戦姫が望む力
カーンがジオに特命を与えた直後
アリシア達がリリーに取り調べをしている最中、通信が入った。
「アリシア。天音よ。緊急連絡よ」
「どうしたの?」
「アンタの根拠の無い予感的中したみたいよ」
「ニジェールで戦乱が起きるんですか!」
「えぇ……ほぼ確実に起きる」
「市民の避難等当然終わってますよね?」
終わっていないにしても非難しないなどあり得ないと思ったが一応、確認してみたが、その予想はすぐに裏切られる。
「行われない」
「はぁ?」
アリシアはあまりの事に素で答えてしまった。
(ふざけてるのか?避難させないって……どう言う事?)
普通、避難させるのが当たり前のはずだ。
何もその普通の事をしないとか最早、異常でしかない。
何か計り知れない事情でもあるのだろうか?と淡い期待を抱いたが、それも脆く崩される。
「市民を避難させるとかなりの人数を移動させる事になる。シェルターに短期間の間に入れるのは無理がある。それにAD同士の戦闘は避けられない。戦闘になれば非公式ADでの戦闘行動が露見し政府の信用を失う。なら、ニジェール到達前に撃墜するべきと言うのが方針よ」
それには流石のアリシアを感情を露わにする。
「何ですかそれ!こんな時に見栄を張ってる場合ですか?!」
「私だって気持ちは同じよ。こんな馬鹿げた事はやらせたくない。でも、命令には逆らえないわ」
「分かってますよ……分かってるけど……けど……」
アリシアは押し殺す様に嗚咽し手に自然と力が籠る。
政府の言っている事は解らない訳では無い。
でも、そんな理由で戦って欲しくない。
(ただの見栄で戦う事に戦う事に何の意味があるの?わたしには解らない、解りたくも無い)
見栄で戦うのは只の国家単位の私欲と変わらない。
それに如何程の価値があるのか?知って見て理解しようとしたが理解は出来なかった。
この対応には最早、悪意しか感じない。
「だから、あなたに依頼するわ。作戦が失敗した時はADを止めて」
「私の事を過大評価してませんか?個人で何とかなる敵だと思いますか?ルシファーとは違うんですよ。精神力だけじゃどうにもならない。それを私に押し付けるんですか?」
「悪いとは思ってるわよ……本当に……あなたの言う通りだもの」
天音の声はいつになく声の勢いが衰え、本当に申し訳なさそうなのが伺える。
だが、天音にそう判断させるほど切迫しているとも取れた。
「軍も政府も大気圏突入前に肩をつける事に躍起になってる。いや、絶対肩が着くと思って失敗を考えていない。そもそも、市民を捨てる気だから考える気もないでしょうね」
「質が悪いです」
アリシアの声から珍しく憤りが吐き出る。
あまりに馬鹿馬鹿しい理由に呆れ返っていた。
まるで人命よりも保身が重要と言う人間のエゴを見ている様だった。
正直、不快だ。
その上、敵の事を完全に見下している対応も気に入らない。
「完全に敵を侮ってる。自分達が隷属していた相手だから負けるはずがないと思ってる」
「その身勝手な尻拭いを私にしろと言うんですね。あなたは……」
「残念だけど、動かせる部隊もそっちに無い以上、そうなるわね」
「私が断るとは思わないの?」
「当然、依頼するからにはそれに見合う物を渡すわ」
「……なら、私にあなたと同等のセキュリティーレベルを渡して」
その要求に流石の天音も少し間を置いて考え込んだ。
「これはまた……えげつない物を頼むわね」
「無論、前払いしろなんて言いません。成功報酬で結構です。出せないなら断るだけです」
「1つ聴かせて。あなたは市民を守ろうとか助けたいとかそんな意志は無いの?」
「完全になかったら、わたしは怒ったりしませんよ。政府の対応は酷いですし市民が傷つくのも良くないと思います。でも、私は知ったんです」
「知った?何を?」
「私はニジェール支部が悪い事をしているのを知った。それを人から見ても明らかに悪行です。恐らく、裁判になれば極刑ですね。でも、そんなニジェール支部の行いがあったから、ニジェールの治安は改善し市民もそれを熱望した。それって、結果的に市民が望んだ結果で悪行が成り立ってるんだって……私は気づいた。例え、その悪行を知らなかったとしてもそこまでの事を求めたのは市民なんだって思ってしまった。なら、守る事に意味があるのかな?って、考えてしまった。例え、そんな市民であろうと他者を消費して成果を求める様な真似をわたしはしない。だから、自分の命をかけて守ってはみるけど、それでもダメならそのツケは市民に払ってもらうと考えてる」
アリシアは知っているニジェール中を駆け回り、通信を傍受しペイント社を調べ、その過程で市民の民意とペイント社の方針がどうなったのかその全てを把握し分析し理解した。
アリシアの意見は中々、常人的ではないが、どこか本質を見ている気がした。
確かに戦闘をしない市民に戦争責任がないのか?と問われれば、天音はNOと答える。
戦争が起こるのは人の貪欲や怒りと言った感情だ。
