謎のおじいさんと謎の男



目が覚めると何やら白い空間に立っていた。

あたりを見渡してみるが壁のようなものは見えず、ただただ白い空間が広がっているみたい。


「目が覚めたようじゃの」


前に向き直るとさっきまで誰もいなかった空間に、白いひげをこれでもかと伸ばしたおじいさんが立っていた。


「えっと、ここは・・・?」

「ここは神界じゃ、まぁ神様の居そうな所と思っておけばいいじゃろう、わしもその一柱じゃしの」

「はぁ‥‥‥」


話が突拍子もなさ過ぎて少し失礼な態度をとってしまったが、神を名乗るおじいさんは特に気にしていないみたい。


「ここに来る前の記憶は思い出せるかの?」

「ここに来る前……そうだ、たしかライラさんと話してたらいきなり押し倒されて……壁が壁が砕けてなにかが…」

「思い出したようじゃな」


思い出した。だけどあの光が原因でここに来たのだとしたら、私と同じ光を浴びたライラさんもここにいるはずだけど、あたりを見渡してみてもやはりそこには誰もおらず、前に向き直ってもこのおじいさんと同じようにライラさんが現れるということはなかった。


「あのっ!ライラさんは!?私と一緒にいた女の人は今どこにいますか!?」

「大丈夫じゃ落ち着きなさい。おぬしの言っとる者は今、ほかの部屋で別の神から説明を受けておる、まぁしばらくすればまた会えるじゃろう」

「は、はい」


随分と取り乱してしまった自分が恥ずかしい。

どうやら私の中で、ライラさんの存在はすでに大きいものになってるみたいだ。

むぅ、なんか認めたくないような‥‥‥。

                                

「よし、それじゃあ説明していくんじゃがの、おぬしが最後に見た壁を砕いたものの正体はの、戦車の砲弾じゃ」

「せ、戦車!?」

「うむ、詳しく言うと10式戦車の120mm弾じゃな」


詳しく言われてもよく分からなかったが、このおじいさん曰く日本の最新戦車でとってもすごいヤツらしい。


「なんでそんなものが私たちのいたアパートに?」


そう、すごい戦車だということはわかったが、そんなものが平和な日本のアパートに撃たれる理由がわからない。

私の感じた疑問は、おそらく感じて当然のものだろう。


「それは、わしじゃなくおぬしの言っていたライラというものに聞くのがよいじゃろう」


ライラさん?すごい美人さんなのに中学一年生の私に変態丸出しで残念なあのお姉さんなら説明できるの?

でもそういえばあの時も、いち早くピンチに気付いて私を助けようとしてくれたし…。

だけどこの疑問も、聞くべき相手であるライラさんがいない今は放置しておくしかないのかも。

となると今聞くべきなのは‥‥‥。


「私は死んでしまったんですか?」


おじいさんの言う通りなら私とライラさんはきっと死んでしまっているだろうから、ここでこうやっておじいさんと話せているのは不思議だ。

自分のこと神様だって言っていたしここはもしかしなくても天国なんだろうか。

もしくはクラスの男子たちがよく話していた異世界転生とか転移とかいうやつなのかもしれない。


「いや、厳密にはまだ死んではおらんのじゃ。確かにおぬしらはあの時深い傷を負っていたから放っていたら死んでおったじゃろうし、普段ならそのまま放置しておったじゃろう。」


じゃが、という逆接とともにおじいさんは続ける。


「神の世界にもいろいろあってのう。死ぬ寸前だったおぬしらの体を修復してまた人生を謳歌してもらおうという話になっておるんじゃが、どうじゃろ?。最終的に選ぶのはおぬしなんじゃが……ちなみにもう一つの選択肢としてこのまま死を受け入れるというものもあるんじゃが?」

「私は…生きたいです、ライラさんともまた会いたいですし‥‥‥私にはお母さんと再会出来ていないのに死ぬことなんてできません!」


答えなんて決まっている。

お姉さんと出会う前の私だったらお母さんと会えなくなったことに絶望して前に進めなかったかもしれない、

でも今の私には一緒にお母さんを探してくれる人がいる!!

だから!!


