藍色の復讐相手

 アリシアとシンが襲撃した少し後




「CIAが私に何の用かしら?」




 天音は司令室の中で電話を受けた。

 相手はCIAの諜報員だ。

 男は飄々としてニカニと微笑みを崩さず、天音に向かい合う。




「実はですね。我々がアフリカ圏のテロリストを調査していました。すると、面白い情報を得まして」




 男は回りくどく過程から説明してきた。

 天音は「さっさとしゃべれ!」と言う焦燥感に駆られるが我慢する。

 この男は電話越しに肩をにょろにょろ動かすような割と無礼な男だ。

 こんな男に時間使いたいと思う程天音は寛容ではない。

 これが仕事でないなら、突き飛ばしている。


 この時代のCIAは旧アメリカの諜報機関をそのまま統合政府に編入。

 名前もそのまま残し色んな人員を混ぜながら、現在の型となった。

 本来はアメリカ国外でテロや各国の内情、政府の動向等を知る為の組織であった。

 統合政府後は敵対的なテロ活動の調査と監視を主な任務としている。




「面白い情報?」


「我々がマークしていたサレムの騎士の一派が一晩で壊滅しました。戦力で言えば300近いAPの部隊が一晩です」


「それで?」


「そこでコードブルーと思わしき機体を2機目撃したと報告があるんです」


「2機……ね」


「その2機により部隊は全滅。その内の1機はコードブルーと思われます」


「それがどうしたの?テロリストを殲滅してはいけないかしら?」


「我々が預かり知らぬ所で作戦を展開する事もあるでしょう。それに敵はニジェールに攻撃を仕掛けようとしていましたから咎める気はありません」


「じゃ、何が言いたいの?」




 不機嫌な気持ちを抑え込んでいたが、ここまで焦らされると顔と声から怒りが零れる。




「我々の任務には技術的な情報を収集する任務も帯びています」




 天音は頭に疑問符が浮かぶ。





(何が言っているの?)





 ネクシルはスペックこそ高いが、統合軍もそれに準ずる物なら作れるはずだ。

 特出すべきはジェットステップくらいだが、アレは技術よりもパイロットの技量の問題だ。




「悪いけど何が言いたいのかさっぱりね。結論を言いなさい!結論を!」




 天音は半ギレした。

 まるで質の悪い言葉遊びに付き合わされている様だ。




「ほう?コードブルーはあなたの直属部隊と聴きますが、それでもあの事を知らないと?聡明なあなたなら分かるはずでしょう?」


「アンタ、仕事しに来たの?わたしに喧嘩売りに来たの?」




 CIAは彼女の素ぶりから本当に知らないのではと思い始めた。

 しかも、かなり本気で怒っている。

 ものすごい形相で睨みつける。




「喧嘩売りに来たなら、ここまでね。さようなら」




 天音は電話を切ろうとした。

 CIAの男の顔色を変えて「待って下さい!」と制しした。




「仕事なら結論から言いなさい。わたしも暇じゃないの」




 男は態度を改めて電話に向かい直す。

 流石にヘラヘラ笑う余裕はなくなったが方のニョロニョロした動きが消えない。




「では、申し上げます。御刀司令。直ちに永続飛行技術を渡して頂きたい」


「……はぁ?永続飛行?」




 何の事か分からず、思わず素っ気なく答える。




「貴方は何も知らないのですか?」


「機密に当たるから言えない事もあるけどコードブルーに関してはある程度自由を与えているのよ。任務の特性上ね。普通の部隊とは違う動きをするから私に情報が来ていない事もあると考えてくれるかしら?」