その感情で争いが起きないように軍は国内で争いが起きないように治安維持をする事も重要な事だ。
だが、軍がそれをカバーするにも限度があり、それを全てカバーするとなると非情な手段を打つ事もあるかも知れない。
結果的に市民達が貪欲を捨てないなら、戦争や争いは起こる。その不幸の皺寄せは誰かが受けるのだ。
それは市民が戦争を起こしたのと変わりない。
今回のニジェールの件も市民の貪欲故に治安が悪くなり、ニジェール支部がそれに呼応して悪行を働いたなら確かに市民の責任でもあるとアリシアは考えているのだ。
民意に流されて乗った奴も悪いが乗せた奴も悪いと言う事だ。
「成る程ね。確かに言い得てる。だから、助ける気になれないと?」
「人間は身勝手ですよ。あなたが私に依頼した様に……それに個人で護れる物なんてたかが知れています。だから、私は自分が護らないとならない物を……必要なモノだけで手一杯です。それ以上を求めてもいけないんです。多分、それを求めた時点で私を見栄を張ってしまうから」
天音は納得した様に仕草を見せた。
彼女の言い分はかなり非凡庸的ではあったが、決して間違ってはいない。
民主主義であるこの世界で大統領は市民が選ぶ。
その時点で大統領が市民の総意志と扱える。
その後、大統領がどんな選択をしてもそれは市民の意志でもあるのだから、市民も無実とはならない。
国が法人である以上、国を構成する市民も無関係ではいられない。
アリシアの考えはそう言う事だ。
法律的にもアリシアはどこも可笑しなことは言っていない。
それは認めるか認めないかは感情論にはなるが、間違ってはいないのだ。
「そう……分かったわ。報酬は約束するわ。約束を違えるなら私の首を跳ねるなりすれば良い」
「それ……どの道、成功させないと出来そうにありませんね。ズルい」
「そうよ。大人はズルいモノなのよ」
その時の天音の顔は何かに自分に対して失望を露にするような憮然とした顔をしていた。
(大人ってズルい。そう言えば、昔、同じ事を言ったっけ……)
今の自分は昔の自分の期待を完全に裏切っていたと思い天音は自嘲した。
自分が結局、英雄にはなり切れなかった出来損ないだったのかも知れない。
理想を掲げたは良いが、それを貫徹するほどの勢いも力もなかった。
だから、結局自分が嫌っていた大人と同じ事を今、しているのだ。
でも、目の前の彼女だけは違うのだろう……。
「分かりました。その時は慈悲無しで跳ね飛ばせそうです」
そんな冗談とも本気ともつかない事を言っていた。
多分、彼女は本気でやるだろう。
彼女は口にした事は全て実行する。
他人の目など憚らない、ただ自分の信念や守るべき者の為なら決して恐れない強靭な意志、仮に国家を敵に回すとしてもそれを貫き死ぬ覚悟すら籠った心の刃を隠し持っている。
自分にこんな目が出来たらと憧れすらした。
「ところでその迎撃作戦のプランはどんなのですか?」
「それがね。最新型の特攻兵器をADのバリアに命中させてバリアに過負荷を与えた所に此方の戦艦の飽和攻撃でADを破るらしいわ」
アリシアはその言葉にある種の戦慄を覚え、恐る恐る聴いてみた。
「まさかだと思いますけど、その作戦を提案した人は宇喜多と言う人ですか?」
「あなた、もしかして何か知ってるの?」
天音もアリシアの言葉に何かを察してすぐに反応した。不審に思う所があった。
最新鋭の特攻兵器と言う単語だ。
中東基地が独自に開発したと聴かされたが、その内容は機密とされ中身は知らなかった。
だが、あの宇喜多の事だから中身が碌な物ではないのではないかと天音は考えていたのだ。
「あなた、何を知っているの?」
「その特攻兵器の中身は多分……」
天音はその内容を最後まで黙々と聴いた。
そして、少し間を置いてから机を”バン”と握り拳で叩いた。
「くそ!あのゴミ虫!何が最新鋭だ!自爆の名前を変えただけじゃない!」
「もう作戦は止められないんですか?」
「無理ね。既に準備はほぼ完了してる。それに今更、自爆要員を明かしても大義の為の犠牲で割り切られるのが落ちね」
アリシアは考え込んだ。
どうすれば良いのか?何が最良なのか?自分はどうしたいのか?を考えた。
いや、考えるまでも無い。
答えは出ている。
自分にとって何を守るのかも……何をすれば良いのかも……分かっていると。
ただ、その一歩を踏み出せない。
あの時の自爆の様に護れる距離にいながらもし護れなかったら……救えた筈なのに救えなかったら……何も出来なかったら……それが無性に怖い。
無力な自分に打ちひしがれたアリシアの中に躊躇いが生まれていた。
そんな時に不意にアリシアは心の中は欲する。
力が欲しい。
その言葉があの時のようにまた、過る。
全てを屈服させる力でも正義の為では無い。
強いて言うなら、目の前で失った悲しみを乗り越えるだけの運命すらも変えられる力が欲しい。
護りたいモノを救い、手に届く者を救い、自分すらも救える力が……欲しい。
力があれば、変えられるのですか?