「うむ。おぬしの気持ちはしかと聞き届けた。じゃが、元の世界でおぬしは死んだものと認識されているだろう、じゃから肉体の再生後は異世界に転移してもらう」

「まっ───


待ってくださいと言おうとした私の言葉はおじいさんの上げた手によって遮られた。


「おぬしの懸念は理解しておる、母親のことじゃろう?」


その通りである。

私はお母さんを探したいのだ。

異世界になんて行ってしまったらお母さんを探せるわけがない。

私がお母さんをさがしたいのを知ったうえで私を異世界に飛ばそうというのかこのジジイは。

                                     

「おぬしの母親が行方不明で警察の捜索でも見つかっていないのは、その母親がすでに異世界にしてるからなのじゃ。」


なんと‥‥‥

でもたしかにお母さんが異世界に転生していたらなら日本にいる限り見つけられるわけがない。

だけど今の私は異世界に行くチケットを手に入れている。

つまり‥‥‥


「お母さんを探せる!!」

「おぬしと一緒にいた者もきっと転移するじゃろう。二人で頑張るんじゃぞ」

「はい!!」


なんかいろいろあって少しショックを受けてたけれど、結局のところ日本にいたときとあまり変わっていないと思う。

私はライラさんと一緒にお母さんを探しに行くだけなのだ。

私が気持ちを上に向けているところで‥‥‥。


それと、とおじいさんは申し訳なさそうな顔をして言葉をつなげた。


「ライラという者に伝えておいてほしい、おぬしが記憶喪失なのはわしの部下のせいなのじゃ、本当に済まない。との」


……ライラさんが記憶喪失?おじいさんの部下のせいでってどういうこと?

降って湧いた疑問を解消する暇もなく、私の体は光に包まれていく。

おじいさんが「頼んだぞ」なんて言いながら手を振っていることから察するにこれは転移の前兆なんだろう。

光に包まれていく自分の体を、どこか他人事のように見ていると目の前に突然ゲートが現れた。

ここを通っていくのかなぁなんて考えていた私は、いきなり空中から出てきた若い男の上半身に腰を抜かしてしまった。

擬音をつけるとしたら『ぐばぁぁああ!』というような登場だった。


「おい!何をしとるんじゃおぬし!!」


おじいさんが、私が見たおじいさん史上最も大きな声で怒鳴る。

上半身だけしか出てきていない男が、何かの拘束を振り払うように藻掻もがいているが下半身までは出てこない。

なんだかベッドからぎりぎり届かない位置にあるマンガ本をとろうとしている人みたい。

この場所にいる以上はきっと神様なのだと思うけど…さっき話にあがった部下の人かな?


「おいガキ!!」

「うひゃあ!」


変なことを考えていたところにいきなり怒鳴られたから変な声出ちゃった。

私は大声を出した目の前の男をにらむ。

ちょっと迫力は足りないかもしれないけれど…。

私はこの男に言い返してやらねばならない、という決意をした。

神様だかなんだか知らないけれど何言ってもいいというわけではないのだ。


「中学一年生になった私をつかまえてガキですって!?ふざけんじゃないわよ!そんなこと言うあんたのほうが子供よ!!」


言ってやったと鼻息を鳴らす私の後ろでおじいさんが何やら『ベッドから漫画男』に、謹慎中じゃろ!とか、なんで出てきたのじゃ!バカモン!とかど怒鳴っている。

だがしかし『ベッドから漫画男』はそんなおじいさんを無視して、


「受け取れガキ!使い方を、間違えるなよ!」


なんて言って私に手のひらを向けてきた。

あまりにその手の勢いが強かったから思わずビックリして身を縮こまらせてしまった私だが、どうやらなにも起きない様子だ。

恐る恐る目を開け緊張を解く私。

目の前の男はイラついたように「終わったからさっさと行けよ!!」と吐き捨てるとどこかへと上半身を戻していく。

そのあんまりと言えばあんまりな態度にこちらも怒鳴り返す。


「と、登場も退場もかっこ悪すぎるのよこの変態!!せいぜいおじいさんに怒られなさい!!」


そしてやっと私の周りの光は急激に強くなっていき、おじいさんの「すまんの、おそらく今のは回復魔法の恩恵じゃ~」という声を聴きながら、今度こそ私は異世界へと転移したのだった。

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