最強ゴーレムに乗ったスライム ~ゴーレムはガチでロボットだった~

喰寝丸太

第1章 ハロー異世界

第1話 スライムに転生

『しみわたるぅ。気持ち良いぞー』


 心の叫びは声にならない。


 俺は手足を伸ばした。

 あれ、手が無い、足も無い、頭も無い、何もかもが無い。

 俺はどうなっているんだ。

 現状は土砂降りの雨の中。

 目が無いのに雨粒が分かる。

 足が無いのに移動できる。

 うん、スライムだな。

 どこからどうみてもスライム。

 他の言葉が見つからない。


 なんでスライムになっちゃったんだ。

 傍らに俺の体の何百倍もある卵が鎮座している。

 食えと本能が訴える。

 これ食えるのかな。

 体を目一杯広げて消化しようと頑張るが。

 硬ぇなおい。

 異物感しかない。

 石と一緒で体が食えない物と判断したようだ。

 吐き出すよう欲求が起こる。


 しょうがない近くの草でも食っておくか。

 草を包み込み消化する。

 身体に幾分か力が戻るのが分かる。

 草を食いながら進むか。

 これが本当の道草食う。


 何時しか土砂降りの雨は止んでいて、木漏れ日が地面を照らしていた。

 さてとどうするかな。

 人間がいたとして人間と暮らせるのか。

 駄目だな。

 駆除される未来しか思い浮かばない。

 俺は自分が雑魚なんだろうなと思いながら宛てもなく森をうろついた。


 狼が居て俺を見ると一瞥して去って行く。

 良かった肉食獣に捕食される存在ではないようだ。

 俺ってスライムになる前は何をしてたっけ。

 駄目だ思い出せない。

 無理に思い出そうとすると核が痛い。

 スライムの核って脳みそなんだな。


 おぼろげにサラリーマンだった気がする。

 事務職だったような。

 まあ良いや。

 スライムには関係ない。


 狼が居た所に残骸らしき物があった。

 スライムの体が食欲を訴える。

 残骸を食ったが体の体積が少し増える以外に変わった所はない。

 スキルを獲得とかそんな都合の良い展開は無いみたいだ。


 これからやれる事は決まっている。

 喰うだけだ。

 睡眠の欲求もないので、寝る事もできなそうだ。

 詰まらんな。

 本当に詰まらん。

 いっそのこと何もしないってのはどうだ。




 俺はぼーっと何日も佇んだ。

 いつしか眠りに入っていた。

 はっと起きると雨に打たれている。

 目覚めた日を思い出した。

 スライムは水分がなくなると活動停止になるのだな。

 雨が降ると復活するという事か。

 こういう事を考えられるという事は俺はそこいらスライムとは違うのではないか。

 いうなればスーパースライム。

 いや究極の名前アルティメットを冠してもいいぐらいだ。


 目標を持とう。

 可能な限り長く生きてやる。

 スライムの寿命がどれぐらいかは分からないが、死ぬ時まで足掻こう。

 よし身体の体積を増やすぞ。

 なんでも食ってやる。


 手始めは樹に登り葉っぱを食いながら大きくなる。

 樹に登ると以外と虫が多いのに気づく。

 中には2メートルを越えている虫も居る。

 味や食感があるなら食わなかったかもしれないが、スライムにはそんな物は無い。

 虫を包み込み消化してやった。

 樹の上で生活すること何日か。

 虫と葉っぱは粗方食い尽くした。

 次の樹に移り同じ事をする。


 俺は一つ樹をむさぼったら離れた所でむさぼる事にしている。

 森全体が枯れたら生態系に影響がでるだろう。

 俺は環境にやさしい男だ。


 何年こんな生活をしただろうか、身体の大きさは何百倍にもなり、核も成長したようだ。

 それに伴って頭が少し良くなったようだ。

 前世の記憶をいくらか思い出せた。




 そして、大事件があった。

 人間が雑談しながら樹の下を通り過ぎる。


「なあ、樹が丸坊主になっているのがあるらしいぞ」

「魔獣の仕業じゃないか」

「そうかな、新種の情報はなさそうなんだが」


 行ってしまう。

 ああ、行ってしまったな。

 なぜだか言葉が分かる。

 大きくなって賢くなったからだろうか。

 今度人間にあったら、思い切って姿を見せてみよう。


 俺は人間を探して森をうろついた。

 野営している男達を見つけた。

 話し掛けたいが、スライムは声を出せない。

 身振り手振りこれしかないか。


 俺は思い切って焚き火の前に這い出た。


「ひっ、化け物」


 俺は身体で触手を作りゆらゆらと揺らした。


「ヒラニシ・モチニミュヒラニショ・ガ・

ハニスイろコチリリろカイトカュョレ・む」


 男の一人が意味の分からない言葉を紡ぐ。

 でも何となく意味が分かるどういう事。


 火の玉が現れ俺に向かって飛んで来た。

 火の玉は俺の身体に当たり水蒸気を上げた。

 身体が熱さを感じ取り悲鳴を上げる代わりに身体を震わせる。


「効いているぞ。何度でも繰り返すんだ」


 俺はたまらないと逃げ出した。

 男達は追いかけては来ないみたいだ。


 さっきのは魔法なんだろうな。


 やばい、夢が広がる。

 喋る事や人間になる事が魔法でできるかもしれない。

 それには人間から魔法を学ばないといけない。

 そうするには声が絶対に必要だ。

 声を得るには魔法が必要だ。

 これじゃ堂々巡りだな。

 困った。

 それに俺は足が速くない。

 今日は男達が追いかけてこなかったから良かったが、追撃されたらどうなったか分からない。

 足が要る。

 どこかに足が落ちてないものだろうか。


 しばらく樹上でのんびりと考え事をしていたら、人間が大挙して押しかけてきた。


「スライムの怪物が居るんだって。普通のスライムの何百倍の大きさらしいよ」


 俺の事だ。


「火の魔法に弱いらしいから楽勝さ」


 やばい弱点もばれている。


 俺は樹の枝を伝って包囲網を抜け出すと森の奥へ奥へと進んだ。

 何日も進んだ人類未踏の地になぜか遺跡がぽつんと在った。


 魔法の資料が何かあるかも。

 存在しない胸を期待に膨らませ、遺跡の隙間から中に入る。

 中には4メートルほどの人型のロボットが置かれていた。

 ロボットの土台には65816式ゴーレムと書かれたプレートが貼ってあった。

 なぜか習ったことのない文字が読める。

 好都合だから気にしない。

 ゴーレム、動かないかな。


 机があり引き出しを漁ると『ウィザードのC言語プログラム入門』という本が出てきた。

 なんとタイトルは驚く事に日本語で書いてある。

 急いでページをめくる。

 転生者諸君、転生おめでとうと日本語で書いてある。


 続きにはこうある。

 この世界の魔法はプログラムチックだ。

 君もプログラムを習い一流の魔法使いになろう。

 ゴーレムには呪文翻訳機能を持たせてある。

 コアに手を触れプログラムを入力してくれ。

 魔法語への翻訳も魔法の実行も思いのままさ。


 ゴーレムは未完成らしく。

 隙間というか穴や収納スペースが幾つもある。

 背中の収納スペースは大きくて俺がすっぽり入る大きさだ。

 俺は隙間からゴーレムの中心にあるオーブに身体を触れさせた。

 これがコアなのだろう。


「魔力が注入されました。起動できます。プログラムをどうぞ」


 プログラムって俺にも可能だろうか。

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