どこかで聞いた声がした。
それと同時に得体の知れない幻視が頭を駆け抜ける。
それを自分は第3者の目で見つめる。
何か大きな戦いの幻視、人々が変革や革命、正義に熱気し盛大な歓声を送り、誰かが人の温もりを論じ、英雄と呼ばれ可能性の光を信じている。
だが、何かその裏に得体の知れない悪意が蔓延っておりその悪意を自分は感じている。
そして、声が告げる。
「力があれば、変えられるのなら答えなさい。力とは何かを?何を以て力と言う?あなたとどんな力を望むのか?」
「私の望む力……」
アリシアは考えた。
相手が何故、今さっきの幻視を見せたのか?恐らく、力を持つと言う事はさっきの幻視と同じ未来を歩む可能性がある事を意味しているのだ。
無論、アリシアはそんな未来を造る為に力が欲しい訳ではない。
あの幻視は”力”と言うモノの歩んだ道なのだ。
世界の変革、独善的な正義それらの傍には必ず力があった。
だが、それにより変えられた世界は永遠ではない。
そして、この相手はそんな自分を試している。
相手が何者か薄々分かっている。
だとしたら、この人の前では私の全力ではなく、この人が全力と認めてくれる答えを誠意を持って答えなければ成らない気がした。
それを覚悟した。
多分、間違えれば殺される。
この人は私を簡単に殺せる人なのだ。
でも、決して冷酷でも悪魔でもない。
それがその人にとっての悪だから、裁かれるだけの話だ。
さっきの幻視はどれも悲しい映像だった。
この人はそれを悲しんでいる。
(わたしが望む力……それだけで良いのか?それはわたしのエゴなんだと思う。力だけで全てが解決するのが正しいのか……違う)
そう考えるのは力に囚われているだけで力に酔って惑わされているだけだ。
力はただのオプションでただの手段に過ぎない。
なら……自分が何を望むべきなのか決めた。
「私は望みます。私を……そして、貴方を苦しめる悪意に斬り、人の正義を砕き、人の理を貫く。そんな力を私は欲している。私がこれから直面する事は絶対に起こしては成らない。それは私を苦しめ貴方を苦しめる事だと思うから!だから、私は望む。世界の全てを敵に回せる力が欲しい!」
相手は微かな微笑みを浮かべる様に「クスッ」と笑ったような音がした。
「迫害される覚悟も負うと言うのですね。良いでしょう。それでこそ、わたしの娘です。なら、あなたの望む力を望むままに賜るように」
光が一気に満ちると共に現実に引き戻された。
気づくと自分は椅子に腰掛け画面越しに天音が見える。
◇◇◇
(あっ……そっか。わたしは天音さんと話してたんだ)
誰かと話していた気がするが……何とも漠然とした記憶しかない。
長い時間そこにいた様な錯覚を覚えるが分からない。
ただ、さっきまで無かったモノを自分の中に感じた。
決断を下せずに悩んでいた答えが恐れる事なく前に自然と進み出す。
「天音さん。敵の予測進路送って貰えませんか?」
「ちょっとまさか、あなた。」
「今更ですよ。私は依頼を受けると言ったんです。元々、成功確率なんて0に等しいんです。それを0に近づけるだけ……足りないなら私の命を勘定に入れるだけです。問題あります?」
天音は何かを察した。
彼女の雰囲気が明らかについ最近と違う。
大胆に作戦を打ち明け、死ぬ事を嘯いている。
その実、生き残る事を全力で考えている。
死ぬ事は確率的に明らかなのに全く死ぬ事を考えてすらいない。
恐れが無い訳ではない。
