策士

「おい阿賀っ。ちょっと着いて来てくれ」



 放課後。突然、担任の教師によって呼び出され、俺は職員室へと赴いていた。


 正直、不安しかない。絶対春香と名取関係の話だろう。


 今日の事件。あれはかなり噂になって広まっているようだ。まぁ教室内であんな大胆な行為をしていたら目立つだろうから当然っちゃ当然なのだが。


 でも一番の問題はそこじゃない。触って来るのももちろん問題だけど、それ以上に大きなものだ。


 学園中に広まっているその噂、なぜか「阿部が工藤さんと名取さんを脅して痴態を働いてる」という風に事実とは異なる内容になっていたのだ。なんでや、俺関係ないやろっ!



「阿部。お前の噂を聞いたよ。お前お昼なにをしていたんだっ?」


「……二人の痴女に息子を触られてました」


「……ったく。あいつらはなにをしているんだ。やるんならもっと人目につかないところでやれよ」


「あ、あいつ……?人目……?」



 一体なんのことだ……?意味が分からない。


 俺が首をかしげると、担任はコホンと一つ咳払いをしてからこう切り出す。



「あの噂、本当に真実か?私にはそう感じなかったのだが」


「ほとんど事実じゃないですよ!俺なんにも脅してませんし」


「だよなっ!お前みたいなヘタレがそんなこと出来るわけないもんなっ」



「安心したぜ~~」と高笑いをしているけど、その言葉、教師が言ってはいけないのでは?ヘタレなのは認めるけどさすが言い過ぎだって。あー心がぁ~~。



「じゃあやっぱりお前は加害者ではなく被害者だってことだな」


「そ、そうですっ!でも誰も信じてくれなくて……先生助けてもらって良いですか?俺一人じゃこの騒ぎ抑えきれないんで……」


「まぁ面倒くせーけど私はお前の担任だからな。分かった、なんとかしてみるよ」


「本当ですかっ!?」


「ただし、それの対価はちゃんと支払ってもらうぞ?」



 担任は俺にビシッと人差し指を向けて――



「明日の土曜日、お前にはプール掃除をして貰う」




 ☆☆☆




『ねぇ、助けておばさんっ!このままだと負けちゃう……!』


『助けておばさん。このままだとマズイっ……』



 今日の昼休みの終わりに送られて来ていた二件のメッセージをもう一度眺めて、私は一人でにプフッと吹き出してしまう。


 ――どうやら、どれだけ仲が悪くても姉妹は姉妹のようだ。


 同じ人を好きになり、同じ思考に至り、同じ戦法で戦う。こんな奇想天外なこと、マンガの世界でしか見たことがない。それに相手があいつなんて……あぁ、実に楽しませてくれる。



「明日の放課後にプール掃除に行け。そこにお目当ての人が待っているから」



 二人にそうメッセージを送信すると、すぐに「ありがと、おばさん大好きっ!」やら「助かった。おばさん愛してる」と返信が来た。ったく、私はまだおばさんと呼ばれる年齢じゃないんだってば。



「……明日は過去一で荒れる日になるだろうな。クックック……」



 私は二人のおば。だからどちらか一方に肩入れするなんてことは絶対しない。対等に手を加えて、対等に戦わせる。そうじゃなきゃ、つまらないだろう?



「――まぁ頑張れよ。春香、真奈」












〈あとがき〉

ご覧いただき、ありがとうございました。どうもしろきです。

ここ二日三日ほど、毎日一話ペース投稿でしたが、明日は久しぶりに二話投稿しようかなと考えております。

時間帯としましては午前十時と午後四時になります。

是非ご覧ください。








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