「なるほど、機密では仕方ない。では貴方は永続飛行について何も知らないと……」


「初耳ね。あの子何をしたのかしら?」


「戦闘中に人型での飛行並びに3次元機動を取り敵を殲滅しています。映像からして完全に宙を飛んでいます。我々はその永続飛行技術を欲しています」


「成る程ね。あの子、そんなのまで……流石と言うべきかしら……」




 天音は途端に微笑んだ。

 まるで愉快な事でも聞いたかの様にさっきと打って変わって嬉しそうだ。




「司令。コードブルーが機密である以上詮索はしません。ですが、技術だけは何とか頂けませんか?」


「確約は出来ない。私の開発計画の一環で彼女には命令の拒否権がある。彼女が渡さないと言ったら残念だけど協力出来ない。でも、聴くだけは聴いてみるわ」


「分かりました。それとこれは個人的なのですが……」


「何かしら?喧嘩を買ってほしいの?」


「いえいえ、そのような末恐ろしい事は申しません。ただ、あの子と言う代名詞を用いる程コードブルーは若いのですか?」


「期待のホープとでも言いましょう。プロフィールはまぁ……貴方のボスにでも教えて貰えば良いわ。閲覧可能なはずだから」




 その会話はそれで終わった。

 それが後々、面倒ごとになるとは知らずに……。





 ◇◇◇




「どうだ?」


「周囲には人はいないよ」




 アリシアとシンは機体から降りていた。

 索敵していたアリシアが戻ってきた。

 洞窟基地は全滅した。

 撤退したサレムの騎士も居たがほぼ全滅と言っていい。




「この子達どうするの?」




 アリシアは下に目線を落とした。

 そこには怯える様に此方を見つめる子供達がいた。

 何でここに居るのかおおよそ見当はつく。

 周辺の村などから攫われ、薬か何かで兵士として徴用されるところだったのだろう。

 幸いと言うべきか薬漬けに成る前に助け出せたのは行幸だ。

 問題はその後だ。




「どうするか……」


「元の場所に帰す?」


「いや、それだとまた誘拐される可能性がある。それはダメだ。それに帰る場所が残っているとも限らない」


「じゃあ、ニジェール地区の政府と第2連隊に保護して貰う?」


「コイツらに戸籍があればそれも可能だ。だが、見たところ現地民族の村とか難民とかだと戸籍が無い可能性がある。それでどんな目にあうか想像出来るだろう」

 



