暴動.2

 振り返ると暴動を起こした人間たちの通った後は、血まみれで倒れた人で溢れていた。その大半は、この女のように使用人らしき格好をした者ばかりで、衛兵らしき者の姿は片手で数えれるほどしかなかった。暴動の雄叫びは宮殿の奥へと進んで行ったようだ。奥から叫び声や金切り声がひっきりなしに響いてくる。スフィヤは大急ぎで声のする方へと向かった。


 スフィヤは行く先々で見かける戦闘で、武装していない人間が襲われているのを見たら迷うことなく飛び込んで助けに行った。巻き添えでスフィヤの体が暴徒の手で傷つけられ、体に生傷が増えてゆくが、それ以上に心が痛くなった。なぜこんなことになっているのか。自分が発端となった宮殿の崩壊の始まりに便乗し、王の首を獲れと叫んでいたはずの町人たちが、衛兵ではなく、同じような立場の使用人までを積極的に襲っているのか。スフィヤは理解ができなかった。


 何人かを助けられたか、助けられなかったか、数える暇もないくらいの数の暴徒たちと向き合いつつ、宮殿の奥に向かう。そしてスフィヤは謁見室の前までたどり着いた。そこで見たのは、最初に王の首を獲れと叫んでいた男が、屈強な衛兵たちに完膚なきまで叩きのめされている姿であった。


「やめろよ……そいつもう、動いていないじゃないか」

小さな声で呟いた言葉は、騒乱にかき消されて誰にも届かなかった。

「やめろよ……やめろって言ってるだろう」

大声で怒鳴って初めて、衛兵たちが手を止めてスフィヤの方へと顔を向ける。

「なんだ。騒ぎに紛れて脱走したのか。諦めろ。暴徒どもはほぼ鎮圧された。お前もすぐに牢に戻ってもらう」

衛兵は落ち着いた素振りで、暴動の先頭に立っていた男を床に叩き落として告げた。宮殿の床に倒れた男の体はピクリとも動いていなかった。スフィヤは何も言わずに逃げ出した。衛兵たちが追ってくる。振り切ることは簡単だったが、それ以上にとんでもないことをしてしまったという焦燥が、若者をひたすらに責め立てていた。

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