ただ、それを感じさせない覇気が顔や声から感じられる。
心がゾッと総毛するほどの変わり様だった。
「どうしてもやるの?」
「やります。私は軍の作戦を止め、ADを葬ります」
彼女は堂々と何の迷いすら抱かず、面と向かって天音に宣言した。
その狂いのない眼差しを天音は直視できず、目を反らすほどだった。
(眩しすぎるわよ。今のあなたは……)
まるで光そのものの様だ。
即断したアリシアは天音から進路予想のデータを受け取ると「それでは失礼します」と一方的に通信を切りすぐさま行動に移す。
天音はデスクの上で深く溜息をつく。
「本当に……あなたはどんどん先に進むのね」
誰の眼も憚らず、自分のやるべき事を懸命に行い、自分を犠牲にする事すら決して厭わない。
何かを守る為に自分を顧みる事もなく……いや、そんな余裕すらも犠牲にして全て他人に尽くす。
そんな生き方に憧れたが、天音には決して届かなかった。
だから、自分はアリシアを気にかけているのかも知れないと天音は改めて思った。
そして、その”愛”がどこまで行くのか個人的に見てみたくなった。
◇◇◇
「と言うわけで宇宙に上がります」
「成る程な。そう言うわけで上がるのか。なら、準備するか」
2人は淡々と事実を受け入れ、何事も無かったかのように準備にかかろうとした。
「いやいや、待て待て。そんな軽い感じで宇宙上がって戦う気か?!」
それを制ししたのは捕虜のリリーだった。
あまりの気軽に雰囲気に思わず、ツッコミを入れてしまった。
聴く限りかなりの激戦に成る事は容易に想像できるのにコンビニでも行くような気軽なノリに激しい温度差を感じた。
「何か問題?」
「何か問題か?」
2人で息を合わせたかの様な受け答えにリリーの常識が悶絶する。
「いや、問題は無いにしてもだ。もっとこう……緊張感を……」
「緊張感?いるの?そう言うの?」
「いや、要らないだろう。緊張した兵士なんて役に立たないからな。ゆとりが大事だろう」
「えぇ?あぁ、うん……まぁ……その通りだ。すまない何でも無い」
どうやらこの2人にはそのニュアンスは伝わらないと観念してリリーは諦めた。
実際言っていることは彼等の方が正しい。
寧ろ、こんな大きな作戦を前に図太い神経を持ってないとやってられそうにない。
水を差す様な事はしないべきだろうと判断する事にした。
「しかし、どうやって宇宙に上がる気だ?打ち上げ基地に行かないと宇宙には上がれないぞ」
「それを説明する前に……」
アリシアは徐にリリーの押収した物品を見た。
そして、そこから数個何かを取り出し口を近づけた。
リリーは「あぁ……」と思わず声を漏らす。
「あーあー聴こえていますか?盗聴犯さん?作戦は聴いての通りです。近くにいるんでしょう。私に協力して」
すると、リリーのタブレットPCが反応した。
着信音が鳴り響く。
アリシアはリリーに一瞥して出るように促した。
リリーはコクリと頷き渡されたタブレットを開き電話に出た。
「はい。リリーツイです」
「ツイ少尉。代表と代わってくれ。話がしたいとな」
リリーはタブレットをスピーカーの状態でアリシアに渡した。
「はい。代表者です」
「君の事はなんと呼べばいい?ブルーとでも呼べば良いかな?」
「それで構いません。それでお話受けてくれますか?」
「残念だが、我々も政府として作戦に参加せねばならない」
「分かりました。なら、情報拡散を覚悟していると受け取ります。あなた達汚職の……」
(隊長相手に躊躇いなく脅迫した!)