 合法ではないが、政府は戸籍のない難民などを徴兵の対象にする。

 彼等には戸籍がない場合、徴兵されるのが落ちだ。

 それはアリシアがよく分かっている。

 今の政府に人道を求めたところで無駄に等しいのはよく分かっている。


 すると、何かの音がした。

 シンとアリシアは咄嗟に銃を引き抜いた。

 そこには子供の1人がガタガタと震えながら、此方に銃を向けていた。

 その目はシンを凝視していた。

 シンは分かった。

 彼はシンを恐れている。


 無理矢理連れて来られ、仲間を目の前で大人に殺された。

 そこに怪異的な力で制圧した彼の存在が怖いのだ。

 シン達が自分達に何かしてくるのではないか?彼等はそんな目で見つめる。


 シンは困惑する。

 そんなつもりはないのだ。

 ただ、自分を振り返るとあんな殺気立った瞳で目の前で殺せば、そんな感情を抱く。

 それは分かる。

 だが、シンには何とも言い難い感情が渦巻く。




「違うんだ、俺は……」




 必死に取り繕うとした。

 そこにアリシアが割って入った。

 彼女は銃にセイフティをかけ銃を持つ少女に投げた。

 少女はその行動が思いがけないのか引き攣った顔が一瞬緩む。


 だが、我に返り引き締め直す。

 アリシアは特に向けられた銃口を恐れる素ぶりも見せず、ゆっくりと少女との間を縮める。


 少女は不気味だった。

 彼女はまるで此方を恐れず向かって来る。

 緩やかな大らかな微笑みでゆっくりと淡々と此方に迫るのだ。

 自然と引き金が引けなかった。

 だが、何も出来ないと言う心が彼女に引き金を引かせた。


 1発の弾丸がアリシアの腹部に当たった。

 頭を狙ったつもりだった。

 だが、45口径を正しく持てない少女の狙いはブレた。

 しかし、至近だった事もあり、アリシアの腹部からは血が流れた。

 アリシアは一瞬硬直する。


 でも、歩みを止めず、微笑んだままゆっくりと少女に歩み寄る。

 痛みすら顔に浮かべず此方に敵意も向けず、何事も無かったかのように歩み寄る。

 腹部からは血が流れている。


 ダイレクトスーツが徐々に収縮し止血しているが、血はポタポタと流れていた。

 シンは手当をしようと割って入ろうとした。

 アリシアは手で無言の制止をかけた。

 その場に立ち止まり、右手首に付いているダイレクトスーツの開閉ボタンを押した。

 ダイレクトスーツを外し始めた。

 手慣れた様子でバックデバイスと固定しているネックパーツを外し緩んだスーツを立ちながら脱ぎ始めた。


 当然、下に下着などは無い。

 脱げば止血している傷を塞ぐものは無くなる。

 それでも彼女は脱いだ。

 最後には素肌の彼女がそこにいた。

 引き締まった肉体を露わに傷口からは更に血が出ている。


 人間において素肌を晒す事は無防備な姿を現している。

 無防備という事は外敵から守ると言う優位性が心理的に無くなる事から人間は本能としてそれを嫌う。

 逆に言えば、自分はいつ狩られても良いと言っている様なものだ。

 それが相手への警戒心を無くす。


 アリシアはあくまで少女を基準に狩られる役に準じた。

 そして、再び少女に歩み寄る。

 血はその間も流れ続け皮膚を伝い、ポタポタと局部の辺りから落ちていく。

 少女の中からは最初に在った恐怖心は消え、銃を力無く持って、ただ呆然と眺めていた。


 自分がアリシアに何をしたのかその事実に怯えを抱き始めた。

 彼女の顔は徐々に歪に成る。

 それを堪えてはいるが、今にも崩れそうだった。


 丁度そこにアリシアは少女の前に立ちゆっくりと腰を下ろし一回目線を合わせて微笑んだ。

 まるで全てを赦してくれる様な……受け入れてくれる様な慈悲深い瞳で少女を見つめゆっくりと胸元で抱きしめる。

 そして、ただ一言。




「大丈夫……大丈夫だから、ね」




 そう言いながら背中は優しく摩る。

 その様子を見た他の子達も不安から解放されたい様にアリシアも元に集まり彼女を抱き締める。

 彼女はただそれを受け止める。

 慌てていたシンは何処か落ち着く様に笑みが零れる。




(あぁ言う包容力、母性は俺にはないな……なんか、羨ましいな、憧れすらするかもしれない。それよりも早く止血しないとな)





 心ではこの和やかな雰囲気を眺めていたとも思えた。

 自分の荒んだ心が癒されるようだった。

 だが、その余韻を崩す様にシンは後ろからの気配を感じた。

 後ろに振り返り銃を構えた。




「アリシア、誰かが来る。お前はその子達を連れて下がれ」




 アリシアは「分かった」と返答し地面に落ちたダイレクトスーツ一式と銃を拾った。

 子供達はアリシアに安心感を覚えた様で恐れる事はなく彼女の後に着いて行く。

 シンはそれを見送ると前を見た。




(足音は1。足音からして体重は50〜60kg。足取りからしてライフルを構えている。なら、拳銃の間合いに入れれば先手が取れる)




 シンはそう考え気配を殺しながら物陰に隠れた。

 敵の足取りは変わらない事から恐らく此方には気づいていない。

 このまま物陰に隠れ通り過ぎた所を捕縛する。

 それが段取りだ。

 足音は此方にゆっくりと迫る。




「コツコツ」と立てながら徐々に迫ってきた。

 シンは物陰に息を潜めた。

 そして、相手の前髪が見えた。

「良し」内心そう決心した。


 だが、その時彼の背後でネズミが動いた。

 ネズミの所為で彼の真後にあったバケツが落ちた。

 敵はその音に反応し此方を向いた。

 シンは咄嗟に判断した。

 相手より速く拳銃を突き付けた。




「動くな!両手を後ろにくめ……」




 彼の顔色が見る見る変わった。




「あの……貴方はここの方かしら?」




 女は話かけてきた。


 この女は何をしに来た?

