詩集「ツキアカリ」

四ノ宮雪子

 蛍


蛍の命は水のよう


さらさらと美しく光りを返し流れては


やがて漫々たる紺碧の海原に出るだろう


その間、蛍は何を思う


ある時は大きく勇ましい鷹に


ある時は小さく煌めく海牛に


蛍はたくさんの夢を見た


夢を見ては覚めて、夢を見ては覚めて、


そして自分の命の限界に気づく


楽しい夢をたくさん見れた蛍は後悔しない


消えゆく燐火をお尻に灯しながら思う


でも蛍は満足しない


まだ、死にたくない


いつか、いつの日か


いつの日か大きな鷲のように


いつの日か綺麗な海牛のように


こうして蛍は叶わぬ願いを空に描いて


清らかで冷たい水の上で死にましたとさ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る