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■ 三章 ■
彼女との別れは唐突だった。
彼女は僕を護って居なくなった。
別れも告げる暇も無く、僕の前から消えた。
▼ 女嫐女(ハーレムサンド) ▲
それから――あっという間に迎えた週末。
金曜の夜、閉店後の喫茶店フォックステイルにて。
「と、いうわけで。明日から皆でどこかに一泊キャンプに行きます」
「唐突過ぎるよ!?」「前以て言っとけよ……」
驚くカサネと呆れ顔なイナリ。その反応が見たかった。
「おいツル坊! 急な事言い出すな! うちの看板娘無しに店はどうすんだよ!」
「うるせえハゲ! 臨時休業にしでもしとけ! 奥さんと二人の時間作ってやるってんだから逆に感謝しろ!」と、仕込み中の店主に娘の貸し出しを快諾して貰った後、
「因みに行き先はまだ決まって無いんだけど、候補はあるんだよね」
「決まってねぇのかよ……んで、その候補ってのは?」
「きつね島」
「なっ!?」と。僕の即答に、イナリは驚いたような顔になって、
「何でお前その島の事知ってんだ……? 尾裂狐の家の奴しか知らねぇのに……オヤジ、お前が?」
「……いや、俺は話してませんぜお嬢。多分、蜜(みつ)……ツル坊の親父経由じゃあ? アイツ最近、そこの足を踏み入れようとして長と揉めた経緯がありましたし」
「んー? イナリちゃんも父さんも、何の話してるの? きつね島って? 携帯で検索してもそれらしいのは出てこないけど」
カサネの声に、オヤジは「……他言するなよ」と釘を刺してから、
「きつね島は、尾裂狐に『今』所有権がある小さな島だ。地図には載ってなくて、一般人は立ち入り禁止な禁足地。主に尾裂狐の奴らの静養目的の為に、温泉やら娯楽施設やらが揃っている」
「へぇー楽しそう! でも、そんな場所があるならカサネに教えてくれててもいいのに! 父さんもイナリちゃんも人が悪いなー」
「……あたしも行った事ねぇんだそこには。お袋が立ち入りを許可しねーし理由も話さねぇ。お袋がそこまで頑なになるくらい、島にはヤバイ何かがあるんだろうが……」
「ふふん、イナリも気になってるようだね。――で、ここからが本題。風の噂によると明日から団体で尾裂狐家がきつね島に行くらしいじゃない。数人、増えても問題ないと思わない?」
「何だよ風の噂って……多分、お袋が許可しねぇぜ?」
「そこは僕が今、本人に訊くよー」 僕はスマホを取り出し、目的の人物を呼び出す。
「ツル坊……お前、『どういうつもり』だ?」
コールが鳴る中、横から訊ねて来るオヤジ。その言葉の意味は、この場じゃあ僕とオヤジしかわからない。でも僕は『何の事?』とすっとぼけるように首を傾げて、
「今を最大限に楽しんでるつもりだけど?」 本音で、応えた。
「……やっぱりお前、あいつのガキだな」
諦めたようにオヤジは僕から視線を切った。
『(ガチャ)はいはーい、どしたの鋏ちゃーん』
「お、出たね狐花っち。そんな訳で、僕らも明日きつね島連れてってー」
『……色々と順序立てて話してくれるかい?』
僕は今日までの出来事――トライデントの実験やら、その結果もたらされた変化など――を掻い摘んで説明する。
『何で君が明日の事を知っているのか……いや、まぁ『そうか』。で、その【ヒロイン三人】をあの島に連れて行く事の意味を、君が分かっていない筈がないよね?』
僕は――電話の内容は殆ど聞こえてないであろう――イナリとカサネを一瞥し、
「変な事を訊ねるねぇ狐花さん。意味? 行った所で『何も起きない』さ。僕は目の前に楽しそうなイベントが転がってるから、それを拾ってるだけだよ」
数秒の沈黙……を、経て、
『ふぅ。分かったよ、了解だ。明日、指定した時間に皆で港の方まで来てくれ。あ、くれぐれも君の父親は呼ぶなよ?』
パパンたら相当嫌われてるらしい。『やれやれ、悪い部分ばかりアイツに似てくるね』と狐花さんは締めくくり、電話を切った。
「はい、狐花さん快く了承してくれたよ! 明日が楽しみだね!」
「明らかに快くとかそんな雰囲気じゃなかったが……」
――その後。
モガミやユエちゃん、ついでにツムグにも連絡をして『OK』と確認を取った後、
「うひょー! カサネまたブラのサイズかわったー?」
「ちょっ!? ひとのブラをビローンて広げないで!」
「ちぇっ。お? うひょー! イナリったら同棲してた時よりブラのサイズでかくなってんじゃん!」
「流れるような動きでヒトのカバン漁んな!」
カサネとイナリ――元々カサネの家に泊まるつもりだったので着替えはあった――の旅行の準備を手伝ってやったりして……夜は更けて行く……。
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