リリーは驚嘆した。
恐れ知らずなのか無知なのか、大胆なのか分からないが、流石に頭のネジが飛んでいるとしかリリーには思えない。
相手は政府にも影響力のある4閣とも呼ばれた男だ。
そんな相手に遠慮や容赦などが微塵も感じない対応にリリーはある種、瞠目した。
敵とも言える相手に徹底した態度と言う点に関して言えば、アリシアは4閣相手でも決して臆していないのだ。
そこは素直に評価できた。
寧ろ、それが逆にその迷いのなさが真実味を帯びさせるのだろう。
カーンはその言葉に思わず反応し「待て」と制しして堂々とした微動だにしない声色で一声出した。
「ブルー。その件は現在調査中だ。故に確証の無い事実だ」
カーンはアリシアに「意味のない事だ」と遠回しに伝えてきた。
実際、ガイアフォースは敵の工作などで誹謗中傷を書かれる事もあるが、どれも憶測の域を出ない話だ。
生半可な事ではガイアフォースを「悪」に据えるのは判断として難しい。
「これを見てもそう言えますか?」
アリシアはタブレットにデータを流した。
カーンのパソコンにデータが流し込まれる。
受信に完了するとカーンは黙ってデータを開く。
すると、動画が再生された。
カーンの眉が険しくなる。
そこには紅い機体が歩兵相手に武器を向けて発砲している映像だった。
しかも、歩兵が停戦を申し出ているにも関わらず、歩兵を虐殺する様子がきっちりと映っている。
その紅い機体は間違いなく自分達の機体だとカーンは分かった。
なんせ世界には1機しか無い機体だからだ。
「もし、これをテロリストなんかに渡したらどうなりますかね?あなた達は今以上に動きにくくなるのでは無いですか?」
カーンとしてもこの証拠は致命的であり、拡散されると確かに危険だった。
しかも、目の前の女に躊躇いと言うモノも恐れらしきモノもない。
言った事を必ず実行に移す鋼のような意志が垣間見える。
彼女の言葉には自然と説得味があった。
「君は軍人の筈だ。そんな事を……」
「しますよ。少なくとも私の立場ならします」
「この撮影者は誰だ?詳しく話を聞きたい」
「それは私です」
「何だと?」
「正確には知り合いの戦闘記録ですけどね。私はこの事件の被害者でもあります。知り合いの戦闘記録を覗くついでに頂きました。まぁ、こんな形でわたしがこの件を調査する事になるとは思いませんでしたけどね」
「被害者が調査員をやる事に疑問があるが、この映像がある限り疑いようが無いな。これは証拠として預かるが良いか?それと出来れば事実確認出来るまで他言しないで欲しい。その代わりそちらに要望に答えよう」
半ば脅しに近い脅迫だったが相手側からすれば、今後の事を考えると憂いは完全に断たねばならない。
今、拡散でもされたらそれどころではない。
「良いですよ。ありがとうございます。では、ツイ少尉をお借りしたます。宜しいですか?」
「それで良いのか?」
「出来れば、ツイ少尉を回収しに来たであろう部隊もお借りしたいです」
「そこまで読んでいたか……良いだろう。と言う事だ少尉お前はブルーの指揮下に入れ!」
「了解。それが任務なら」
「それではこっちも失礼する。それと宇宙の護衛部隊にはアルファ中隊がいる。変な言い方だが気をつけてくれ」
「ありがとうございます。同士討ちさせるかもしれませんがご了承下さい。それでは失礼します」
最後に本気とも冗談ともつかないセリフを言って通信を切った。
ある種の太々しさに大物を思わせるが、どうにも不安感が拭えない。
だが、もうどうする事も出来ない。
カーンは連隊長としてこの後、出撃せねば成らない。
と言っても新人教育の一環として地上で万が一に備えた待機作戦だ。
尤も、万が一など考えていない様な配備ではある。
同時にこの作戦に疑問が生まれていた。
自爆要員による作戦。
ブルーの会話を盗聴して聞いた話だ。
全体を救う為には小さな犠牲も必要だろうが、問題はそれを自分達も間接的に使ったと言う事だ。
無論、自爆要員など非合法だ。
だが、それを普遍の如く、自分達が使った事実は恐ろしい限りだ。
それだけごく当たり前に自爆要員が政府軍により使われていると言う事に他ならない。
第3者機関であるFBIが機能している筈なのにこんな大事を未だに野放しにしている事実がある。
自分がいつ死ぬか分からない。
早めに手を打つべきだろう。
現状の手掛かりは薄いが、その一手として身近な人間からその足跡を探す事にした。
薄い手掛かりかもしれないが、ここまでの事を起こしたなら彼は自爆要員とも関係があるかも知れないと言う憶測だ。
「サビーヌ少尉。私だ。追加調査を頼む。まず、旧ロシア連邦サランスクの集落でガイア2αの戦闘記録を調べるんだ。現地民にも話を聴け。それとこの件も他言しないで聴いてほしい。実は……」
カーンは万が一、ツーベルトが自爆要員と繋がりがあってはならないと考え追加でツーベルトの自宅や周辺を洗い自爆要員の件も調べるようにジオに頼んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます