神としての使命

 アリシアの目の前には、地面に落ちたコックピットがあった。

 アリシアはコックピットから降り、地面に落ちたコックピットを開けた。

 だが、そこには人は入っていない。

 中にあるのは、黒い箱ブラックボックスだけだった。




「悪趣味め」




 アリシアはこの世の人ではないモノ達に吐き捨てる。

 アリシアが知ったのは「ユリア」と言う白人系の女の子が体を分解され、意識をブラックボックスに移植されたと言う事実だ。

 人間の思考パターンは今の技術でも再現出来ていない。

 AIの様に膨大なデータを使い真似事をさせる事は出来る。

 だが、新たなモノを構築するには人間の思考が不可欠になる。


 だから、敵は考えたのだ。

 機械に人間の意識を移植しAPのセンサー、データ、各種インターネットの情報を入手、分解、再構築を繰り返す事で新たな戦術を生み出し続ける最強の兵器を作ろうと考えたのだ。

 ユリアと言う子は誘拐された後、その適正の高さからファザーの管理下に置かれ改造を受けたと言うのが真相だ。

 アリシアは目を閉じブラックボックスに意識を向けてユリアの意識に干渉する。




「助けて……」




 心の中に引っ切りなしにユリアの声が聞こえる。




「苦しいよ!もう訳が分からないよ!私は戦いたくないよ!頭に一杯入って!戦う事考えさせられて殺したくないのに!一杯殺して!もう嫌だ!殺して!殺してよ!」




 彼女の自我は壊れかけていた。

 本来人間だった者を機械に移植すれば、生理機能が保てず人格が崩れていく。

 体温もない生殖機能もない胃も腸も存在しない。

 本来あるはずの機能がなくなり、彼女は徐に壊れ、このままにすれば近い内にただの兵器になるだろう。

 この状態になった人間はもうもう元には戻せない。




 そう普通ならば。




「あなたは苦しい?」


「苦しい!こんなのは地獄だよ!私にはもう死ぬ自由すらないの!だからお願い私を殺して!」


「大丈夫だよ。あなたの苦しみはわたしも経験した。わたしは死にたくないのに自分を一杯殺した。怖くて怖くて仕方なかった。怖いのにそれでも自分を殺したその度に更に怖く成った。希望なんてない。自由に生きる事すら許されない地獄だった」


「そうだ!だから、殺してくれ!わたしを苦しみから解放して!」


「だからこそ、教えてあげる。絶望を知る人間には必ず光が灯る。最初は光を疑いもするけどあなたが本当に苦しく思うならあなたの本能が求めるの。本当の希望を」


「本当の希望?」


「今のあなたには安っぽい言葉かも知れないけど、わたしを信じてみない?わたしはある人に地獄から救われた。だから、今度はわたしがあなたを救う。ユリア。ユマリアがあなたの帰りを待っているわよ」


「っ!何で、わたしの事を!それにユマリアの事まで!」




 かつて、アリシアの紙粘土の勲章を代表して渡した少女、ユマリア。

 彼女から頼まれていた事があった。

 自分の村が襲われた時に離れ離れになったユリアと言う白人の女の子を見つけて欲しい。

 その頼まれていたのだ。

 その時は手掛かりが薄くて本格的に探す前に死んでしまった為、果たせなかったがこんな形で会えるとはもしかしたら、自分がここに来たのは彼女の因果力の強さだったのかも知れない。




「ユマリアはわたしの家にいる。だから、あなたは戻らないといけない。戻れるチャンスが今、来ているの」




 ユリアは考えた。

 彼女は教えてもいないのに自分の名を言い当てた。

 しかも、さっきから届くはずのない声で自分と話している。

 自分の周りには光も音も届かない闇しかないのに確かに聞こえる。

 すると、暗闇しか無かったユリアの世界に光が差し込めた。




「わたしを救ってくれるの?」




 泣き縋るような嗚咽し光に手を伸ばした。

 光の先から声がする。




「必ず救う。わたしが裏切るならわたしの命を貴方に捧げる。奴隷にするも殺すも好きにしなさい」


「本当に救ってくれる?」




 光の中に人が現れ、自分に左手を差し伸べる。

 光のバックフラッシュで顔が見えない。




「わたしを信じるならこの手を取りなさい」




 ユリアは迷わなかった。

 直感、出来た。

 彼女なら自分を救ってくれると確信出来た。

 ユリアは彼女の左手を取った。




「あなたは救われた」




 闇は消え去り白い光が世界を壊す。




◇◇◇





 気が付くとテントの中におり、ユリアは体をそっと起こす。

 直ぐに気づいた事があった。

 なんで体を起こす事が出来るのか、すぐに現実を直視した。





(体が……ある!)





