上にPSGを非実体化モードにした事で視覚では見えないが”戦乙女の蒼輝具”が装着されており、PSGを介して非実体化モードで機体を鎧を着込んだように装着し、ロジカライズシステムで最適化された状態で展開され、機体に纏っている。

 これにより実体化モードほどではないが装甲値も確保でき、実体化モード時よりも運動性が阻害されないので運動性を維持しつつ装甲値を上げる事にも成功した。

 都市部での交戦で破壊したワイバーンMkⅢをアリシアの神刻術と制圧した基地資材に加え、量子回路に疑似TSを盛り込んだ金髪に近い黄色で塗装された突貫改修機がこのワイバーンTypeワルキューレだ。


 見た目は、普通のワイバーンだが中身は全くの新造だ。

 ネクシレウスに搭載されたビッグバン発生時に検出されるアメオン、オメオンと言う超対称性粒子を使った力場で機体を駆動させている事で基礎膂力は従来機の最低20倍を実現している。

 更にTSにより行っていた搭乗者ステータスを量子的に機体に付与するPSGシステムと非常に相性がよくWNの量によって膂力値が変化するようになっている。


 更にスラスターもイオンスラスターからルーンが刻印された”神火炎術”を利用したルーンスラスターに変更されていた。

 ”神火炎術”の炎は通常の炎とは違い、基本的に酸素は必要としないので水の中でも宇宙空間でも燃える。

 これもWNの量で推進力が変化するのでかなり相性が良い。


 本来ならネクシルでも作ればよかったのだが、”神刻術”を使っても一からネクシルを作るのは時間がかかり過ぎる事と全ての技術を再現していられなかったので倒したワイバーンをネクシレウスに近づけたのだ。

 それに無から有を作るよりは、有から有を作った方が手間も力もかからない。

 あの件以来、スキル使用に消極的になったりはしないと決めたが、それでも闇雲に使って言い訳でもない。

 使う時に使い、必要ない時はなるべく負担をかけない。

 機体は急造品だが、それ以外にも新たな武器も与えたので戦力として不足はない。




 グングニル オルタナティブ


 神力保有 S


 攻撃力 極大 攻撃力 極大Ⅱ 攻撃力 極大Ⅲ 攻撃力 極大Ⅳ 攻撃力 極大Ⅴ 槍技 極大 槍技 極大Ⅱ 槍技 極大Ⅲ 神力 極大 神力 極大Ⅱ 神力 極大Ⅲ 神力 極大Ⅳ ステータス補正 極大 ステータス補正 極大Ⅱ




 銀色の輝きを放つ素槍。

 ”武器創造”で作ったモノだが、それなりのモノが出来たと自負している。

 尤も槍を作った事がないので、出来栄えがいまいちかも知れないと言う不安があったがグンが「お父様が使っていたやつよりも凄い」と感嘆していた。

 他の姉妹も似たような感想だったようなので良かった。




「では、みんな。敵の撃退しつつ奥の格納庫を目指して!そこにあるこんな形の機械を破壊すればいい」




 アリシアはパラボラアンテナ式のルシファー擬きの画像を彼女達と共有する。

 その行く手には無数の機体が立ちはだかる。




「わたしが引き付けるから各個撃破お願い!」




 アリシアは常時発動しているオブジェクト”汎用戦術コンバット1”から今回の戦闘特性に合わせ、早期解決を主眼に置き、剣を主体にしながら射撃戦もある程度熟せる”汎用戦術コンバット3”に切り替え先行して”来の蒼陽”を構えた。

