第32話 ロリコンと幼女と修羅場
「……あれ、咲良先輩?」
日曜日、暇潰しにゲームでも見に行くかと中古ゲームショップに向かっている最中、電柱の陰に隠れて何かの様子を伺っている先輩の姿を見つけた。
その先には腕時計を見ながら店の前に立っている翔也の姿。
……また翔也のストーカーか? 彼女っていう立場にいるんだから堂々と一緒にいればいいのに。
「先輩、今日もお勤めご苦労様です」
「ひゃわっ!? 雨宮くんっ!?」
肩をびくっとさせた先輩は銀髪をなびかせて振り向いた。
というか、俺もよくストーキング現場に出会わすもんだな、おい。
「ビックリしました……」
「すみません。で、今日もやっぱり翔也を盗撮してたんですか?」
「……いえ、今日は偶然だったんですけど……あっ!」
「え? どうしたんですか……先輩……ん?」
なん……だと……!?
声を上げる先輩に釣られるように視線を翔也に戻すと、そこにはロリコンと一緒に立っている見覚えのない幼女がいた。
黒髪を低い位置でのツインテールにしていて、どことなくクールめいた子だ。
「あいつまさか……先輩というものがありながら、遂に別の幼女に手をかけやがったのか!? 通報しますか!?」
見た目的にはちょうど小学6年生ってとこか……! クソッ、奴にとってはちょうど食べ頃じゃないか!
「いえ、まずは証拠を押さえてから……じわじわと追い詰めましょう。話はそれからです。大丈夫、翔也君なら話せばきっと分かってくれますよ……うふふふ」
「先輩!? 俺より発想が過激なんですけど!?」
咲良先輩は目からハイライトを消してぶつぶつと翔也を追い詰める算段を呟き始めた。
前から思ってたんだけど、そのハイライトを消すのどうやってやってんの? 俺の周りの女子全員それ出来るんだけど……奏多とかな。
「あっ! 先輩! 星が動き出しましたよ!」
「追いましょう。そして、揺るがない証拠を掴むのです。私の写真部としての技術をフル活用してでも……あの泥棒猫を……」
「先輩落ち着いて! 消すのはハイライトだけにして! 人を消すのはまずいです! 犯罪です!」
そもそも、ストーカーも盗撮も犯罪だということは……今更だし、あえて言わない方がいいだろう。
うふふふふと薄ら暗い笑みを浮かべる先輩を連れ、俺は翔也と幼女を追いかけ始めた。
◇◇◇
「いいですか、先輩。くれぐれも事を荒立てないように。まだ勘違いだという可能性もありますので」
「はい。大丈夫です。私は元気です」
ダメかもしれない。もう心が壊れかけてしまってる。
一応、友達のよしみでフォローはしてやるつもりだけど、今でも既にギリギリすぎてやばい。
「あっ……笑顔で話してます……これは……?」
「大丈夫です。あいつは幼女相手なら、誰であろうと笑顔なので、セーフです。優男が女子相手にずっと笑顔を浮かべているようなものだと思ってください」
セーフだセーフ。誰がなんと言おうと幼女相手ならあいついつもあれだし、うん。
「あっ……肩を抱き寄せました……これは……?」
「大丈夫です。あれは前から人が来たので避けさせただけです」
……セーフだ。
「あっ……手を繋ぎました……これは……?」
「ギルティ」
流石にこれ以上擁護出来るか! あのロリコンめ……!
「あっ! 先輩!?」
有罪判決を下した瞬間、咲良先輩は翔也たちに向かって猛ダッシュし始めた。
ただ足が遅いせいで中々距離が詰まってないけど……。
「ぜぇ……はぁ……しょ、しょうやくんっ! ぜぇ……ぜぇ……一体……はぁ、どういうことですかっ!?」
「え、真穂ちゃん!? と大地!?」
先輩の息も絶え絶えな大声で翔也と隣の幼女が振り向いた。
「わ、私というものがありながら! どうして他の幼女のところに!? やっぱりちょっとだけ胸が膨らんだのがいけなかったんですか!?」
「そうなの!? それは死活問題だよ!」
「うん、まあ……そういうのは後にしてくれる?」
流石にそれだけで仲に亀裂が入るようなことはないだろうけど……というか成長が原因で別れたってなったらまず翔也に右ストレートかますわ。
まあ……成長の話より、今まさに関係に亀裂が入るかもしれないわけだけどな。
「そ、そうでした! どういうことですか翔也くん! 私というものがありながら!」
「ち、違うんだ! 真穂ちゃん! この子は僕の……!」
「言い訳なんて聞きたくないです!」
「どういうことって聞いたのは真穂ちゃんだよね!? いいから聞いてくれ! この子は僕の従妹だ!」
翔也の叫びが、修羅場の空気を切り裂いてどこかに飛んでいく。
「い、従妹ですか!? はわわ……私ってばとんだ勘違いを!? ごめんなさい!」
「ははっ……分かってくれればいいんだよ……」
「……しょーや、誰? この人たち」
しばらく黙って見ていた翔也の従妹らしい幼女が口を開いた。
「あ、こっちは僕の友達の雨宮大地。で、こっちが……」
「こほんっ……初めまして、翔也くんの彼女の咲良真穂です!」
そんなに彼女の部分を強調しなくても……というか本物の幼女にマウント取りにいくとか大人げない。
「……彼女? そうですか」
幼女の眉毛がピクリと動いたような気がした。
「ええ! 彼女です!」
「……自己紹介が遅れました。わたしは
大庭彩音と名乗った彼女は、最近僅かに育ったらしい胸を張っているなんちゃって幼女の前にずいっと踏み込んで……。
「――将来を誓い合った許嫁です」
爆弾を投下した。
即効性の爆弾はすぐさま爆発して、場の空気をビシリと破壊した。
「はぁ?」
咲良先輩……そんな低い声出たんすね……まじ怖いっす。
「……どういうことですか、翔也くん?」
「ひっ!? ほら、あれだよ! 幼い頃は娘が将来はパパのお嫁さんになるーみたいな!」
「違う……わたしは本気……しょーや、わたしをお嫁さんにしてくれるって言った。わたしのことは遊びだったの……?」
「いやそれは……! だ、大地! 助けて!」
「自業自得だろ。罪深いイケメン野郎め。恨むなら自らの性癖を恨め」
こればっかりはフォロー出来ん。
あと正直首を突っ込みたくない。
「じゃ、俺はこれで」
「えっ!? ちょ、ちょっと!? 大地!? ヘルプ! 放っていかないで!」
睨み合う2人の幼女と罪作りなロリコンを置いて、俺は走ってその場から離れた。
修羅場に巻き込まれるとか、まじ勘弁っすわ。
◇◇◇
「ただいまー……」
「あ、せんぱいおかえりなさーい。今日はどちらに?」
「ゲーム見に行く最中修羅場に巻き込まそうになったから逃げてきた」
「……しゅらば? まさかせんぱい……わたしを差し置いて……?」
「俺の話じゃないから目のハイライト消して臨戦態勢になるのはやめようか!?」
本当……それどうやってんの?
その後、翔也から一時的に乗り切ったという連絡がきた。
あの場を乗り切れるなんてあいつやべえな……一体どんな犠牲を払ったんだか……。
想像するのは怖かったので、俺はもう何も考えないようにした。
……強く生きてくれ。
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