 決まっている。

 サレムの騎士との紛争を終わらせに来たのだ。


 忘れもしない。


 この顔は何千回も見てきた。

 何千回も会った。

 だから、忘れない。


 シンの復讐の敵。

 レベット アシリータ




「レベットォォォォォォォォォォ!!」




 彼は怒りに任せて引き金を引いた。

 レベットは反射的にそれを避けた。

 避けたレベットをシンは執拗に狙い撃つ。

 だが、レベットは直ぐに物陰に隠れた。

 並みの平和指導者なら回避すら出来なかっただろう。


 だが、レベット アシリータは歩兵として5年軍役も積んでいる。

 それは決して肩書だけではない。

 歩兵としての能力は決して低くない。

 自分を守るくらいの事はやってのける。

 それはシンが一番分かっていた。




「やめなさい。私は貴方と戦いに来たのでは!」




 彼女を脅す様にシンは彼女のいる物陰の角に発砲した。




「黙れ!」


「お願い話を聴いて!何か誤解があるかも知れない。話し合えば戦わずに!」


「黙れよ!この偽善者!!」




 レベットはその言葉に硬直した。

 ここまで殺気を込めて自分を偽善者呼ばわりしたのは全く経験した事がないからだ。




「お前の目的など分かっている。此処にいたサレムの騎士と停戦協定を結びに来た。ペイント支部に雇用を設け治安維持と景気需要を上げる。安定した生活を彼らに与え戦いを終わらせる事だ。違うか?!」


「えぇ。その通りよ」


「だとしたら、お前はやはり只の偽善者だ」


「一体どういう事です⁉私が偽善者って?もっと詳しく教え……」


「甘えるな!そんな事は自分で考えろ!何度も教えて貰えると思っているのか!何度言ってもそれでも聴かなかったのはお前だろう!」




 彼は溜めていた怒りを解き放つ。

 彼は何度も伝え、何度も聴かせた。

 だが、それを受け入れず反省もせず、悪害を振りまく彼女に辟易としている反面、憐れみと怒りを滾らせる。




「何度も……言った?アナタ、わたしと何処かで?」


「お前はいつもそうだ!テロで両親を失った。だから、テロを根絶する為に自分は生きていくて……」




 レベットはその言葉に驚嘆し息が詰まった。




(何でその事を……わたしはその話をした事はないはずなのに……)




 そんなレベットの疑問を余所にシンは怒りをぶちまける。




「その為に戦いと言うモノを理解する為に軍に入った。そう言っていたな。そして、学んだ事を活かしてテロの止め方を考えた」




(なんなの彼は……どうしてそんな事まで……)



 ますます、分からない。

 疑問の山が更に積み重なっていく。

 その山の重さがシンの言葉に雄弁さを与え、レベットは反論するような言葉が出なくなった。

 何故なら、彼が語る自分は自分が知っている、自分しか知らない自分そのものであり、そんな自分を捉え、その上で自分をしっかり見て意見を述べているように思えたからだ。




「お前は差し詰め人は平和を望む生き物だとでも思っているだろう。だから、平和な生活を得た人間はテロを再発しない。そう思ってるんだろう。だから、俺の言い分を拒み、あまつさえ、理解しようとしなかった!だから、お前に言葉を尽くしても無駄だから俺はお前に武力を突きつけているんだよ!それが答えだ!」




 彼の言い分にレベットは何かのビジョンを見た。

 誰かと話している。

 自分ではない自分が誰かと口論をしている。

 だが、そんな経験はない。

 なのに、経験がある。


 そんな不思議な感覚に心が揺れる。

 それよりもこの彼から発せされ言葉1つ1つに殺意が籠っている。

 自分に対する圧倒的な殺意……世界を殺してもあまりあるのではないか?と思わせる程の殺意を向けられている。


 自分は彼に何をしたのか?

 まるで自覚が無い。

 だが、彼は自分を知っている。

 単純に知っているのでは無い。

 少なくとも知己の関係にないと知り得ない事まで知っている関係だ。

 彼はレベットに言葉を尽くした。

 でも、自分が理解しなかった。

 だから、武力で殲滅すると言っているのはレベットにも理解出来た。




(つまり、彼からすればこの戦いを望んだのは私と言う事になる……いや、今は考えちゃダメ何とか逃げないと殺される)




 レベットは気持ちを切り替えた。

 疑問は尽きないが手を打たないと殺される。

 まだ、死ぬわけにはいかないのだ。

 レベットは手持ちの笛を吹いた。

 だが、笛からは音はしない。


 シンもそれには気づいていない。

 彼は徐々に距離を詰め始めた。

 足音が確実にこっちに迫る。

 この際、反撃をしないとやられる。


 だが、拳銃を出して反撃しようにもその瞬間に彼の銃が火を噴く。

 此方に反撃の隙すら与えない。

 寧ろ、反撃する前から迎撃されている。




(なんて勘してるの……あの人、強い)