 敵はアリシアに群がるようにAK12アサルトライフルを構え、発砲する。

 だが、生前のそうだが、生前を遥かに超える眼力と心眼を持ち人間の限界を超えた反応速度を持つアリシアの前では弾丸などBB弾のように遅く軽い。


 無数の弾丸が迫ろうと全てお見通し、それに然したる恐怖は感じない。

 だが、人間の恐ろしさも知っている。

 どんな人間にも神の魂すら殺す可能性を秘めている。


 だからこそ、決して侮らず全力で避ける。

 彼らの視界から0・1秒の意識の虚空を付き、一気に接近し刀で上半身と下半身を両断する。

 その一振りは神速の域に達し、空気を震わせ、大地を抉り、スキルと技量で制動し範囲を限定した衝撃波が斬撃のように他のAPの上半身と下半身を両断する。

 この衝撃波で基地の人間が死ぬ事がないように配慮した。

 僅か一振りの斬撃で10機の機体を無力化したアリシアに彼らは、恐怖を覚えずにはいられなかった。

 その恐怖から思わず後退る。





「ちょうどいい、新たな槍の試し斬りといこうか!」




 ブリュンヒルデは槍を大きく回し、構えた。

 アリシアに意識が向いていた彼らは不意を突かれ、ブリュンヒルデの接近を許す。

 迎撃の為に無数の銃撃が浴びせられるが、ブリュンヒルデからしても彼らの戦いからは低次元であり、特に恐怖を抱く事はない。

 ブリュンヒルデは高速で槍を振り、捌き、衝撃波で弾丸を吹き飛ばす。

 

 アリシアのように衝撃波で両断は出来ないが、それでもブリュンヒルデの槍速は速い。

 アリシアにより生前以上の力を獲得した事で軽く振るっただけで、これほどの威力だ。

 振った本人が一番驚いていた。

 今の力だけなら、ロキどころかオーディンを超えているだろう。

 それはヒルドも同じらしく、敵の間合いに入り込んで生前以上に滑らかに敵を斬り払っていく。

 その力のほどにグンやゲイルスケグルも驚いていた。




「なんて、奴らだ!弾を弾いてやがる!」


「化け物め!」




 敵軍は一心不乱に弾幕を張る。




「少々、目障りだな。なら、秘技も試し切りと行こうか!」




 ブリュンヒルデは腰を低くし槍を両手で構えた。


 グングニル オルタナティブ


 そう唱えた瞬間、世界が止まった。

 この槍はオーディンの持っていたグングニルを模倣して作った為に、同じ技がインプットされている。

 ただ、その技も“槍技”と言うスキルで補正され高効率、高出力を実現している。


 “槍技”が”槍術”の中に組み込まれたスキルであり、”槍術”が使えれば”槍技”が使えるようになり、個人に応じた技が使えるようになる。

 ”槍技”は”槍術”から“技”の部分だけを抽出、特化させたスキルであり、使用者の技や武器に刻まれた技を効率化する為のモノだ。

 そして、異常の力と異常の槍の性能を持ったブリュンヒルデは今では、こんな事も出来てしまう。

 空間が止まった中で敵の動力部を貫いた瞬間、敵に気づかれる前にもう一度、技を発動し更に一突き、もう一突きとかつて出来なかった3回連続使用を易々と熟した。




「な、なにが……!」


「いつの間に間合いを……!」




 槍の能力を連続使用すれば、かつては息が上がっていたが今では体力にまだ、余裕があった。

 間合いを詰めた事を生かし、その場で大きく槍を振り回し両断する。




「ふん。このAPと言うモノの勘所が掴めて来た。更にテンポを上げるとしよう!」




 アリシアが引き付けた敵をワルキューレ達が狩り尽くす。

 それはまるで強者だけが、許された圧倒的な蹂躙だった。

 それに司令官が焦りを見せる。




「何をしている!相手は高々、5機だぞ!動きを鈍らせる事も出来んのか!」


「それが敵は常軌を逸した反応速度で機体を動かし、放つ弾丸を悉く撃ち落とし全く歯が立ちません」


「えい!言い訳は良い!速く何とかしろ!そうだ!奴だ!クーガー スリンガーを出せ!化け物には化け物を当てるしかない!」




 司令官は焦燥感に駆られながら、藁にも縋る想いで格納庫を防衛するクーガー スリンガーに救援を要請した。




「やれやれ、ご指名か……全く、運が良いのか悪いのか……」




 彼は自分の与えられた役目を嘆くように溜息を漏らす。




「化け物ね……そいつは少々、買いかぶり過ぎだ」

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