乾いた王国.1


 入国管理に行列があり、見た目は要塞とも取れる都市は、入ってみると、そこが1つの王国であった。やはりティファンの予想した通りである。隔絶された空間に身を寄せた国は歪な形をしており、建物同士が押し合いへし合いしているようで、あり得ない方向に伸びていった十数階建ての掘立小屋の塔が幾つも目に入る。入口からすぐに目抜き通りに繋がっておらず、細い路地のような場所を通って、やっと街の中心部にたどり着く。これはまともな都市計画に基づいて造られた街ではない証拠だ。ティファンは心の中でため息をついた。


 一方でスフィヤは興奮した様子で、あんなものは見たことがない、これは何だろうとティファンに質問責めをしてくる。

 見たことがなくて当たり前だ。こういう場所は避け続けていたから。

 でもまあ、18にもなった息子には、ちょうどいい社会経験になるかもしれない。少しショッキングかもしれないが、旅の最後の方で、こんな場所に巡り合ったのも、また天命であろう。ティファンは少しずつスフィヤに声を潜めて説明してやった。


「あれは集合住宅だろう。後付けで無理やり上に足していったから、あんな形をしているけどね」

「父さん、なんで声を潜めてるの」

「覚えておきなさい。こういうことを話す時、周りにいる人がそこに住人かもしれない。気を悪くして、絡まれたりしたら面倒だからな」

「そっか……そんなこと考えたことなかった。わかった」


「道の大小がめちゃくちゃなのも、多分計画を立てずに、必要に応じて足していったからだ。街の中心部から、街の出入り口まで大きな道がないのは荷物の運搬の面で見ても不便でしかないだろうから、不自然なことだしね。それにこの規模の街なのに、出入り口が1つしか見当たらなかった。何か理由がある可能性がある」

「理由?」


「自分でも考えてみなさい」

「えーと……何かから守っているとか」

「それも可能性の1つだ。けれどその割には入国管理の審査は簡易だったと思わないかい」

「たしかに……名前と目的を聞かれただけだ。それも旅人で、中を見たいからなんて理由でもすんなり通れた……」

「そう。外から来るものに脅かされている場所なら、それは考えられない」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る