 明らかに彼と遣り合っても勝てる見込みはない。

 さっきもそうだ。

 物音がなければ、先手を取られていたのは自分だ。

 そうなれば、彼は自分を捕縛しレベット アシリータと分かった瞬間に何も出来ない自分の頭を撃たれただろう。


 着々と彼は歩んで来る。

 彼はマガジンが切れた様でマガジンを落とす音が聞こえた。

 レベットとチャンスと考え拳銃を物陰から突き出した。

 だが「バン」と言う発砲音が鳴り響きレベットの銃は弾かれ後方に舞った。




(ハメめられた)




 彼は右手でマガジンを俳協しながら左手で新たな銃を抜き、レベットが罠にハマるのを待っていた。

 彼はレベットよりは1枚あるいは2枚上手だった。

 レベットはすぐに物陰に隠れるが、もう後は無かった。

 アレには気づかれている可能性もある。

 それを封じられたら確実に死ぬ。




(此処までかしら……)




 レベットは死を覚悟した。

 だが、その時遠方から砲撃が在った。

 それはシンに向けられ発砲された同時にそれに気づいたシンは離脱した。




「レベット。大丈夫か?」




 外に待機させていた仲間が迎えに来た。




「助かったわ。ありがとう」


「何、褒めるならコイツを誉めな」




 そこには1匹の犬がおり、人懐こくレベットに歩み寄りすり寄る。




「そうね。ありがとう」




 レベットは犬を撫でた。

 犬は嬉しそうに尻尾を振る。

 あの笛は犬笛。

 犬にしか聞こえない音を出しレベットは仲間に危険を知らせたのだ。

 犬は犬笛を聞いたら吠える様に訓練されている。


 有効範囲内なら敵に悟られずに救援を呼べるのでかなり便利だ。

 電子機器ではないので盗聴されるリスクが低いのが利点だ。

 特にレベットの様な人間の場合、交渉の席で殺される場合もある。

 その場合、電子機器のジャミングも考えられる。

 なので、護衛の仲間と犬は出来る限り近くに連れて行き、有事の際に犬笛を吹くと言う対処マニュアルは用意していた。




「敵はあの男だけか?」


「その様ね。他は見ていないわ」


「此処に来るまでにAPの残骸があった。あの男が関係しているのか?」


「分からないわ。ただ、並みの兵士じゃないわ。あの人」


「そうだな。こっちの発砲と同時に離脱していた。当てる気は無かったがアレは当たらないな。凄い直感力と言うべきか……」


「おーいちょっと来てくれ!」




 別の仲間が何かを見つけたように呼んだ。




「どうした?」


「此処に足跡と血痕がある」


「本当だ。量からして負傷程度だな。それとこれは子供の足跡か?たくさんあるな」


「もしかして、あの彼は誘拐された子供を逃がす為に……」


「だとしたらこれは仲間の血か?お前を敵と思ったと言うことか?」


「彼は私を知っていた。しかも、私怨を持って私に敵対していたわ」


「つまり、お前がどんな人間か知っていて尚且つ子供達に危害が及ぶと判断した。そう言う事か?」


「だけど、可笑しくないか?レベットさんは平和主義者で少なくとも子供に危害は加えないですよ」




 数々の謎が残る結果となった。

 だが、この件は自分が無視をしていい案件ではないとレベットは直感しある決心を固めた。




「少しお願いがあります」


「なんだ?」


「あなた方のツテで仲間内でも何でも良いです。彼の事を探してくれませんか?僅かな情報でも構いません」


「写真はあるのか?」


「何とかCPCに撮りました」


「もし、あのAPの残骸を作る程の奴なら腕立て筈だ。顔が分かればすぐに見つかると思うぞ」


「よろしくお願いします」



 彼女は専属雇用している傭兵に新たな仕事を頼んだ。




(これで彼の事が少しでも分かればいいのだけれど……でも、なんだろうこの罪悪感?わたしは悪い事をしたつもりなんてないのに彼を思い出すと何かとんでもない事をした様な気がする)





 彼女の心の中には体の中に石が入り込んだ様なもどかしい気持ちが疼く。

 彼は何者で自分にとってなんなのか気になる。

 だが、その答えを知るのは彼しかいない。

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