【ネタバレ】寄河景の謎に迫る
私は、景のキャラクターが変わっていくのはは3つの段階があると考える。
1段階は、最初から高校生になりブルーモルフォを作るまで。この頃の景はまだ純粋な方だったのだと思う。
2人の物語は小5から始まる。
景は小さい子の凧をとってあげようとして怪我を負う。見ていた望は景を助けられなかった罪悪感が残る。同時に「宮嶺は私のヒーロー」と
ヒーロー契約が結ばれる。
後述の、「凧を隠したのは私」との告白で、この一連の流れは景のシナリオによるものだった事が証明される。
しかしこの目的は。その後の殺人などには全く関係ないつもりだったと思う。景は、宮嶺が好きだった。
ずっと一緒にいるために、どうすればいいか頭の良い景なら簡単に思いついた事だろう。
校外学習の時、宮嶺が自分を見ていることに気づいた景は、一連の演技をみせつける。
怪我を負う。宮嶺に罪悪感とヒーロー契約で、大好きな宮嶺をモノにする。
でもそれだけじゃ、釣り合わない。私がしてもらうだけじゃ、いずれフラれてしまうかもしれない。そこで景は、自分も宮嶺の救世主ヒロインになろうとする。自分でいじめを首謀して、自分で助けるという自演。エゴイズムにしてはまだかわいいものだ。
手始めに景は、宮嶺の消しゴムを盗む。(エピローグの最後で明かされる)
そこから、根津原に指示して宮嶺をいじめに遭わせる。
今まで景はうまくクラスメイトを流し、うまく治めてきた。
しかし根津原への支配に関してはコントロールが効かなくなってしまう。根津原は景が好きだから、従っていた。しかし根津原は、自分は景と宮嶺の恋物語のために利用されていることに気づき、2人ともを恨むようになる。いじめは景のコントロールの域を越え、エスカレートする。
大好きな宮嶺が弱っていくのを見かねた景は、それを好機に変える。根津原あきら殺害を図らい、宮嶺を救うヒロインになることで宮嶺に恩を売る。これだけのことをすれば、きっと宮嶺はこれからもずっと私のそばにいてくれる。
同時にコントロールが効かなくなった悪い子も排除できるし。そうすればまた、平和な統治ができる。
裏付けとして、中学校の修学旅行で景が宮嶺に、根津原を殺した告白した後、
「宮嶺だけを助けたわけじゃないよ」と述べている。本当に、根津原に振り回され乱れた学校を、救いたかったという思いもあるのだろう。
一方で宮嶺は、勝手にそれを恩を着るのだが。
この物語中で、景のついた嘘は後で撤回される。地の文では主人公の思い込みも多々あるが、景セリフは(裏の意味はあっても)決して嘘ではない。
ここまでが第1段階。
第2段階は高校生になってから。
おそらくこの頃、景は根津原殺しという自分の犯した罪の重さを思い知る。
このままでは自分は、宮嶺から見ても犯罪者になってしまうのではないか。
そこで頭の良い景は、その正当化をするためにブルーモルフォを始める。最初から「生きる価値のない人は死ぬべき」という理念を貫いているように。
善名事件や自殺防止のスピーチの際にはもう、死について多くを語れるようになっている。まるで人の命を救う力があるかのような景の言葉を、周りのみんなは都合良く解釈し、崇め始める。
宮嶺もその一人。善名の自殺を止めたこと、スピーチで世界をより良くしようとする景に感化される。釣り合わないと思いながらも勝手に景への恋心を抱く。
景の言葉は決して嘘じゃない。でも裏がある。
「壇上に立つ私の言葉で本当に自殺が止められるのかな」
言い換えれば、こうである
「私の言葉ごときに流されて生きる決意をする人は、生きるに値しない」
善名事件はその検証だろう。
善名のことを、特に救ったつもりもなかった。
「今日の私は生きたいって方向に流してみただけ」
死に触れ始めた景は、これでいいのかと思いながらも、死に対する感覚が麻痺していく。
スピーチの後ぐらいから、二人は恋人になる。その愛の証明とやらに、景は宮嶺に、自分がブルーモルフォのマスターであることを告げ、実際に木村民雄の死を目の当たりにさせる。
「お願い、私が間違っているのなら、今ここで宮嶺が止めて」
判断を託したのだろうか。それとも否定されない自信があったのだろうか。どちらでも結末は変わらない。
動揺しながらも宮嶺の出した答えは、
「間違ってない」
この時点でもう、宮嶺は景の“虜”になっていた。何があっても景の見方。ヒーローなんだから。そこから景は、あの時のヒーロー契約を利用して『共犯』という切っても切れない2人の関係を巧妙に取り付けていく。
だいたいこの時期の宮嶺は、冷静2割、景への盲信が8割。これでいいのかという冷静な思考が過ぎっても、景のヒーローでありたい願望には逆らえない。
これこそブルーモルフォだ。
ここからが第3段階。
宮嶺の肯定を得た景はどんどん沼にハマっていく。いよいよヤバい奴になっていく。ブルーモルフォで人を殺める事が、楽しくなってきてしまう。本格的なサイコパスだ。
偽ブルーモルフォの拡大に伴い、景はブルーモルフォを辞められるかもしれない。宮嶺はそう言ったが......。
景は狂ってしまった自分を宮嶺に知られたくなかった。「宮嶺の好きになってくれた私(p.295)」は自殺を止めさせた方の私だから。
ブルーモルフォのマスターでいることにハマってしまったなんて、言えない。
そうして緒野江美の自殺を演出する。親友が死んだから、私はブルーモルフォを責任を持ってやり遂げなければ と言おうとするが、宮嶺その演技は通じなかった。
事の深刻さに気づく宮嶺だが、もう遅い。
正気じゃないと思ってもなお、景のヒーローでありたいために自分ができることは......。
「景は自分がブルーモルフォそのものであるかのように笑った(p.196)」
ブルーモルフォはもはや巷の流行病。嵌ったら抜けられず、広がり続け、日々犠牲者が出る。
宮嶺も景[ブルーモルフォ]に魅了されて、抜け出せなくなってしまう。
「恋に至る病」
そうゆう、お話。
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