第8話 学校一の美少女と読書友達になった
「これ、返す。めっちゃ面白かった」
翌日の放課後、借りていた本を持って図書館を訪れていた。
結局、本のあまりの面白さに寝るのを忘れ、夜遅くまで起きてしまった。
今は多少眠気こそあるが、それでもまだ本を読み終えた興奮で、目は冴え冴えとしている。
声をかけると、斎藤はゆっくりと顔を上げこちらを見てきた。
ぱっちりとした大きな瞳が驚いたように大きく見開かれる。
「ちょっと、どうしたんですか?凄い隈ですよ?」
あまり鏡で確認してこなかったが、よほど顔色が悪いらしい。
どこか心配そうにして憂わしげな表情でこっちを見つめてくる。
「ああ、貸してもらった本があまりに面白くてな。夜遅くまで読んでいたんだ」
「……なるほど、楽しんでもらえたのは嬉しいですが、体には気をつけて下さいね?」
「……分かった」
お節介だとは思いつつも、心配そうに眉をひそめる斎藤の表情を見ると反論する気は失せ、素直に従うしかなかった。
「あ、本、返して下さってありがとうございます」
渡された本を受け取った斎藤はぺこりと頭を下げて礼をしてきた。
「いや、礼はこっちのセリフな。まあ、ありがとな。じゃあ」
本当のところならもう少し感想を語り合いたかったが、彼女は自分の本を読んでいたし、大して親しくもない俺と話していても退屈なだけだろうと思い、さっさと離れようとする。
「あ、待ってください」
だが、袖をちょこんと摘ままれ引き止められた。
「どうした?」
「実はあの本はシリーズ化していまして、第二巻があるんです。よかったら……」
おずおずと鞄から返した本と似たような見た目の本を取り出して、差し出してきた。
「そんなのあったのか。借りたいけど、そう何度も借りるのは……」
2日連続で人のものを借りるのはどうなんだろうか。
それに、学校一の美少女と物の貸し借りを出来るような関係なんてのを他の人に見られたら大変なことになりそうだ。もちろん、俺の学校生活が、という意味で。
もちろん、俺みたいな隠キャのことなど彼女は気にも止めていないだろうが、それでもこういった関わりを持つのはやっぱり少し躊躇われる。
「私は既に読み終えていますので、私の家にあっても埃をかぶるだけですから、読んでくれる人がいたほうが本にとっても幸せなはずです」
「……そういうことなら、ありがたく借りるけどさ。こんな風に優しくされたら、相手が好意を持たれてるんじゃないかって勘違いするかもしれないぞ?」
「するんですか?」
「いや、しないけど」
何を言ってるんですか、といった感じの冷たい目線を向けられれば勘違い出来るはずもない。
そもそも、こんな学校一の美少女が何の取り柄もないクラスでも影の薄い俺のような男に好意を向けるなんて想像できなかった。
隠キャな主人公がカースト上位の女の子と関わり始め付き合うようになる、そんな展開が小説ではありふれているが、そんなこと現実で起こるはずがない。
彼女が俺に向けている認識は、せいぜい良くて共通の趣味友達程度だろう。もしかしたら顔見知りかもしれない。
「じゃあ、別にいいでしょう。ちなみに、その本のシリーズは当分あるので、その本が読み終わったらまたお貸ししますね」
「そうか、ありがとう」
用件は終わりとばかりに本を読み始めたので、彼女と別れ、俺はバイトへと向かった。
バイトを終え自宅に戻ると早速借りた本を開いて読み始める。
「やっぱり、面白いな」
よくあるシリーズもので1巻は面白いが2巻はつまらないということが多々あるが、そんなことはなくむしろ1巻以上に面白く、ページをめくる手が止まらない。
今日もぐっすりとは寝れなさそうだった。
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