ウ〇コ時間に読めるショートショート

けったいん

あの日のエロ本【4月2日をテーマにショートショート】

「あの…。今日からレジ袋は有料になります。」


レジで予想だにしてなかったそんな言葉を放たれた僕は咄嗟に、

「あ、じゃあ大丈夫です。」

と答えてしまった。


そんなわけで僕は今、ちょっとエッチな表紙の週刊誌を裸で持って

家まで帰っているという、なんとも目も当てられない状況に置かれている。

これもCO2削減のためだ、地球のためだと自分に言い聞かせるが、

週刊誌は変な手汗で少しふやけてきている。


踏み切りに差し掛かり、カンカンカンといつもの音が聞こえてきたところで、

「…あれ?昔もこんな状況なかったっけ?」

と、唐突にその頃の光景が蘇ってきた。


 ・・・


小学生の僕には、コウくんとタクちゃんという二人の男友達がいた。


コウくんは、歯の矯正をしている子で、それが彼のトレードマークだった。

しかし本人は、お母さんに将来のためになるからといって付けられたことを

ずっと愚痴っていた。


タクちゃんは、生まれた時から自閉症の傾向があると言われていたらしく、

少し変わった性格の子で正直クラスでも少し浮いていた。

かくいう僕も、少しぽっちゃりした体型で特に勉強ができるわけでもなく、

体育のドッジボールのチーム分けではいつも最後の方まで選ばれずに残っていた。


でも、そんな僕たちはとても仲良しで、何をするのも一緒だった。


放課後や休みの日にも三人で集まって、学校の愚痴を話したり、

教室では話せないような自分の夢の話などを沢山した。


みんなで集まる約束をしていたその日も、

僕は一番乗りでいつもの公園についていた。


その後すぐにタクちゃんがやってきて、

今朝の朝食のヨーグルトがいかに美味しかったかを僕に熱弁してきた。


そんなタクちゃんの話をいつものようにウンウン聞いていると、

ブランコの向こうからコウくんが走ってくるのが見えた。


何かを手に持って笑顔で走ってきているのは分かるが、それが何かまでは分からない。

それよりも、笑顔の隙間から見える歯の矯正の金具が太陽の光と反射しているのか、キラキラと輝いていてアニメみたいだなあと思った。


着いたなり息を切らしてコウくんが一言。

「ニセサツミツケタ!!」

僕はそれが、

「偽札見つけた!!」

だと分かるまで少し時間がかかった。


コウくんの手に握られていたのは、五百円とかかれたお札。肖像はしらないおじさんだ。

「これ偽札だよね?こんなのお母さんが使ってるの見たことないよ!」

とコウくん。


彼の実家はおじいちゃんの家と隣り合っており、

そのおじいちゃんの家の玄関にある古びた靴箱の下に落ちていたのを

たまたま見つけたそうだ。


五百円札なるものが昔はあったということを、こども図鑑か何かでみかけていた僕は、

「これは昔のお金だよ、使えるか分からないけど。」

と言った。


すると、それまでヨーグルトについて熱弁していたタクちゃんが

「じゃあそれを持って駄菓子屋に行こうよ!」

と言い出し、三人で駄菓子屋に向かうことになった。


しかし、当時の僕らにとって五百円は大金だった。

みんなで好きな駄菓子を買っても二百円とちょっと。

何を買おうか迷っていたときに、某青年向け漫画雑誌が目に入った。

二百円そこらで売っているその雑誌は、僕らよりちょっと上の歳の子が

よく見ていたもので、ちょっとエッチなページがあることを知っていた。

お金も足りる。


少し変な間があいて顔を見合わせた僕らは、その雑誌を手にとった。

変な罪悪感があったので早くお金を払って帰りたかったが、

そんなに時に限って店のお婆さんは暖簾の奥でお茶を啜っていた。


僕らは、

「ばあちゃん、ここに五百円置いとくよ!!」

といい、

「あ〜い」

というお婆さんの声を聞くこともなく走って店を出た。

常連の僕らだけがなせる技だ。


ちょっとエッチな本を買った罪悪感と、あのお金は使えたのかという不安を

掻き消すかのように、僕らは公園までの道を全速力かけていった。

それぞれのお菓子をポケットに詰め込み、その雑誌をはしゃいでパスしながら走る。


なぜか、持っているのがみんな恥ずかしいのだ。


手に汗がにじむ。公園に着いたときには、その某青年向け雑誌は

新品とは思えないくらいボロボロになっていたが、

それを三人で囲んで読んだときの楽しさは忘れられない。


「これは子どものための本だよな!」


そう言って笑い合った。


 ・・・


けたたましい音で目の前を電車が通り去ったあと、

踏切を渡った僕は懐かしくなり、その駄菓子屋にむかった。

駄菓子屋についた僕は、手に雑誌を持ったまま、あの時と同じお菓子だけを買った。


あれ以来すっかり行かなくなった駄菓子屋は、

お婆さんの娘さんらしき人が切り盛りしているようだ。


店を出た僕の手には、あの時と同じお菓子と、あの時よりもちょっとエッチになった雑誌。

もう、変な手汗は残っていなかった。


僕は、足取りを軽くしてあの時のいつもの公園に向かって歩き始めた。




コウくんとタクちゃん、今なにしてるんだろうなぁ。


誰に言うわけでもなく、そう小さくつぶやいた。



4月2日は、

#週刊誌の日

#CO2削減の日

#歯列矯正の日

#世界自閉症啓発デー

#五百円札発行記念日

#こどもの本の日


これらのキーワードをつなぎ合わせてショートショートを書いてみました。



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