戦神解放

『それは無駄です。ルーンが刻印された時点でそれでは発動は止められません』




 アストが必要最低限の情報を伝える。

 アリシアはスキルについて詳しくはないが、よく知っているアストが言うのだからそうなのだろう。




「なら、何か別のモノを!」




 アリシアはオーディンを”戦神眼”で見つめる。




 オーディン


 偽神 戦神


 役職 大神王


 筋力 EX


 神力 EX


 忍耐力 D


 因果力 EX


 妨害耐性力 EX2




 セットオブジェクト ラグナロク式戦神戦術1


 ルーン魔術1000 発動率S 火炎魔術 1000 発動率S 槍術1500 発動率EX 槍補正1200 発動率EX 時空魔術 300 発動率A 障壁1000 発動率S 高速移動術1000 発動率S 対神耐性1300 発動率EX 指揮200 発動率EX 偽神威圧 900 発動率EX……


 エクストラスキル


 偽戦神権威





 武器ステータス


 グングニル

 

 神力保有 A


 攻撃力 極大 筋力 大 ステータス補正 大 ルーン魔術強化 極大 因果 中 対神特攻 極大 神力 極大 武器補正 大




 戦神の蒼輝具


 神力保有 A


 防御力 極大 対神耐性 極大 下位攻撃無効 大  神力 大 ルーン魔術強化 極大 武器補正 大 ステータス補正 大 戦神解放 ?





 アリシアの今までの経験から真っ先に目に跳びついたのは、鎧についた”戦神解放”だった。

 ?と付くのはこの戦いで状況によって戦局を塗り替えるポテンシャルを秘めている。

 ワルキューレに装備された”因果のサイコロ”ですら劣勢だったアリシアを拮抗させるほどに引き上げたのだ。

 考えている時間はなかった。

 オーディンは既に巨大化した火球を振り翳し、拘束されたアリシアにぶつけようとしている。

 もうこれに賭けるしかなかった。




「権威強奪」




 オーディンの鎧を奪われ、青黒い全身タイツの環境適応スーツと青黒い衣姿に変わる。

 オーディンから蒼護な鎧の輝きが失われ、アリシアに装備された。




「我が鎧を奪った……だと」




 オーディンは絶句した。

 だが、ここにいる誰にも驚いている暇などない。その微かな動揺すらオーディンの死活問題となる。

 全ての物事が一瞬の内に決まってしまうのだから……巨大な火球は真っすぐとアリシアに向かってくる。

 アリシアは刹那に全てを賭けるしかなく、一気に勝負を仕掛けてきた。





「戦神解放!!」




 アリシアの宣言と同時に”因果のサイコロ”と”戦神解放”の力が掛け合わさり、ステータスが一気に拡大する。

 恐らく、全てのステータスがEXが2乗の能力値に引きあがる。

 高まった神力、高まった筋力の前にルーンで作られた鎖など造作もなく引きちぎる。

 アリシアは全ての神力を来の蒼陽に回した。

 アリシアの莫大な神力により”心意斬撃”で攻撃力が加速度的に上昇する。




「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」




 迫りくる火球は範囲が広く到底避け切れない。

 アリシアは自分の体の暑さなど気にも留めず、迫りくる太陽に挑む。




「全てを!斬り裂けぇぇぇぇぇぇ!アスタ!ガニマァァァァァァァァァァ!」




 アリシアの神力が更に高鳴り、アリシアの神火炎術を刀で斬ると言うイメージに認識が強化された”神火炎術”の技が刀身から蒼炎が噴き上がり、延長線上に拡大しアリシアは大きく振り過振り太陽、目掛けて振り翳す。

 紅蓮の太陽と蒼炎の刃が激しく干渉しぶつかり合い、その衝撃波と熱風がヴァルハラを業火に包む。



「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「ぬうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」



 アリシアとオーディンが互いの力を振り絞り技と技をぶつけ合う。

 互いに力を振り絞る毎にヴァルハラの神殿のあちらこちらが融解、神殿の石が蒸発していく。

 激しい炎の奔流はまるでその世界そのモノを食いつくそうと天空の世界全てを業火で包んでいく。

 それはまるで神話の戦いのようであり、最高神と最高神に反逆せし人間が神の座を奪い合うかの如き熾烈な戦いを演じていた。


 火炎の奔流は川のように天空を流れ、干渉し合い、火炎が雲の上で爆散を繰り返す。

 神殿は半壊、天空の世界は紅蓮と蒼炎の炎に包まれ、自然界の要素を焼き尽くす。

 だが、その戦いも長くは続かない。

 この時点でアリシアのステータスはオーディンを凌駕し更に神力の励起もアリシアが上回っていた。

 誰かを守る為に己を犠牲にする事を一切、厭わずそれを徹底し体現してきたその意志の強さが神力を激しく励起させる。


 その為に日常的に命がけの過酷な訓練を自らに課しその意志を常に体現してきたのだ。

 練習でも常に本気を出せるから本番ならそれ以上に力を発揮する。

 土壇場の踏ん張りの強さがアリシアの力の1つなのだ。

 そんな勢いに娘を道具としか思わず、愛する事もなく自らの犠牲にする機会すら捨てたオーディンがこの土壇場で勝てる要素などなかったのだ。

 そして、太陽は切断された。




「ばか……な」




 オーディンの目の前で自分の太陽が紙でも切断するように真っ二つに斬り裂かれ、太陽を上回る灼熱の業火がオーディンの身体を真っ二つに斬り裂いた。

 オーディンは燃え盛る炎の中で断末魔を上げて悶え苦しみながら体が霞のように消えて行った。

 アリシアは焼けたヴァルハラの融解していない入口付近に着陸した。




「勝った……?」




 AD戦以上に現実離れした戦いに現実を中々、認識できない。

 仮にも神と呼ばれる存在に自分が本当に勝ったのか分からない。

 そもそも、スキルの存在や実在した北欧の神の存在など非現実過ぎる。

 一体、どこのゲーム作品なんだと思わざるを得ない。

 アストは色々、知っているみたいだし詳しい話はあとで聞くしかない。

 それと同時にアリシアにかかっていた”戦神解放”の能力が切れた。

 その瞬間、体に激痛が走る。




「アァァァァァァァァァァカァァァァァァァ!!!!!」




 言葉にならないほどの激痛が走る。

 アリシアの叫び声がヴァルハラを共振させるほど響き渡り天を揺らす。

 これほどの苦痛を受けるならいっそ死んだ方がマシと思えるほどの痛みだ。

 思わず、手持ちにナイフで喉元を刺そうとしたがアストが仕切れに「耐えるんだ。アリシア」と仕切りに促す。





(アストがそういうなら……)





 アリシアはコックピットでのたうち回り耐えて耐えて耐えまくる。

 まるで自分の体と心が人間ではない何かに生まれ変わっていくのを感じる。

 自分の体と心の構成成分を一度に分解され、最適化形へと再構築されていく。

 体と心が焼かれるように熱い。

 まるで自分が炉の中で焼かれて槌で叩かれている刀のように思えた。

 一体、どのくらい続いたのか分からない。

 1時間?それとも1日?どのくらいか分からないがアリシアはいつしか気を失っていた。

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