 自分の体を手で触って確かめる。

 顔がある。

 お腹もある。

 手も足もある。

 五体満足に揃っている。

 我を疑う様だ。





(嘘……本当に戻ってる)





 これは夢ではない幻でもない。

 ユリアは近くにあった水の入った青銅の器に顔を覗き込んだ。

 そこには自分の顔がちゃんと映っていた。

 紅い髪が特徴的な自分の髪があり生前と変わらない幼い顔立ちの自分の顔があったのだ。

 徐に器の水を掬い口に含んでみると確かに喉の渇きが潤い水の冷たさも感じる。




「戻ってる……」




 驚きのあまり呟きながら何度も自分の顔の形を確かめる。

 あまりに在り得ない出来事に我を疑う。




「起きた?」




 テントの中に女性が入ってきた。

 自分よりも年上の女性だった。

 綺麗な神秘的とも言える蒼い髪に蒼いサファイアの様な輝きを放つ女性で瞳は神秘的な輝きを放ち妖麗な雰囲気が出ていた。

 その輝きは何処か人間離れした雰囲気すらある。

 ユリアはその声に聞き覚えがあった。




「あなたは?」


「アリシア。アリシア アイだよ。宜しくね、ユリア」




 ユリアはただ茫然として「うん」とだけ答えた。




「体はどうかな?何処か可笑しくない?」


「はい、大丈夫です。」




 ユリアは彼女の声で徐々に思い出す。






(そうだ!私はこの人に体を貰ったんだ!)






 闇に光が射した時に自分の手を握ったのはこの人であるとユリアは思い出す。




「あなたが体を……」


「違うよ」




 アリシアは首を横に振って彼女の言葉を遮った。




「えぇ?」


「あなたの信じる気持ちがあなたを救ったの。答えはそれだけ。わたしは何もしていない」


「でも、あなたがいなかったらわたしは……」


「全ては悪い夢だった」


「えぇ?」


「あなたは悪夢から醒めただけ。わたしはそれを手助けしただけだよ。そう言う事にしておいてくれないかな?わたしの為に、ね?」




 ユリアは意味が分からなかった。

 だが、この人の言う通りにしないと申し訳ない気もしたのでユリアは「うん」と頷いた。




「アリシア様」




 すると、今度は杖を手にした老人が入ってきた。




「どうしましたか?村長?」


「いえ、急に居なくなったので探していたのです。3度も助けて頂いたのにお礼すら申し上げる事が出来ずにいましたので。あの時と先ほどの事を踏まえありがとうございます」




 村長と呼ばれる老人はアリシアに深々と頭を下げる。




「言ったはずですよ。あなた達がわたしを信じてくれたから出来た事です。わたしは褒められた事はしていない。あなた達の想いが為した事です」


「ですが、あなたがいなければ我々は殺されていました。孫も不治の病が治る事はありませんでした。水に困る我らに岩を割って水を齎してくれた。どれもあなたがいなければ為せなかった」




 老人は地に足を着き更に深く頭を下げた。




「頭を挙げて下さい」


「とんでもない!あなたは待ち望んだ救世主。生ける神の子に違いありません。恐れ多くもそのような事は……」


「では、その神が頭を挙げてと頼んでもダメですか?」




 村長はハッとなり直ぐに頭を挙げ、取り繕った。

 神の頼みを断るほどこの村の聖霊に対する信仰は落ちぶれてはいなかったのだ。




「ですが、せめて我々に御礼をさせて下さい。」


「有難い。御礼ですか……でしたらわたしのお願いを聴いて貰えませんか?」




 それからアリシアが老人に頼んだ内容は以下の通りだ。




 アリシアは3発の薬莢の無い弾丸を渡した。

 それぞれに血の弾丸、肉の弾丸、契約の弾丸と名付けた。

 今日から1年周期に血の弾丸と肉の弾丸の前で各々の祈りを捧げながら食事と飲み物を用意し祈り終えたらその食事と飲み物に必ず手を付ける。

 1日1回30秒以上の祈りを3発の弾丸の前で捧げる。

 と言うアリシア独自の過越と契約と掟を守る事を取り決めた。

 弾丸は決して蔑ろにしない事。

 これらを守ればあなた達に災いは振り掛からない。

「あなた達が死を迎えた時に復活を約束しよう。」と取り決めた。

  アリシアは心の中で思った。





(わぁ……本当に神様してる。私……)





 元人間であるが故にそんな自分自身にギャップを抱いてしまう。

 でも、こう言う事には慣れておかねばならない。

 そこは訓練あるのみとよく知っている。




「しかし、本当に大丈夫でしょうか?また、奴らが資源を狙ってきたら!」


「災いは起きませんよ。あなた達が掟を守る限りわたしが必ず守りますわたしは今、それは分かる形で証しよう」




 多少、蒙昧な彼らにも過越の能力が分かる形でないと今の時代では納得がいかないだろう。

 そう思いアリシアはスマホPCの電話機能で電話した。

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