失態⑥

「あぁ、本当になにを考えてるんだ俺の幼馴染は」



 頭がガンガンする。朝より頭痛が酷くなった。確実に。


 なんでこうなった。


 そんなことを考えながら、靴を履き替えて、教室へと向かう。

 春香はと言えば、靴箱に入って来た時に友達の女子に話しかけられたので、俺は先に行くことにしたのだ。



「おい牧仁、お前彼女出来たって話本当かよ」


「まぁな」


「相手は?」


「二組の佐紀山さんだよ。あんま言いふらすなよ?」


「やっべぇ佐紀山さんかよっ。お前かなりの大物ゲットしたなぁ~。俺も彼女とか欲しい~」



 廊下を歩いていると、喧噪に紛れてそんな色恋沙汰が聞こえて来る。


 正直、凄いうらやましい。


 俺はそこまで交友関係も広くない上に、女子の友達も片手で数えられるくらいだ。その中の女子が春香と名取だが、あいつらはまぁ……ダメだ。


 それに、別に俺はなにか秀でてるものがあるわけでもない。ルックスも普通だし学力も平凡、運動に関しては全然出来ない。

 だから、王道ラブコメみたいに、相手が一目惚してくれて、告白されることなんかに期待出来ない。人生なんてくそくらえ。



「正幸君」



 教室に入って、自席についた時に友人の名取に声をかけられる。



「おはよう」


「ん。おはよ」



 相変わらずの無表情で、ジーッとこちらを見つめて来る。



「ん?」


「いや、その」



 プイッとそっぽを向く名取。まるで小動物みたいだ。


――こんな子可愛い子があんな痴態を晒したんだよな。



「ま、正幸君?」


「ん?どうしたんだ?」


「酷いクマ……。寝れてないの?」



 あなたのせいでな。



「あ、あぁ。ちょっと考えごとしててさ」


「えっとそれは、オ〇ニー?」



 思わず「ブフッ」と吹き出してしまう。きゅ、急にナニ言ってるんだこの子は……。



「だって昨日送った写真、結構えろかったでしょ?」


「う、うん。まぁ結構えろかった――じゃなくてっ!」


「?」


「なんでそんな短絡的な思考してるんだよ!そんな朝会った異性にオ〇ニーした?って聞くのかなり異常だぞっ?」



「そう?」と首をかしげながら問い返してくる名取。ダメだこりゃ。



「もしかして……満足出来なかった?正幸君がオマ〇コの写真の方が良いかなって思ったからそうしたけど、やっぱり胸が良かった?」


「いやどっちも良くねぇーよっ!」


「そっそんな……ごめん、気づいてあげれなくて……」



 パタンと俯く名取。わ、分かってくれたのか……?



「ま、まぁそういうことだから」


「うん。ちゃんと理解した。だから――」




「――これからは生で触らせてあげるから」




 そう言っておもむろに俺の右手を掴んで自分の方に持っていく名取。


 ……えっ待って待って!この子マジでなにしてるんっ!?ってかガチなの?冗談じゃないの?


 手を振り解こうとするが、思いのほか名取の握る強さが強いので、出来なかった。



「じゃあ、ちゃんと味わってね――」



 やばいやばいやばいやばいやばいっ!

 誰か助けて~……!



「名取さん?あなたは一体なにをしようとしているの?」


「はっ春香!」



 友達との会話がとっくに終わっていたのだろう、いつの間にか教室に来ていた春香が名取を静止させる。


 危なかった……このままじゃまた流されるところだった……。



「なにって……ナニ?」


「うん、なんか同じ言葉だけど違う意味ってすぐ分かっちゃったよっ!」


「へぇ~……人の幼馴染の手を使ってナ、ナニをするとは良い根性してるじゃない」



 ゴゴゴゴゴ……と春香の後ろに炎のエフェクトが発生する。ように見えた。



「別に勝手。関係ない」



 フュュュュ……と名取の後ろから冷たい風が吹いて来る。ように感じた。


 いやってかそれ以前に俺の手でするのはオ〇ニーではないのでは?


 そんな疑問を思っていると、教室中にチャイムが鳴り響いた。

 ショートホームルーム開始を知らせるものだ。

 それと同時に、担任の先生が入って来て「座れよ~」と呼びかけをする。



「今日のところは見逃してあげる」


「そっちこそ」



 まさに一触即発状態だったが、どうやら助かったようだ。


 二人はお互いの席に帰って行く。その背中を俺はただボーッと見つめるしか出来なかった。












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